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名誉毀損罪における真実性の証明(230条の2)の位置づけ、その2。

前回は、名誉毀損罪(刑法230条)と、その免責要件が規定されている230条の2について、主に通説的な見解について書いてみました。

【参考】


今回は、更に発展させて、通説的な見解とは異なる考え方のひとつを見ていこうかと思っています。

通説的な見解は、230条の2を違法性阻却事由だと考えました。
対して今回ご紹介する考え方は、230条の2を、処罰阻却事由と考えます。

処罰阻却事由とは、犯罪の成立要件である、構成要件・違法性・責任を満たすことにより、当該犯罪は実体法上、成立するのですが、特定の要件を満たすことによって、その処罰のみを免責するというときの、その要件のことです。

230条の2を処罰阻却事由と考える学説の中でも、更に細かく分かれるのですが、今回はその中のひとつを見てみたいと思います。

この説は、先ず、「確実な資料・根拠に基づいて」当該事実の摘示を行った場合には、そのことだけで、35条の「正当行為」として、違法性が阻却されると考えます。
そのような確実な資料や根拠に基づいて行った事実の摘示ならば、それは保護に値すると考えるのです。

これは、摘示された事実が、真実か否かに関係ありません。どちらであっても、その事実の摘示が「確実な資料・根拠に基づくもの」であるというだけで、35条の「正当行為」として、違法性が阻却されると考えます。

逆に、当該事実の摘示が「確実な資料・根拠に基づいていない」場合には、原則的に、名誉毀損罪が成立すると考えます。

ここで、ひとつの例外が挙げられます。
すなわち、実際は「確実な資料・証拠に基づいていない」のにもかかわらず、「確実な資料・根拠があると誤信した場合」には、違法性阻却事由を基礎づける事実の錯誤として、(責任)故意を阻却する可能性が出てくるということです。

そのような錯誤がなく、名誉毀損罪が成立してしまった場合に、ようやく230条の2による免責の話が出てくることになります。
最初に書きましたように、ここでの免責とは「処罰の阻却」を意味します。名誉毀損罪という犯罪は成立してしまっているということが前提です。

この場面において、真実性の証明に成功した場合は、そのことだけで、処罰が阻却されることになります。
逆に、真実性の証明に失敗した場合には、処罰が可能ということになります。

以上が、この考え方の流れになります。

この考え方は、通説的な見解と比較して、非常にスッキリしています。
ただ、この論点における議論が、35条という刑法の総則的な規定で論じられてしまうので、その点がやや気になるところではあります。

これからも刑法の話を書いていきますので、その中で、また色々とお話をさせてもらおうと思っています。
これからも、お付き合いをどうぞ宜しくお願い致します!

それでは今回はこの辺で!


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