見出し画像

蘇る「好き」

「あきとさん、今日はほんとに話してくれてありがとう。」

彼の手を握って、高く握っていた、あきとさんの拳が解れ、私の手を握り返した。

「あきとさん、私は封印してた過去の記憶がいきなり全て戻って、正直焦ってる。今、なんて答えればいいのか分からないっていうのが正直な気持ち。」

「うん、そうだよね。きっと。」

「ごめんね。でも、本当に好きだった。多分、今でも好き・・なのかな?分からない。」

「いいよ。大丈夫。れいちゃんの中でゆっくり考えてくれたらいいから、また会ってくれる?合わせるから。」

「うん。分かった。ありがとう。」

ふと時計を見ると、気づいたら、ラストオーダー直前

「もう、行こうか。私、明日も仕事だから。」

「そっか。そうだね。ごめん、こんな時間まで。会計しよう」

「うん。」

そう言って、お会計をもらうと、

付き合わせたお礼と言って、あきとさんが支払いを済ませ、私は「次回は私ね!」と言って、お店を出た。


エレベーターを待つ間、会話はなかった。

もうお互い話しきったという感じなのか・・。


エレベーターが到着して、乗り込む。


ロビー階のボタンを押す手が重なる。

ーーーまずい。やばい。

自分の中でSOSが鳴る。


警戒心のSOSじゃない。

ーーーこのまま好きになる、また愛してしまう。ーーーー

というSOS。


いつもそうだった。

彼との仕草がいつもタイミング良く重なるときは、私は彼に「何か」を感じていた。


触れ合った手を見た後に、あきとさんを見上げる。

あきとさんと目が合うと、もう止められなかった。


私は、

「本当に、良かった。」

と涙を流して、あきとさんの胸に顔を埋めていた。


「ごめん、本当にごめん。」

とあきとさんが私を抱きしめた。

お互いに肩を震わせて、目に涙を浮かべて、頬を濡らしながら。


しかし、そんな余裕を与えてくれないエレベーターは、

あっと言う間にロビーへ到着。


開くドアと同時に離れ、出口へ向かう間に私がスマートフォンを忘れたことに気づく。


「待って・・・。ごめん。ケータイ忘れた・・。ごめん・・!私取りに行ってくるから、先に帰って!」

「いや。ここで待ってる。」

「そう・・ごめんね!」


ちょっと、心のどこかで「俺も行くよ!」を期待していた私はがっかり・・。

エレベーターに乗り、ラウンジがある階を探し、ボタンを押す。


閉まるドアが突然開く。あきとさんだった。


「え・・・・?」

「行くよ!一緒に。笑」

何かすべてを見透かされているようで、少し悔しい。

でも、嬉しい。


またエレベーターでの密室。


仕掛けたのは私だった。


隣に立つ、あきとさんの手を握った。


少し驚いた顔をして、私をチラ見する。


握り返してきた手を、私は強く握り、

「もうずるいもん。好きだもん。私。ずっと。」

そう言うと、あきとさんの顔が近づいてきて、私にキスをした。


触れるか触れないかくらいの軽いキスの後に、

「俺も好きだったもん、多分れいちゃんよりずっと、必死に。」

その言葉を聞いて、舌を交わすキスをした。


でも、そう。エレベーターは空気を読んでくれない。


ラウンジに到着してしまう。


私はスマートフォンを受け取り、あきとさんの元へ戻る。


そして、また、そう。また、エレベーター。

エレベーターに乗ると、もう数分前に乗ったときの感覚とは違っていて、その差に少し自分でも驚く。


「れいちゃん、一緒にいたい。」

「ん?そうだね」

「今日。一緒にいたい。」

「今日?!」

「うん。この余韻、一人でこの後味わうのなんか嫌だ。この後一人になるのが嫌だ。」

「うん。分かるよ。」

「何もしないって約束するから、この後も一緒にいてくれない?」

「私も、何もしないって約束するから、一緒にいようか。」

「なにそれ。笑 お願いします。笑」


結局は笑い合いながら、私達はその日このホテルに1日お世話になることになった。


互いの約束が守れるのか・・・?守れないのか・・・?


そんな賭けを自分の中で密かにしていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?