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中小企業にふさわしい、企業価値算出方法とは?

先日上梓した私の書籍「日本一わかりやすいM&A起業の教科書」の中でも書きましたが、これまで出会った数多くの優秀な経営者は、もれなく自社の現時点(少なくとも前期決算終了時点)での価値を数字で把握しています。本書では、シリコンバレーで出会って、その後Appleに売却した起業家のエピソードを交えて、その重要性を強調しました。

起業したての頃だったので、余計に印象に残ったのですが、私が売り上げを聞いたつもりの質問をすると「今は〇ミリオンだね。来年は〇〇ミリオンになるけど。最終的に〇〇ミリオンでExitしたいね」と、さらっと答えます。「それ売上ですか?」と間抜けな質問したら「いやいや、会社のバリューだよ」と。

その後、数々の優秀な経営者と出会いました。日の出の勢いで上場を果たす、あるいは前述の方のように大型売却に成功するような人は、やはりその質問には正確に数字で即答できるものです。(ついでに言うと、よくSNSで見かけるように「〇億調達しましたー」で喜ぶような人はいません。)

この『企業価値』というのは、M&Aの上でも常に付きまとう、というか、ディールを進めていく土台になるものです。それがないと、モノを買う時に値段が一向にわからないようなものです。安いも高いも、値段提示があっての話です。

では、その企業価値はどのように算定されるのでしょうか?実はここがイマイチ曖昧というか、誰もが納得する決まり手がないのが現状なのです。

スモールビジネスにおける企業価値算定方法

売り手は、1円でも高く売りたい。買い手は、1円でも安く買いたい。いずれも、当然の心理です。経営はこのような矛盾を解決する作業であると言われますが、M&Aもまさにその「落としどころ」を探っていく作業です。

最終的にはそのような「双方の納得」ということになるのですが、それにしても、最初に提示する金額がなければ、交渉はできません。ここで、特に中小企業に適した代表的な企業価値算定(バリュエーション)方法をわかりやすく紹介します。

1.年買法(時価純資産+のれん代)

これは一般的に何となく知れ渡っている計算方法で、時価純資産に営業利益+減価償却費の何年か分を「のれん代(営業権)」としてプラスする方法です。

相場が一般的に3~5年とされていますが、それだと売る方は5年で計算して欲しいし、買う方は3年にしたい。業種によっても分けるべきだと思いますが、ここで思惑が交錯しますよね。曖昧ゾーンです。

なぜこの「のれん代」を入れるのかと言うと、現在の純資産プラス、売らずにやっていたら入ってくるであろう利益の何年か分をお支払いしますということです。しかし、それだけでは判定できない企業価値の判定ポイントは様々あるわけで、単純なわかりやすさの一方で、買い手の納得感を得やすいとはなかなか言えないようにも思えます。

2.DCF(ディスカウントキャッシュフロー)法

これは事業と事業以外の資産にわけて、事業の価値については将来生み出すであろうキャッシュフローの予測に基づいて、現在価値に割引(ディスカウント)するという方法です。

その時点で、もうすでにわかりにくいですよね。これは学術的には最も正しいと言われている計算方法ですが、その割引率などの計算方法は、素人ではなかなか理解できません。さらに、そのキャッシュフロー予測のためには何が必要かと言うと「事業計画」で、それは誰が作るのか?それは正しいのか?という疑問もあります。

だいたい、特に中小企業の事業計画なんて、常に絵に描いた餅です。大企業と違って、ほんの少しの市況の変化でゆらゆらと揺れてしまうものです。社員の定着率も採用率も、大企業のような安定感は全くありません。

DCF法の場合、そんな事業計画を元に将来キャッシュフローを想定するわけなので、現実味のない結果になりがちで、買い手にとっては「そううまく行かないでしょ」ということになります。

3.回収期間法

私自身、アドバイザーとしてだけでなく、経営者として自社事業のM&Aを何度か行った経験もありますが、その際、最も腹落ちできるのがこの考え方です。

これは、今の利益が継続できれば何年で回収できるかという考え方です。例えば1,000万円での買収の場合、年間200万円の利益なら5年で回収できるわけです(極めてざっくりですが)。業種によっては、3年くらいで計算した方がいい場合もあるでしょう。あるいは10年でもいいケースもあります。

ここでポイントになるのは、経営者としての知見です。過去の決算書や現在の社内体制、これからの市場動向などをもとに、『これだと5年で回収できる。でも、これ以上の金額になると、5年以上かかる。この事業では5年以上かけるべきではない』といった判断ができるかどうかです。

アドバイザーとして関わる中で、「この事業なら3年で回収するべき」というアドバイスをすることは頻繁にあります。業種等によってまちまちですが、要はその判断をする眼が買い手の経営者にあるかどうかです。ない場合は、買収はやめた方がいいかもしれません。

購買決定をするのは買い手側

以上、ざっと中小・スモールM&Aでよく使われる企業価値算定方法を紹介しましたが、大前提は「適正かどうかは買い手が判断する」と言う、実に当たり前のことです。「当社は〇億の価値があります」と言っても、買い手が「そんな価値はない」「それでは回収できない」と判断したら、交渉は成立しません。

つまり、難しい理屈を使って計算しても、買い手が納得するかどうか、です。であれば、何年で回収できるという計算の方が、納得感は得られやすいのではないかと、私は思います。

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