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05.16

今日は7時に起床して、しばらく布団の中から動かなかった。
それは寝ているあいだですっかりあたたかくなった掛け布団のぬくもりが心地よかったから。
お母さんのお腹のなかにいたころは毎日こんなあたたかさや、やさしさに包まれていたんだろうなとぼーっと考えてみるけれど、お母さんのお腹のなかにいたころの記憶がこれっぽっちもないので説得力がまったくないままそう思うことにした。
お母さんのお腹のなかにいたことは、この世に生まれた誰もが経験していることではあるけれど、その時の記憶が残っている人はいるんだろうか?

話はまったくかわるけれど、書いていてパッと"春巻き"があたまのなかにやってきた。
春巻きのなかに包まれた具材のひとつひとつもぼくが掛け布団から感じたあたたかさや、やさしさを感じているのだろうか。
春巻きになったことのある人はおそらくいないだろうから、春巻きを作り続けている中華料理屋さんのベテラン店主だったらなにか知ってるんだろうか。

そんなことを考えると次にあたまのなかにでてきたのは、小太りだけど逞しい二の腕を胸の前に組んで仁王立ちでこちらへ微笑んでいる中華料理屋の店主らしき人だ。
この人はぼくの記憶の中からでてきた人なんだろうなぁと思い、いままで行ったなかで美味しかった中華料理屋さんを思い出してみると、
あぁ!いたいた!ぼくが大学時代をすごした京都でほぼ毎日お世話になった麻婆丼を1分で作ってくれるあの店主がいた!
そっくりというかそのままだった。
チャーハンも結構量があって美味しかったな。
そうか、あの人ならたしかに春巻きの真髄を知ってそうだ。
はたしてまだお店はやられているんだろうかとすごく気になったので、また京都に行った時に友人とふらっと訪ねてみよう。そう思った。

掛け布団のぬくもりから京都の話題がでてくるとはおもってなかったけれど、つまり言いたいことはとにかく朝起きてからがすごく気持ちよくてすぐに起きることができなかったということだ。ベッドから降り立つといつもの倍速で会社員のぼくへと変身し、いつもの時間にいつものバス、電車を乗り継ぎ会社へ向かう。
朝はやっぱり苦手だ。
そう思った。

クリームブリュレ

定時の18時を少しまわって帰社し、やる仕事を終わらせて同じように仕事を終わらせたぼくの大好きな上司と仕事終わりの会話をはじめる。実はこの時間が個人的には大好きということは上司には恥ずかしくて言えないのでここで吐き出すことにしておく。
いつもの会話のはじまりは、帰社が遅くなるほど時間がかかってしまったぼくの商談はうまくいった?という仕事に関する話題からだった。
商談自体は契約成立ですぐにまとまったんですが、訪問が隣の市だったため片道約50分に加えて会社帰りの車の渋滞に巻き込まれちゃったので遅くなりましたと簡潔に報告すると、訪問先遠いと遅くなりがちだよな。おつかれさん。と労いの言葉をかけてくれた。嬉しかった。
すると突然、上司がいきなり姿勢を正してかしこまって、

「いきなりこんなこというのも何やけど一個聞いていい?」

正直びくっとしたし、次に上司の口から発せられる言葉が怖かった。仕事辞めようと思ってんねん。とかだったらぼくは立ち直れないし、今日会社から帰る自信がない。だから動揺をしっかり隠してほんの少しの笑みを含みながら答える。

「な、なんですか?いきなり!」

うん、動揺なんか隠せてなかった。するといよいよ上司の口から言葉が発せられた。

「クリーム…クリームブリュレっていえる?」

思わず笑いそうになった。腹を抱えて笑いそうになった。

「言えますよ。クリームブリュレ。ほら!」

言えた。すらすら言えた。
すると上司がひとこと。

「おれな、クリームブリュレが言えへんねん。
クリームブリュレのブリュレが難しくてさ。」

「ブルレになっちゃうとかですか?」

「そうやねん。ブルレか、もしくはブリルレになっちゃう。」

「ブリルレ…(爆笑)」

ブリルレの思わず可愛らしい表現につぎは地面をのたうちまわるかのように笑いそうになる。ただ、ふと幼い頃にみた明日使えるムダ知識の宝庫である"トリビアの泉"の早口言葉に関するムダ知識をどこからか引っ張り出してきたぼくは、上司へと無駄知識を披露する。ムダ知識がはじめて人の役に立った瞬間だった。

「むかしトリビアの泉でやってたんですけど、  「ぼくドラえもん。」ってドラえもんが言うように早口言葉を言うと言えるらしいですよ。
クリームブリュレー。ほら!」

「なるほどなー。クリームブリュレー。
ほんまや!ブリュレ言えてる!」

そして2人でやっと腹を抱えて笑いあったと、同時にはじめて明日使えるムダ知識が役に立ったことに心から優越感を感じていた。
いきなりかしこまった上司から"クリームブリュレ"なるおそろしく可愛すぎる言葉が飛び出てきたことにかなり驚いたけれど、おそらくクリームブリュレを食べる機会があったんだろうなとすこし羨ましくなる。

すっかりクリームブリュレを食べたくなったぼくは帰り道にマックスバリュに寄ろうと少しばかり考えてバスを降りて立ち止まったけれど、こんな時間から食べたら太っちゃうよなと思い購入を見送った。
足取りは重くなるかなと思ったけど、めちゃくちゃ軽かった。なんならバス停から自宅まで走って帰った。

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