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名誉毀損罪(230条)における『事実の摘示』について。

今回は、名誉毀損罪(230条)における「事実の摘示」という要件についてみていきたいと思います。

この論点もなかなか難しく、整理しにくい箇所だと思いますので、できる限り理解しやすく書くように努めますので、お付き合いを宜しくお願い致します。

【参考】

それでは、みていきます。

①名誉毀損罪の場合は、具体的な事実を摘示することが必要(侮辱罪との違い)。

名誉毀損罪の成立には、特定の人の人格的価値に対する評価を低下させる、具体的事実の摘示が必要となります。

摘示された事実が具体性を欠く場合には、侮辱罪の成否のみが問題となります。

したがって、「馬鹿」「阿呆」など、具体的事実ではなく、抽象的な評価がその核心を成しているような表現の場合は、名誉毀損罪の問題とはなりえず、侮辱罪のみが問題となります。

②摘示した具体的事実が真実であるか虚偽であるかは問わない。

230条の文言に「その事実の有無にかかわらず」とあるのは、この意味を指しています。

このように、摘示した事実が真実であっても原則として名誉毀損罪が成立するということは、本規定は原則として虚名まで保護する趣旨であるということを意味しています。

したがって、虚名を暴くために真実を述べても、それが被害者の社会的評価を毀損するに足る具体的な事実であるならば、原則として名誉毀損罪が成立するということになります。

③摘示した具体的事実が、公知の事実でも非公知の事実でもかまわない。

摘示した具体的事実が公知の事実であっても、公知であることにより既に低下している社会的評価が、それよりも更に低下してしまうことがあるから、と考えます。

④信用毀損罪(233条前段)との区別。

信用毀損罪にいう「信用」とは、人の経済的側面における社会的評価を指します。
具体的には、「支払能力」「支払意思」「販売する商品に対する社会的信頼」などを意味します。

したがって、上記のような意味での「信用」は、名誉毀損罪では保護されていません。

⑤具体的事実を摘示するための方法・手段。

摘示の方法や手段には制限がありません。
したがって、口頭・書面・図画による場合はもとより、姿態や身振りによって摘示することも含まれます。


ということで、今回はここまでです。

考えていけば、論点は更に増えていくことだと思います。
それらは、またの機会に触れてみたいと思っています。

名誉毀損罪をめぐる様々な議論を行うにあたり、最低限の知識として上記の事柄を理解しておくことは有益なことだと思います。

他方で、「このような言動なら名誉毀損罪にはあたらない」とか「この表現だと名誉毀損罪にあたる」などということを(断定的に)書くことはできないと思っています。

当然ですが、事案ごとに、それを構成している事実や条件が異なりますので、一概に「この表現の場合はこうなる」とはいえないものだからです。

たとえ、ある程度の「場合分け」的なことが可能だとしても、ここではそれをせず、名誉毀損罪を含む刑法という法律を考える上で、その根本となる基礎的な考え方を提供していくべきだと思っています。

名誉毀損罪については、まだもう少しみていくことになると思います。
宜しければ、どうぞお付き合いください。

それでは、今回はこの辺で!


(参考文献)

「講義刑法学 (井田良・有斐閣)」
「刑法講義各論  (大谷實・成文堂)」
「刑法各論 (高橋則夫・成文堂)」
「刑法各論 (松原芳博・日本評論社)」




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