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【アジア横断バックパッカー】#55 10ヵ国目:イラン-テヘラン→タブリーズ 移動して宿を確保するのはバックパック旅の最小単位

 バックパックを背負ってメトロに揺られていると、おっちゃんが席を譲ってくれた。旅人に優しいのか、僕が大変そうに見えたのか。
 昨日来たバスターミナルに再び降り立ち、乗り場を目指して歩いていると、前を歩いていた父子がちらちら僕を見ていることに気付いた。ついに父親が立ち止まって話しかけてきた。
「息子と一緒に写真を撮っていいかい?」
 息子はまだ小さかった。快諾し、肩を組んで写真におさまった。
 父子に手を振って別れながら、見ず知らずの外国人と一緒に写真を撮るのは一体どんな気持ちなのだろうと考えた。

 発車15分ほど前になり、タブリーズ行きバス付近をうろついていると、おっちゃんがバスまで案内してくれた。見た目がかなり胡散臭かったが、バスのスタッフだった。席は1列で、広くて快適だった。
 次第に乗客が増えてくると、お菓子とジュースの詰まった袋を持った男が乗り込んできて、乗客に配りだした。サービスかと思ったら後でお金を請求された。別に騙しではないが、そういう商売らしい。とりあえず50万リヤル札を差し出すと、お菓子とジュースをもう1セットと、35万リヤルのお釣りをくれた。お菓子とジュースを2つづつで15万リヤルは高すぎる。ほかの乗客は拒否していたので、3度男が回ってきたときは僕も断った。

 定刻を40分ほど過ぎたところでやっとバスは動き出した。動き出したのはいいが、あちこちで停車しては乗客を拾っているのでなかなか進まない。これはどの国でも一緒だった。スタッフは開いたドアから身を乗り出し「タブリーズタブリーズタブリーズ」と連呼している。
 
 さっきの胡散臭いスタッフのおっちゃんは1番前の席の僕に何かと気を遣ってくれ、しょっちゅうチャイを注いでくれた。チャイが入っているポットと、例の砂糖菓子の入った箱もちゃんとバスに準備されている。
風景の中に建物は少なく、草原や砂漠が多かった。道はひたすらまっすぐ伸び、日差しが遮るものがない地表を照らしている。

 SAのようなところで昼休憩のため停車した。僕はさっきのお菓子を食べ、ジュースを飲みながら道を眺めた。僕の乗っているバスの隣にテヘラン発イスタンブール行のバスが停車している。テヘランからイスタンブールまでどの位かかるのだろう。どっちにしろ「Istanbul」の文字が目に付くところまで僕はやってきたのだ。

 タブリーズには夜の7時半ごろ到着した。まだかなり明るいので僕はほっとした。
 タブリーズバスターミナルはちょっとした空港くらいの規模があった。おそらくここからタブリーズを発つことになるのでチケットを調べておくことにした。
 トルコ行きのバスを運営しているのは1社だけだった。カウンターの後ろの電光掲示板に「Istanbul」や「Ankara」の文字が表示されている。
 イスタンブール行は毎日あり、アンカラ行は「Sunday-Tuesday」となっていた。
「アンカラ行は日曜から火曜だね?」
 スタッフの男性に尋ねると、そうだ、と頷いた。ついでにチケットは当日買うので大丈夫か、前日までに買っておいた方がいいのかと尋ねようとしたが、うまく伝えられなかった。まあ大丈夫だろう。

 このままイスタンブール行に乗ってもいいのだが、それでは味気ないような気がした。何しろ今回の旅のゴールなのだ。ちゃんと気持ちを作ってから行きたかった。僕はそういう儀式めいた事が好きなのだ。
 今日は日曜日、明日か明後日ならアンカラ行がある。アンカラで1泊し、鉄道でイスタンブールへ向かうことにした。アンカラで勿体をつけ気持ちを作り、いよいよという感じで鉄道でイスタンブールに入る。何ともドラマティックな旅の終わりである。
 僕は満足してバスターミナルを出た。

 街中まではバスがあるらしいのだが、人に訊いても見当たらない。英語が通じにくいのも一因だった。あきらめてタクシーを探す。街中の安宿まで行ってもらうことにした。
「Darya Guesthouse」の前でタクシーが停まった。ネットで見たことのあるゲストハウスだった。やはりバックパッカーが泊まる宿はたいてい決まっているらしい。
 階段を登って受付へ行くと、人の好さそうな青年が座っていた。ドミトリーはなく個室のみで、シングルは49万リヤルだった。
「もうすこし安くならないかなあ。40万リヤルにならない?」
 僕は値切った。テヘランでドミトリーが40万だったことを考えれば個室で40万は決して高くはなかったが。
 青年は少し考えると、どこかに電話をかけ、二言三言話すと僕に電話を差し出した。
「オーナーはパパなんだ。パパに訊いてみて」
 電話を受け取るとそのパパらしき人物とつながっていた。
「あのー、シングルルーム、40万リヤルになりませんか」
 僕はとりあえず言ってみた。
「君は日本人かい」
 電話の向こうでパパが言った。
「ええそうです」
「それならオーケーだ。私は日本人が好きなんだ」
 青年にその旨を伝えると、青年はにっこり微笑んで部屋へ案内してくれた。(続きます)

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