ターンテーブルにアンチョビのピッツァを乗せて


 ターンテーブルにアンチョビのピッツァを乗せる。
 回転するプレイヤー、12インチのピッツァ。
 落とし込まれる針、再生される過去。
 レコードの針は哀れなアンチョビを絡めとる、一匹、また一匹。
 暗い窮屈な缶詰の話、隙間隙間に潜り込む重い意識のようなオリーブオイルの話、あるいは遥か昔、海底の話。
 ソニーの大きなスピーカーは仰々しく、彼らの声を聞かせる。

「ウーー、ウゥーーー、ウウゥー、ヴェーー、ヴィヴィヴィーーー、ヴィウウーー、ウウーー……」


 あらかたはそんなところ、
 彼らの声が意味するところは、誰にも分からない。

 言葉は回転し続ける。
 終わりも始まりもない。
 あなたがそれと本気で向き合ったならば、
 あなたは意識の中心へと溶解していく。

「ヴィーーヴィヴェールル、ヴヴィーーウウ、ヴヴィウゥーーー、ウウゥー、ヴェーー、ヴィヴィヴィーーーヴィ」

『“そういうこと”じゃないんだ。 
 全く分かっていない。
 気にしなくていい。
 君は正しい。
 いい調子だ。
 どんどんやれ!』

 根拠のない自信は、不思議なリズムと調和していく。
 アンチョビのピッツァが回転し続ける限り。
 しばらくは、君と彼らの思う通りだ。

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