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名誉毀損罪(230条)において混乱しやすい点、まとめ。

名誉毀損罪(230条)についてネットなどで議論されているのを見て、混乱しやすいと思われる点を、以前書いたものを除いて、いくつか述べてみました。

事実の証明(230条の2)については、以下をご参照ください。

【参考】

一【名誉毀損罪の保護法益(外部的名誉か名誉感情か?)】

1 名誉毀損罪の保護法益

名誉毀損罪(230条)の保護法益は、外部的名誉(人に対する社会的な評価)と解されています。判例もこの立場をとっています(大判大15・7・5)。

その理由としては、名誉毀損罪の構成要件として「公然性」が要求されているところに求めることができます。

もし、名誉毀損罪の保護法益が「名誉感情」だとしたら、この「公然性」の要件は規定されていないと思われます。

なぜなら、「公然性」のない一対一の場面において名誉毀損的な言動をとられたとしても、その人の名誉感情は毀損されると思われます。
したがって、そのような場面での名誉感情をも保護したいならば「公然性」を要求してはならないことになるはずだからです。

そのような点からも、名誉毀損罪の保護法益は、外部的名誉と考えるべきだと思われます。

2 侮辱罪(231条)との関係

侮辱罪の成立にも同様に「公然性」が要求されています。
ですので、先程の議論がそのまま妥当します。

したがって、侮辱罪の保護法益も、名誉毀損罪と同様に「外部的名誉」だと解されます。

このように考えると、名誉毀損罪と侮辱罪との区別は、事実の摘示の有無に求めることになります。

ニ【被害者の外部的名誉が現に低下したことは必要ではない】

名誉毀損罪にいう「名誉を毀損した」とは、事実を摘示することにより、被害者の外部的名誉を低下させる危険性のある状態をつくりだしたことを意味します。

事実の摘示により、被害者の外部的名誉が現に低下したことは必要ではありません(抽象的危険犯、大判昭13・2・28)。

なぜなら、そもそも被害者の外部的名誉が実際に低下したかどうかを明らかにすることは不可能ですし、また、それを裁判所で認定することとすると、かえって被害者に酷なことになるからです。

三【真実性の証明(230条の2)に失敗した場合における処理】

名誉毀損罪の免責要件を規定した230条の2を違法性阻却事由を定めたものと解したとしても、真実性の証明に失敗した場合についての救済方法の理論構成としては、判例が述べている通り「故意」を阻却すると解すべきだと考えます。

よく混乱されている方をみますが、この場合は「違法性を阻却する」ではなく、あくまでも「故意を阻却する」ということになる点に注意です。

これについて、最高裁判例を見てみようと思います。

判例は、こういっています。
少し長いですが、ぜひ読んでみてください。

「刑法230条の2の規定は、人格権としての個人の名誉の保護と、憲法21条による正当な言論の保障との調和をはかったものというべきであり、これら両者間の調和と均衡を考慮するならば、たとい刑法230条の2第1項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく名誉毀損罪は成立しないものと。解するのが相当である」
(最大判昭44・6・25)

この場合における理論構成については、またの機会に述べてみようと思っています。

冒頭に載せておいたリンクの記事中に、この点に関して少し述べていますので、ぜひ参考にしてみてください。

ということで、今回はこの辺で。

混乱しやすいと思われる点は、まだ他にもありますので、今後補充していこうと思っています。その際もどうぞ宜しくお願い致します。

それでは!


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