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【アジア横断バックパッカー】#52 10ヵ国目:イラン-テヘラン ややこしい「イラン・リヤル」と綺麗なイラン地下鉄

 白タクの男は僕の前をスタスタと歩いて行く。さて何と言って断るか。街中まで地下鉄があることは知っていた。その地下鉄がかなり安いことも。だが万が一男のタクシーが良心的な価格なら、面倒だから乗っても良かった。ついでに安い宿まで連れて行ってもらってもいい。泊まるか否かは着いてから決めればいいのだ。

 男の車はオンボロの白い乗用車だった。男がトランクを開けたところで僕は訊いた。
「シティーセンターまでいくら?」
「20ドルでどうだ」
 予想は出来たが、良心的どころではない。僕は一応交渉してみた。
「高いなあ。10ドルでは?」
「それはだめだ、20ドルでないと」
「街中までどの位時間がかかるの」
「1時間くらいだな」
 少し考えたが、考えたところで相場は分からない。面倒なら乗ろうかとも思ったが、空港で外国人旅行者を待ち構えている白タクの面倒さは、初めてミャンマーへ行ったときに身をもって学んでいた。また厄介に巻き込まれるのはごめんである。やはり乗らないのが得策だ。
「やっぱり乗らない」
 僕が踵を返すと男は驚いてついてきた。
「待て、マイ・フレンド!わかった、10ドルでいい。トラスト・ミー!」
 結構しつこく「マイ・フレンド!」と連呼しながら追いかけてくるので怖くなり、足早に空港へ戻った。マイ・フレンド、トラスト・ミー、この2つを発する外国人には要注意である。ドント・ウォーリーにも注意が必要だ。
 空港に戻り、落ち着いて両替所を探すとあっさり見つかった。当たり前である。空いていないはずがない。

 とりあえず50ドル両替した。イランの通貨単位「リヤル」は桁が多い。ベトナムドンも多いがイランリヤルはもっと多い。20万リヤル、50万リヤルなどがある。
 旅に出る前、各国の通貨単位を表にまとめ、印刷して持ち歩いていた。2018年6月当時は40万リヤルが大体1000円くらい。

 イランリヤルはややこしい。桁数が多いことはもちろん、リヤルとは別に「トマン」という数え方があるのだ。単位ではなくあくまでも数え方である。10リヤルが1トマン、つまりリヤルからゼロをひとつとるとトマンになる。10万リヤルは1万トマン、4万トマンが約1000円。
 面倒なのは買い物をして合計金額を訪ねた時。電卓で「50,000」と示されたとする。
「5万リヤルか、安いなあ」と思っていると、リヤルではなくトマンの場合がある。5万トマンなら50万リヤル支払わなければならない。じゃあと思って「100,000」と表示されたのを「え、10万トマン!?100万リヤルもするの!?」と思ったら10万リヤルだった、なんてこともあり得る。支払いの際には「それはリヤルか、トマンか」を確認しないといけない。

 慣れないうちは分からないが、大体の相場観がつかめればいちいちリヤルかトマンか確認しなくても済む。スーパーで買い物をしても、まあこれくらいなら大体1000円くらいだろうから、何リエルだな、くらいはわかるようになってくる。

 両替を済ませるとまずインフォメーションで街中までの行き方を訊いた。やはり地下鉄が走っているらしい。乗り場も教えてもらった。自分の力で道を開いているという充足感が満ちてくる。インターネットでも調べられるが、やはり人に訊いたり、足で探す方が旅の充足感は得られる気がする。
 
 地下鉄の乗り場についたが、どうすれば乗れるのか分からない。そもそも街中に通じる駅名すら分からないのだ。ちょっとうろうろしているとおじさんが近づいてきた。シティーセンターまで行きたいんだけど、と告げるとおじさんが壁を指さした。路線図が貼ってある。街中に行くには「イマームホメイニー駅」で下車すればよく、乗換の駅も教えてくれた。
 チケットはたったの6千リヤル。20円ほどである。
 地下鉄だから数分に1本くらいあるのではと思ったが、1時間に2本程度しかなかった。後で分かったが、今から乗るのは地下鉄ではなく、地下鉄駅まで行く電車だった。
 出発まで1時間弱あったので、待合室で待つことにした。広い会議室のような待合室で、僕以外誰もいなかった。
 
 椅子に腰を下ろすとまた眠気が襲ってくる。目を閉じるとすぐにうとうとした。
 やがて時間になり地下に降りた。駅は綺麗に整備され、停車している電車も日本と同じくらい綺麗だった。イランの電車事情はとてもいいようだ。かなり空いている。

 電車はゆっくりと走り30分ほどで停車し、乗客がみな降り始めた。終点らしい。降りたところは地下で、ここで地下鉄に乗り換えるようだ。買っておいたビスケットを食べながら待つ。何人かのイラン人がちらちらこちらを見ているのに気づいた。旅行者が珍しいのだろう。地下鉄に乗ると何人かが話しかけてきた。大きなバックパックを持っているので、僕が空港へ向かうと思ったらしい。この地下鉄は空港とは逆方向だと教えてくれた。いや、イマームホメイニー駅に行くんだと言うとみな納得した。

 珍しかったのは、地下鉄でも物売りがいることだった。東南アジアやインドでよく見たような食べ物ではなく、髭剃りとか制汗スプレーとか雑貨が多かった。髭剃りを電車内で買う人がいるのだろうか。

 面白かったのは後日別の地下鉄で、電動砥石を売る男を発見したときだった。モーターで砥石が回転して刃物が研げる。その男は何やら前口上を言った後、ひもでつないだカッターの刃を実際にその場で研ぎ始めたのだ。回転する砥石から結構な量の火花が散っていた。いつも無関心のイラン人もその時ばかりは見入っていた。買うものはいなかったが。(続きます)

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