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私の苦痛の告白と彼の涙

「いいよ。れいちゃん、話して。」

一回深呼吸をする。


ーー落ち着け、自分。


「あきとさん、全部仕事のせいなり、バンド、私のせいにしてない?」

「え?」

「私がそんな物事わからない人だと思った?いきなり目の前から消えて、そもそも私は男性に裏切られて、傷つけられてボロボロだったときに、あきとさんと出会って、初めてを捧げて、付き合って。そんな人がいきなりいなくなったときの私の感情を考えたことある?」

「・・・・・」

「事務所にこう言われたから、バンド仲間にこう言われたから、私が高校生だったから、私がどんな風に受け止めるか分からなかったから。そしたら自分がどうすればいいか分からなかったからってことでしょ?」

「・・・」

「何も状況も分からず、放り出されて、遮断されるのが一番つらいに決まってるじゃん。自分の夢を叶えたいなら、その時付き合ってた女くらいスパッと自分で切れるくらいじゃないとダサくない?」

「スパっと切れる関係じゃなったから・・・」

「俺が、でしょ?私は、そう言われて、夢を追いかけたいって言われたら応援してたし、そのために別れることが必要なら、私からも遮断したよ。それが、あきとさんの夢につながるなら、私は応援するよ。」

「うん・・・」

「なにかを得るには何かを失わなきゃいけないって言うけど、あきとさんは、失い方が自分勝手すぎるよ。私がどれだけ辛かったか。何がだめだったんだろうって責める毎日だし、心配だし。」

「ごめん・・」

「事情分かってたら、デビューしたあきとさんを、正面から見れたと思うし、応援し続けてたかもしれないのに。私、バンドの事情とか全く知らなかったから。だったら話してよ。話さなかったってことは、私は結局その程度だったんだよ。」

「ちがう。それは違うんだ。」

「何が違うの?」

「俺は、バンドのこととか一切贔屓目なしで接してくれる、俺自身をちゃんと見てくれるれいちゃんが好きだった。一番落ち着けたし、素の自分だった。だから、ある意味、本当の俺をさらけ出してたんだよ。バンドの話とかすると、俺じゃなくなるんだよ。」

「私は、そんな音楽をやっている、あきとさんも知りたかったよ。」

「俺ね、デビューして、それからもずっと想ってた。一回バラード書かなきゃいけないときがあって。本当にかけなくて。途中まで作れるのに、その後から辛くなって、書けなくなるんだ。作れなかった。アルバム出したときも、こんなの世に出していいのかって思うくらい自分の中で納得いってなくて。」

「そうなんだ。そうだったんだ。」

「だから、結局、れいちゃんの言う通り、悪い別れ方をした。別れたときに、れいちゃんとちゃんと区切りをつけてれば、あんな思いしなかったと思う。俺が、悪いんだ。ごめん。本当に。」

「誰も得しない別れ方だったかもね。でも、こうやって聞けてよかったよ。私の中でポッカリ空いてた穴が、ふさがった気がする。私が何かしちゃったわけじゃなかったんだね!それが怖かったから。」

「ちがうよ。むしろ逆。ほんとに救われた。だから、忘れられなかったんだと思う。」

「そっか。あきとさんが作詞?作曲?してるのも初めて知ったよ。」

「作曲ね!作詞は、歌詞が全部"れいちゃん〜れ〜いちゃん〜"ってなってたかも。笑」

「やめてよ。笑 笑われるのムカつく。」

「ごめんなさい。すみません。」

「もういいよ!あきとさんの曲ってか、あきとさんが作った曲か分からないけど、別れた後にCDショップの映像でみたよ!膝から崩れ落ちそうだったけど。笑」

「きっと、デビュー曲だね。俺の作曲じゃないけど、大切な曲だ。」

「私が知らない、あきとさんだった。なんかセクシーというか、妖艶で、ツン!としてる感じ?それだけ鮮明に残ってる。」

「他の曲は聞いてないんだ。笑」

「聞いてない、ごめん。笑 そのときの音楽すら覚えてないや・・」

「そりゃそーだよね。衝撃のほうがデカイもんね。笑」

「でも、良かったよ。こうやって、バンドで成功してて。え?成功してるんだよね?」

「うん・・まぁ成功しているのかは分からないけど、それでご飯食べてるね。お酒も飲めてます。笑」

「なら、よかった!それが、今日話して一番良かったことかも。」

「ありがとう。れいちゃん、俺より大人だわ。」

「えーーー?あきとさんがお子ちゃますぎるんじゃない?笑 ねぇ、何か曲聞かせてよ。あきとさんが作った曲。」

「れいちゃんのことでやけ酒して、泣きはらして、落ち着いた後に作った曲があるよ。笑 」

「え!!なにそれ!聞きたい!聞かせて。」

「ガッツリ、バラードだけど、引かない?笑」

「引かない!逆に好き!」


そう言うと、あきとさんはスマートフォンを取り出し、イヤホンを付けた。


「歌詞は俺が書いたんじゃないからね。笑 はい。」

そう言って、イヤホンを私に差し出した。

イヤホンを付けて、流れてくる音楽に集中する。


流れてきた曲は、しっとりしたバラードで、私がCDショップで聞いた記憶のある曲調とはまるで違い。

何か悲しみや苦しみ、憎しみ、自分の心のなかにあるものを少しずつ吐き出そうとするような、ゆったり、ゆっくり目をつぶって聞きたくなる曲だった。

自然と私も涙が出てきて、

その姿を見て、あきとさんは恥ずかしそうに下を向き、

再度私を見て、眉間にシワを寄せて笑った。


私が頷いて笑うと、

あきとさんの目から涙が出て、歯を食いしばるように私に笑いかけた。


曲が終わり、あきとさんへイヤホンを返す。

「すごい、いい。ごめん、チープな言葉かもしれないけど、すっごく好き。余韻に浸っちゃいたい。笑」

「ほんと、よかった。聞いてもらえて。そう言ってもらえて、何よりも嬉しい。ハードな感じもあるけど・・聞く?笑」

「今、余韻中だからいい!笑 また今度聞く。笑」

「今度?今度がある?」

「あ・・、いや、分からないけど!CD買って聞くよ!笑」

「・・・れいちゃん。」

「ん?」

「俺は、まだ好き。れいちゃんのことがまだ好き。やっぱ今でも一番好きだわ!」

そう言って、あきとさんは、グラスに入っていたワインを一気に飲み干し、

更に私のグラスに入っていたワインも飲み干した。

「ちょっと!大丈夫!?」

「俺は、好き!」

「・・・・・」

「遅いよね。分かってる!分かってるけど、会っちゃったんだもん!そりゃ好きになっちゃうよ!!!」

「ちょっと・・声大きいよ。」

「でも、好きなんだよ。こんなの小声で言えないよーー!!!」

「ほんと、シッ!週刊誌とかいたらどうするの!!!」

「週刊誌!?笑 俺なんかを追う週刊誌がいたら大歓迎!!見出しに、俺はれいちゃんが好きだ!!って書いてもらうね!!!」

「ちょっと・・・。」

困っていた。私は、困った。

どうすればいいか、分からなかったけど、

彼と再会して、彼に対しての憎しみが薄れ、

彼への愛が、また生まれてきているのも確かだった。

「あきとさん・・・ありがとう」

「れいちゃんはもちろん辛かったと思う。本当にそれは謝ることしかできない。もうどう償っていいのかも分からない。どうしてほしいのかあるのなら言ってほしい。なんでもする。でも、俺も辛かったー。後悔して、れいちゃんに会おうと、話そうとして、やったこともないキックボクシングのジムに行ったり、行けば張り裂けそうになる思い出ばかりの店に行ったり、地元にも一緒に行ったから、里帰りしても辛くて。もう、何回もリミッターが切れた。その度に俺はお酒に溺れてたんだろうけど・・。ライブのときも、メジャーデビューしたことをもし知ってたら来てるかもしれないって、必死に探そうとしたり。アホだよ、俺。自分で自分の首締めてるんだもん」

笑いながら、あきとさんは、膝の上で拳を丸めた。

「そっか。ありがとうね。辛かったね。」

そう言って、私は、あきとさんの手を握った。

「れいちゃん、俺は今でも好きだ。」

困った子犬の顔のような目で私を見つめる。

ーーーずるい。ずるいよ。

そう思いながら、私は頷いた。



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