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欲ばっても仕方ないとは思うけれど。

THE BLUE HEARTSの「夢」は、名曲だなと常々思う。
あれもほしい、これもほしい、もっとほしい。

普段の暮らしの中では、それほど物欲はない、と思っているのだけれど、どうやらそうでもないらしい。食欲に至ってはかなりのムラがある。毎日同じものを食べ続けていても特に不満も感じない。

学生の頃なんかは「ケーキバイキングに行きたいねぇ」なんて目を輝かせながら言っていたけれど、今ではもうまったく興味がない。2000円近く料金を支払うならばケーキひとつとコーヒーが紅茶を頼めればそれで良い。あれも、これも食べたいという意欲が湧いてこない。

朝食バイキングが充実しているというホテルに仕事で利用したことがあった。確かに和食、洋食様々な料理がたっぷりと並んでいて美味しそうではあった。けれども、当時毎朝食べていたシリアルが並んでいたので、迷わずそれと、フルーツ、ヨーグルトという家で食べる内容とほぼ変わらない食事をした。シェフが作ってくれるオムレツとか、美味しいのは分かっている。けれど、食事に対して保守的なことと、あまり食べ過ぎると胃が重く苦しい感じになるため、控えておいた。なんともつまらない性格だと思うけれど、仕方がない。

食事に対しては「あれも! これも!」とはならないのに、物欲に関してはまだまだ煩悩だらけだ。

ゴールデンウィークの初日、久しぶりに図書館へ足を運んでみた。
図書館は大好きで、幼いころは毎日のように入り浸っていた。しかし最近は、本の購入頻度が増えたことや、自宅から少し離れた場所にあるために足が遠のいていた。

いくつか手にとって読んでみたい本があったのだけれど、あいにく見つけることはできなかった。他の図書館からの貸出リクエストをお願いするかしばし迷いながら、書架をぐるぐる回ってみる。

本を借りるつもりではなかったのだけれど、久しぶりに本に囲まれて気分が高揚してきた。本屋さんとはまた違った独特の緊張感が図書館には存在する。
はじめの目的はすっかり忘れてしまい、あらゆる棚をひとつずつ見てまわる。科学のノンフィクションの棚には読みたいなと思う本はたくさんある。しかし、自宅にも「ゴールデンウィーク中に読もう」とスタンバイしている本はたくさんある。むしろ「いつ読むつもり?」と言わんばかりに、積ん読本は増えゆく一方だ。

借りるのは我慢しようと思いながら、文芸書、いわゆる小説の棚を見始めたときに、その我慢は呆気なく崩れ去っていた。以前利用していた頃よりも新刊本が増えている印象を受けた。

発売されてまだ間もない、浅生鴨さんの「伴走者」を見つけたときは嬉しい気持ちになってしまった。もっとも、すでに講読済みのため、借りることはない。
けれども、2017年に発売された文芸書はたくさんあった。買おうかどうしようかと迷っていた本もたくさんあった。

目の前に「借りてくださいよ」としてずらりと並べられている本。読みたいと思っているものもたくさんあるし、手に取ってぱらぱらとめくってみようものなら、もう棚に戻すことなんてできるだろうか? いや私にはできるはずもない。みるみるうちに、たくさんの本を抱えながら、さらに棚を物色していた。あれも読みたい、これも読みたいと抱えていくうちに、あっという間に借りられる上限である六冊を超えていた。

しかし、ようやくそこで、ふと我に返った。この本、借りるのはいいけれど読み終えることはできるのかね? と。ゴールデンウィークはカレンダー通りお休みをもらえる。休みがない、自由な時間がない、とは思わない、けれども、すでにやりたいことや行きたい場所は決まっているし、ゴールデンウィーク後半の休みには帰省する予定だ。新幹線の中で本を読むかもしれないが、たいていは眠ってしまって、いつの間にか目的地に到着している。

六冊も借りて、いつ読むのだ? 期限は二週間しかないのに。そう、私はいつも、図書館へ赴くと読めもしない冊数、上限いっぱいまで借りないと損をしたような気になってしまう。結局のところ、読み切れずに貸出期限最終日に最寄り駅の「図書本返却ポスト」にガコンと入れることになる。六冊の文芸書を借りても、せいぜい四冊くらいしか読めないし、最後の方は駆け足で読むため内容も入ってこないということになる。

結局バイキングであれやこれや食べたいからと、家でも食べられるカレーまで取ってきたりしてお腹いっぱいで苦しいけど残すわけにいかない……と詰め込んでいるのと同じことなのだろう。目の前にある魅力的なものに対して制御というか、歯止めが利かなくなってしまう。図書館なんて、いつでも来られるし、本の貸し出しは無料であるのだから、本当に今必要でなければまた今度借りればいいだけなのに。目の前にある読みたいと思っていた本をスルーできないのだ。

結局のところ、厳選した四冊を借りた。しかし、そのうちの一冊が自宅にあった「積読」とかぶっていたという、なんとも恥ずかしい事実もあった。文庫本で購入しており、カバーがかかっていたためかあまり目に留まっていなかった……。

さて、貸出期限は五月十二日まで。一冊は読み終えた。もう一冊も、残りあと僅か。おそらく今日の夜に読んでしまうだろう。あと一冊。読めないこともないけれど、果たしてどうだろうか。慌てて詰め込んで味も何も分からないカレーのようになってしまわないかが、少し心配だ。

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