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03.22

朝7時に起床。洗顔、歯磨き、そして髪を整えたらスーツへ着替える。今日はネクタイも締めていく。そして会社員としてのぼくになったら、オールブランをお皿に移し入れ、牛乳を注ぐ。入れすぎるとオールブランがフヤフヤになるからここは注意する。そうしてサクサクの食感が残ったオールブランを頬張る。美味しい。いよいよ食べ終わったらお弁当と水筒をリュックに詰めて出発する。
「今日も行ってきます。」


貨物列車

最寄駅に着いたので電車を降りる。駅に降りたと同時に通過の貨物列車がガタンゴトンガタンゴトンと音を立てて通り過ぎる。ホームで電車を待つ人はそれをぼーっと見つめている。もちろんぼくもその1人。通り過ぎる貨物列車を眺めながらひとり、ぼんやりと空想していた。

遠くからやってくる貨物列車が視認できたから、もうすぐこの駅を通過するだろう。僕にとってはこの貨物列車を逃すと遅刻が確定するからどうしても飛び乗らないといけない。迫り来る貨物列車を前に万全の状態で飛び移るために、ストレッチは怠ってはいけない。そう思った僕はとりあえずアキレス腱のばしと屈伸を1人ホームでやりはじめる。まわりの人は"この人何をしているんだろう。"と不思議な目で見つめる。またあえて見ないふりをしてる人もいる。でもそんなの関係ない。これを逃すとぼくにとっては遅刻が確定する。だから人の目なんて気にしてられない。そうやって体全体の筋肉という筋肉をのばしきり、からだを万全の状態に整えることに集中する。

いよいよ貨物列車が近づいてきた。速さはおよそ時速100kmくらいだろうか。かなり速そうだ。しかも貨物列車の終わりが見えない。ということはだ。駅を通過しききるにはだいたい1分から2分くらいかかるだろうから、それだけ時間の猶予があると考えることができる。だからまず、時間の使い方を考えてみることにした。通過時間が1分という最短のケースと仮定して、まず最初の10秒で後続の貨物部分の貨物数を確認する。そしてある程度イメージができたら、のこりの45秒を使って自分のタイミングで飛び移る。通過時間が2分だったとしても1分で飛び移ることができる計画だ。では次に飛び移る時の入射角も考えておかないといけない。貨物の進行方向に逆らって飛び移るのは危ない。昔学校で"慣性の法則"を習ったのを思い出す。バスが停車する時、乗っている人はバスの進行方向と逆向きの力を受けるというアレだ。だから、進行方向と逆向きで飛び移るとおそらくこける。いや、絶対にこけて落ちてしまう。それは避けたい。じゃあどうするか。進行方向と同じ方向で飛び移ればいいのだ。あとは飛び移りはじめる角度だが、これは45度でいけるだろう。"進行方向に沿って45度で飛び移る"これでいこう。
ここで計画のおさらいだ。
最初の10秒で貨物列車の貨物数を確認、貨物ごとの感覚を把握し、飛び移るタイミングを見極める。そして進行方向に沿って入射角45度で飛び移る。完璧だ。きっとぬかりない。

そしてついに貨物列車が駅をガタンゴトンと通過しはじめる。先程練り上げた計画通り、後続に続く貨物部分の貨物数をまず把握する。今回は貨物数はかなり少ないようだ。5両ごとに貨物が1つ積んであるように思える。だから貨物一両がぼくの前を通過したタイミングで飛び移れば乗車できるだろうと考えるのが妥当だろう。そしていよいよ実行に移す時がやってきた。先程考えた入射角45度を頭のなかでしっかりイメージする。見える、見えるぞ。自分の頭の中で飛び移る方向が矢印となって見える。
そして貨物一両が目の前を通過したタイミングで僕は空高く飛び上がる。ホームで通過する貨物列車を眺める人たちから悲鳴が上がる。でもこの貨物列車を逃すと遅刻してしまう僕にとっては、そんな悲鳴でさえも応援の歓声に聞こえる。そして高く飛び上がった僕は貨物車両への着地に備えることに全集中を注ぐ。ハードル走のように飛び上がったから、まず右足から確実に車両を捉えないといけない。そのため持てる力を僕の右足にこめる。そして右足が貨物車両をついに捉えたと思ったと同時に前にのめり込むようにして倒れ込み、そしてそのまま振り落とされそうになる。予想外の慣性の力が働いたんだろうか。いや、こうなる運命だったのか?倒れ込んだ僕は、このまま振り落とされてたまるかという一心で無我夢中に捕まるところを探すが捕まるところがない。詰んだ。そしてそのまま貨物車両から振り落とされた。あぁ、これで遅刻確定だ。


「おはよう。」
そう言ってだれかがぼくの肩を叩き、現実に引き戻される。通勤道中が一緒の上司に声をかけられたようだった。現実に戻ってみて改めて、さっきまであたまのなかで空想していた貨物列車への飛び移り通勤は危険極まりないからやめておこう。そう思った。
貨物列車の件についてはまだだれにも話していない。恥ずかしさだろうか。
いやでも、たまにこういう空想はよくするのである種の誇らしさというのは個人的には持っているつもりだ。

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