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カトマンドゥ・タメルエリアでの毎日

チベット・インド旅行記
#29,カトマンドゥ

【前回までのあらすじ】遥かなるチベットを目指し、埼玉県からヒッチハイクで旅立った19才無職のまえだゆうき。
日本-韓国-中国-ウイグル-チベットと移動を続けた今、旅はネパール、カトマンドゥへと差し掛かろうとしていた。

ネパール首都、カトマンドゥの中心地区タメルエリアは、世界中の旅行者たちが訪れる一大ツーリストスポットだ。

路地にはお土産物屋、Tシャツ屋、アクセサリーショップ、仏像店、海賊版のレコードショップ、定食屋、カフェ、バーなどなど、ありとあらゆる店がひしめき合い。風に乗って香辛料やお香の香りが漂ってくる。

街角ではジャズバンドの生演奏。ノリのいいダンスミュージックが鳴り響き、毎日はお祭りのような雰囲気で満たされている。

例えるならば、エスニック風味の原宿竹下通り、といったところだろうか。


カトマンドゥにやって来て1週間。

そんなふわふわとした、綿菓子のような毎日を送りながら、
特に何をするでもなく、ゆるいタイパンツと染めの入ったTシャツ、素足にサンダルで、今日も通りをブラブラと歩く。


タメルエリアの路地裏の日本食レストラン「桃太郎」は、カツカレーと蒸したてのお餅のデザートが絶品。

一足先にインドへ向かったマリカやチンゴンとのお別れ会も桃太郎でやった。

路上を歩けば安物のラードで揚げたサモサの屋台引き。
モモ(チベット風の蒸し餃子)の屋台。
ラッシーの屋台。


更に奥に進めばお気に入りのダルバード(カレー風味のランチプレート)の定食屋。


銀色のプレートの上にはカレー風味に味付けされた煮物と、スープとチャツネ(すっぱいペースト状の調味料)、付け合わせにはパパドゥ(豆のおせんべい)が付いて40ルピー(約64円)。


路地に面した席で食事をとっていると、ひっきりなしに物乞いが通りかかり、小銭をせがんでくる。


気が向けば渡すし、気が向かなければ渡さない。


ある時などは、「俺にもダルバートを食わせてくれ」。とせがむおっちゃんが来たので、同じランチプレートを注文してあげると、以後すっかり顔を覚えられてしまい、ステイしているホテルの前で、毎日出待ちされる羽目になってしまった。
 

おっちゃんの名前はデュラン。
普段はタイガーバーム(軟膏)を路上で売り歩いているらしい。


今日もホテルの玄関を出ると、デュランが待ち構えている。

日に焼けた肌と、短髪の白髪、顔に深く刻み込まれた皺、少しくたびれて丸まった背中からはどことなく憎めない愛嬌が漂っている。


今日はダルバードのお礼に、デュランのうちでダルバードをご馳走してくれる、というので付いていく。


華やかなタメルエリアから離れた、ゴミゴミとした地元民たちのエリア。

ボロボロの、漆喰(しっくい)の剥がれた日干しレンガの住宅街。
穴の空いたトタンの屋根。
舗装されていない道路を伝う、生活排水と生ゴミの臭い。



デュランの家は、首都カトマンドゥだというのに電気が無く。
ジメジメと湿った薄暗い土間の一角に布が敷かれただけの質素な作りだ。

デュランと2人地べたに座り込み、窓から差し込む日差しを頼りに、体育座りでぬるいダルバードを食べた。


何となく居心地も悪かったので早々にお礼を言って立ち去ろうとすると、デュランに奥の部屋を案内され、横たわる年老いた母親を紹介された。

そして、足が悪くて歩けない母の為に1000ルピー(約1600円)を恵んでくれ。と泣きつかれた。


そこまでされて断る理由も思い付かなかったので、渋々財布から1000ルピー札を取り出してデュランに渡す。



毎日はそうやって過ぎてゆく。
 


糸が切れて漂う凧のように。
海底にゆっくりと溜まっていく塵(ちり)のように。
起き抜けのまどろみのように。

 


チベットという目的地を終えた私の旅は行くアテを失い、ゆっくりと、しかし確実に漂流をはじめていた。


⇨カトマンドゥ②へと続く


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