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もっと気軽に、もっと自由に。

「変えてはいけないものはない」

1月8日に放送された「マツコの知らない世界」で、とらやの17代目社長、黒川光博氏がお話されていた言葉だ。

和菓子をあまり食べない人でも「とらや」という店の名前は知っているのではないだろうか。室町時代後期に創業され、約500年もの歴史がある老舗の和菓子店である。

和菓子といっても本当に幅広い。コンビニで身近に買えるおまんじゅうや、おせんべいもあれば、デパートなどでしか手に取ることができない生菓子もある。

番組のなかで、マツコ・デラックスさんが、とらやの職人さんが作った生菓子を試食する。その時に「お抹茶ないの?」とスタッフに投げかける場面があった。そして、黒川社長に「やっぱりこれ(生菓子)は、お抹茶込みですよね?」と質問したのだ。けれど、黒川社長は「あまり、それは、私はこだわらなくてもいいと思うのですが」と即答された。そして、冒頭に書いた「変えてはいけないものはない」というのが黒川社長の口癖であると紹介されていた。

その後に、マツコさんは「それは(とらやが)ゆるぎないものがあるから」と、会話が続いていくのだけれど、この黒川社長の口癖と紹介された言葉が素晴らしいと思った。

私がとらやに興味をもったのは、すこしうろ覚えなのだけれど十年ほど前になるのだけれどイラストレーターのおおたうにさんが出されていた「うにっき」という本のなかで紹介されていたものだった。それはとらやは和菓子屋さんなのに、トートバッグも販売されていて、しかも丈夫で使いやすい、とイラストと併せて紹介されていた。

「和菓子屋さんなのに、こういうバッグとかも販売しているんだな」と、おもしろく思い、実際にとらやの店舗に出向いて購入したことを覚えている。

2013年には、ほぼ日でとらやのあんこのヒミツに迫る「工場見学」も行っていた。老舗の和菓子店の秘伝中の秘伝ともいえる「あんこ」の作り方を紹介してくれるなんて、なんて太っ腹なのだろう、とびっくりしたのだった。もちろん、材料からこだわり抜かれた品々が店頭には並んでいる。作り方を教えていただいても、同じ味をだす、というのはおそらく無理だろうけれども。

500年ものあいだ、暖簾を守り続ける。並大抵のことではない。

番組で紹介されていた資料には明治時代にはバナナの形をした生菓子や、枇杷の形を真似た生菓子も描かれていた。生菓子には、伝統的な意匠があると、和菓子職人の方がお話しされている

けれど、私たちは、飽きやすい。

いくら意匠に乗っ取った菓子を丁寧に作ったとしても、食べる側が「ああ、これね。知ってるわ」となってしまうだろう。それは和菓子に限ったことではない。

あらゆるものごとに対して、私たちは、とても飽きっぽいのだ。流行は、いずれ廃れてしまう。

いかに飽きられずに、暖簾を守り続けるか。

その精神のもと、経営をされているからこその「変えてはいけないものはない」という言葉が口癖になるのだろう。

和菓子、とくに生菓子は「お抹茶込みで」という思い込みが強いだろう。もちろん、あんこで作られているものだから、苦みにあるお抹茶との相性は抜群に良い。けれど、お抹茶をいただく、となると、なんとなくかしこまった雰囲気が強い。お茶碗を回さなきゃいけないだとか、妙に気取って、上品に飲まなきゃいけないだとか。

お茶席といわれるような茶道の世界ならば、作法はもちろんある。

けれど、デパートでちょっと購入した生菓子を食べたり、茶寮に入って注文するときには、もっと気軽に食べればいいと思う。お菓子を楽しむのに、なんで緊張しなきゃいけないのか分からない。ケーキなんかと同じように、もっと気軽に、「和菓子、買ってきたよー」となればいいのになと思う。

「マツコの知らない世界」を見たあとに、虎屋菓寮さんで休憩する機会に恵まれた。花びら餅という、お正月の間だけ食べることのできる和菓子が、幸運にも茶寮で提供されていたので、注文した。

花びら餅は宮中で食べられていたお雑煮のようなものだと、私はこどものころに母から聞いていた。そして、お正月になると和菓子屋さんで購入して食べたこともあった。こどものころに食べたものは、甘く煮たごぼうとにんじんが、味噌あんとともに求肥に包まれたものだった。野菜がそのまま使われている和菓子なんておもしろいなあ、と言いながらお正月に楽しんで食べていたのを思い出した。

百貨店で洋菓子は買うけれど、和菓子は買わないという人も多いだろう。なかなか取っ付きにくいイメージがあるかもしれない。けれど、もっと気軽にかた苦しく考えないで、お家に買ってかえって欲しいと思う。コーヒーと一緒に食べてもいいのだ。和菓子=お抹茶という固定観念をとっぱらってしまえたらいいと思う。

変えてはいけないものは、なにもないのだから。




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