【自己概念と経験の不一致】~ロジャーズによる「自己実現」の勧め
人間性心理学に、カール・ロジャーズという有名な人がいます。
今回は、その「自己論」について、少し触れてみます。
先ずは有名な、下図についてお話しします。
「Self-Structure」とは「自己概念」のこと。
「自分が自分のことをどのような人間であると思っているか」という、自己が認知する自己像のことです。
そして、「Experience」は「経験」です。
これは日々具体的に体験している、まさに生の経験のことです。
ロジャーズは、この「自己概念と経験の不一致」が、不適応状態を生み出すと考えました。左の図ですね。
それでは、適応状態を生み出すにはどうすれば良いのか?
それには「自己概念と経験を一致させていくこと」が必要だと考えます。
右の図のように、第Ⅰ領域の面積を大きくしていくことが必要です。
この図で、第Ⅱ領域は、経験をあるがままに受容せず、自己概念に適合するように捻じ曲げて認知した、歪んだ自己像を表します。
そして第Ⅲ領域は、自己概念に適合しないために、無視されたり否認されたりして自らが排除してしまった経験を表します(「俺はそんなんじゃないよ!」と弾いてしまう、その弾かれた客観的な経験)。
最後に、第Ⅰ領域は、捻じ曲げられたり否認されたりせず、あるがままに受け止めた経験を表すとします(自己概念と経験が一致して、調和がとれている領域)。
自己概念にもともと合致する経験は第Ⅰ領域に入りますが、自己概念に合致しない経験であっても、自己概念を柔軟に変更できれば、この第Ⅰ領域に入りうる、と考えます。
人には、「俺はこういう人間だ!」とか「私はこう考えることがポリシーなのよ!」といったように、自分から見る自分の像があります。
その、自分が認知している自己像と、生の経験との間における乖離が激しいほどに、強い葛藤が生まれます。
例えば、客観的に見て卑怯なことばかりするような人が、自分では自分のことを「俺は誠実だ」と強く思っているとします。
そのような場合には、「自己概念と経験の不一致」が生じているといえるので、その人の中では強い葛藤が生じることになります。
ですので、その経験がどのようなものであっても、それを拒絶したり、歪曲した上で自己概念に当てはめるのではなく、自己概念の柔軟性を維持し、その経験を受け入れることで、先の図の第Ⅰ領域を最大化させるようにすることが、何より重要になってきます。
これを、「自己一致(自己受容)」といいます。
つまり、「自己一致(自己受容)」とは、「経験に開かれた」精神状態のことで、自分の経験を自己にとって都合の悪いものも含め、あるがままに受け入れることだと言えます。
自分に都合の悪い経験を捻じ曲げたり否認したりせず、そのまま、あるがままに受け入れること、です。
そして、このように、自己一致(自己受容)しているときには、「十分に機能する人間(fully functioning person)」として生きることができる、と考えます。
「十分に機能する人間」とは、「経験をあるがままに受け入れることができるために、あらゆるできごとを適応的に対処し、環境刺激に惑わされずに、自己の内的な価値観や判断に基づいて行動できる状態」のことを言います。
このような「十分に機能する人間」になることによって、人間に備わる基本的な傾向である「実現傾向(actualizing tendency)」が発揮されるようになるとされます。
「実現傾向」とは、「自己の持つ可能性を追求し、自己を維持し強化する方向に全能力を発展させようとする傾向」のことを指します。
それによって、十分に自己の可能性を発揮できるようになった状態を、「自己実現(self actualization)」と言います。
この「自己実現」は、人が生涯目指し続ける目標です。
※心理学では「自己実現」という言葉が主に3種類出てきます。1つ目はユング、2つ目はこのロジャーズ、そして3つ目はマズローです。
※この三者のいう「自己実現」は、その概念がそれぞれの異なりますので、関心のある方は調べてみてください。またここでも取り上げるかもしれません。
※この中で、マズローの「自己実現」の用語法については以前ここで取り上げましたので、宜しければ読んでやってくださいませ。
ということで、カール・ロジャーズの考え方のご紹介でした。
特別に何かあったような場合のみならず、普段の何気ない一側面においても、意識していたい考え方ですね。
それでは、今回はこの辺で!
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