社員会の意義

東京ソーヤでは、毎月2週目の日曜日に古民家で「社員会」を開き、4週目の日曜日は全会員向けに焚き火の会を開いている。(賛助会員を除く)

焚き火の会は、これまで10年以上続けてきた。家族全員が参加してホームパーティーというか、幼稚園開放教室のような雰囲気だ。これは年間5000円支払えば毎月参加可能なオープンな場だが、社員会は、非営利法人の正会員に登録した方と焚き火を囲って話し合う会。より古民家運営に寄与する精鋭の集まりと言える。

社員に登録したほとんどは、僕個人が継続して行ってきた夜焚き火・早朝学習会に参加してきた中高生がメインである。ひとまず「前田が言うのだから」ということで、非営利法人化というざっくばらんな僕の企画に賛同してくださった方々が10組ほど現れた。彼らに「社員」になってもらい2週目の日曜に集まってさまざまな話をしながら、一緒に古民家を運営するようにしている。

今回はじめて社員会に参加した妻が、帰り際に「あなたがやりたいことがようやくわかった」と言っていた。

「今まで非営利法人にするとか言って、どういうこと?って感じだったけど、今日の中高生みていたら、目指していることが分かった気がする」

一番身近な妻がわからないというのだから、やはりこの法人のシステムは分かりにくいのだろう。多々生徒や保護者からもそういう意見をもらう。今のところ評判悪いシステムのようだが、僕はこのかたちにしてよかったと思っている。

特に社員会は、今まで以上に教育的効果があると実感している。

小説家になろうという投稿サイトに作品を投稿し続ける中学生集団、通称「『なろう』軍団」はほぼ始発で家を出て、古民家にやってくる。着くなり、小説を書き始めるが、飽きたら火に当たったり、後輩と遊んだりしている。それでまた書けそうになったらすぐさま作品に戻る。これを延々繰り返しているわけだが、その効果もあって数千ビューをコンスタントに記録している。彼らのように創作欲のある子たちに、さらに自分で会社を起こすこともできるように、法人の仕組みについて教えてあげるというのも、社員会の目的の一つである。

社員会では午前中の2時間はほとんどディスカッションの時間になる。
古民家をどのように維持していくか、法人の仕組みや税務処理、カード決済の仕組みからウェブページの作成方法、広告制作など話し合う内容は多岐にわたる。企画・営業・事務・制作の話題、これらすべて彼らが自立したときにいつかぶちあたる話である。こういうことを作家である彼らが学べば、怖いものなしだ。

また、家庭の事情で、参加費を毎回支払うことが難しいという場合もいままではあったが、そういう子たちにも参加してもらえるように年会費制にして実質支払い額を安くすることも、そもそも非営利法人化の目的でもあった。
その思いが届いたのか、彼らもまた社員となり、今まで以上に積極的に手伝おうという意識が芽生えていると実感する。

社員とか社員会というと、とても大げさな感じがする。しかもノリで名刺まで作ってしまった。なんでそんなことをするかというと、帰属意識を利用して、より主体的な行動を呼び醒ましたかったからだ。

これまで勉強合宿を繰り返してきたが、生徒と古民家で生活していて一番困るのは、彼らが日常の名前のない家事に全く無関心であることだ。

たとえば、ティッシュが落ちていたらゴミ箱に捨てるとか、気づいていない子がいたら教えてあげるとか、人数分椅子がなかったら準備するとか、誰かに役割分担してもらうまでもないのだが、やはり誰かが気づいてやらなければいけないことが多々ある。こうしたことに全く、ほんとに全く無関心なのである。

僕はこれにものすごく危機感を感じている。だって、そんな人と一緒に働きたいと思わないからだ。彼らがこのまま成長すれば、一緒に働きたいと思われない人になるということ。自分が面倒をみている生徒がそんなふうになってほしいわけがない、学習面をなんとかするのなら、同時にこうした名前のない家事にも自分からやろうとする意識をもたせたいと思っている。

そんなことより勉強を教えるべきではないか?と思う方もいるかもしれない。だが、こうした気づきがない子は、問題を解いていても、自分のミスに気づかないことが多いと感じている。経験則でしかないが、10代ならなおさら、日常生活レベルと学習レベルのミスはほぼ一致する。(作家タイプなど例外あり)

この課題は社員会でずいぶん解決された気がしている。

古民家で片付けられずに放置してあったものを自ら片付け、みんなで使う焚き火用の杉の木をどうやって得ようか話し合う。

もはや彼らは消費者ではない。
社員はみな何かしら目的があって集まっている。
執筆や音楽、映像制作、薪割りや庭掃除。ワークショップの企画。
古民家内はシェアアトリエのように機能する。

それぞれ自分のやりたいことについて焚き火を中心にして語り合う。そこには年齢という枠組みが存在しない。学年もない。完全なるオープンダイアローグ。
何より非営利の社員となり、僕やその他の教師と同じ権利を与えたことで、対等に語り合えていることは、彼らの成長を呼び起こしているだろう。

特に今まで内緒にしていたが、僕は全く人件費をもらってなかった!古民家を運営する維持費にすべて企てていた!こちらの切実さを正直に告白することで、会費だけでは運営が赤字であることを承知し、自分たちのできることをより具体的におこなう集団になりつつある。その生徒たちの変化にとても感動している。

非営利法人運営は、10代を主体的に育てるメソッドだ。
実際に古民家での活動に継続して参加し、みなと話し合いを繰り返すことで彼らの能力を開発できることが明らかになった。しかもこれは塾や学校ではなかなか身につかない。
古民家に遊びにくるのではなく、僕らは活動をしにきている。
非日常体験を求めて山へ観光にくるレベルを僕らはとうに超えてしまった。

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