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M&Aの8割はPMIだ

以前、日本電産の永守会長は「M&Aを登山に例えると、成約時点ではまだ二合目。その後はPMIという難しい作業が待っている」と言っていました。

永守氏と言えば、私も尊敬する名経営者ですが、同時に日本一のM&A巧者とも言われます。同社を世界一の小型モーターメーカーに押し上げたのは、卓越したM&A戦略によるものであることは疑いようがありません。

その永守氏が、M&Aの8割がPMIで、それが最も難しいと言います。

PMIとは、Post Merger Integrationの略で、M&A後の経営統合のことです。M&Aにもいろいろな目的がありますが、その目的のためには、譲渡企業と譲受企業の力を合わせて、1+1=2以上のシナジー効果を出すことが大前提です。それができないなら、M&Aは全く無意味なボランティア作業になってしまいます。

これはどんなサイズの企業にも当てはまることですが、零細企業同士のM&Aの場合、驚くほどここが無計画なケースを散見します。譲受側はそれなりの計画があるのですが、それが譲渡側にまったく伝わっておらず、「なぜそんなことをやらないといけないのか」という拒絶姿勢を崩さない。結果、PMIが全く進まず、このままでは多額の買収資金が無駄になってしまう。実際、そんな相談を受けることもあるのです。

PMIに決まった方法論はない

M&Aの成約までは、だいたい決まったプロセスで進みます。もちろん、その過程では弁護士や会計士、税理士などの領域もありますし、譲渡企業の「価値」を計算する、専門的な作業もあります。

しかし、PMIには決まったプロセスはありません。その会社によって、文字通り千差万別です。ただし、M&Aの目的、目指すべき将来像を徹底的に共有することは、どんなPMIでも大前提です

M&Aの目的は、シナジーによって会社の価値を上げることです。同業者なら、仕入れやバックヤード業務の効率化、販売力の強化による市場占有率の向上など。異業種なら、お互いの販売網を使った商品拡充や、欠けているノウハウを補完し合って双方の向上を目指したり。様々なケースが考えられます。

なので、経営統合と言っても、何と何をどうやって統合するかを明確にしないと、進めようがありません。そして、そのようなことはM&Aの交渉時には少なくともイメージしておくべきことです。それによって、譲受側の許容価格にも違いが出てくるはずです

M&AはPMIを意識して進めるべき

M&Aアドバイザーは、このようなことは全く考慮しない人が多いのは事実です。現在、私が関わっているPMI案件も、M&A成約までにアドバイザーからそのような話はひと言も出なかったそうです。だからと言って、アドバイザーだけが悪いわけではありませんが、案件の成約だけを目的に動いているM&Aアドバイザーは、特に経験の少ない中小、零細企業の場合、さすがに弊害が大きい

私は、アドバイザーである前に事業家なので、少なくともその視点は強く持っているつもりです。譲受側の体制やリテラシーなどから、PMIがうまくいかない気がしたら、それをストレートに伝えます。実際、それで買収をストップしたケースは何度かあります。

自分を例にとって、そうするべきだというのは甚だ恐縮ですが、少なくとも買い手アドバイザーにつく人はPMIありきで考えないと、M&Aが成約しても「成功」することはないと思うのです。

これから他社を買収して成長していきたい経営者は、いくらで買収できるかだけでなく、買収後の具体的な姿を想像して、交渉にあたってください。それを相談しても関心を示さないアドバイザーなら、変えた方がいいと私は思います。

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