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小説

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#即興小説

カタカタ人形

お題:腐ったローン

(即興小説トレーニングというサービスでランダムお題で書いた作品です)

自分が人生で借金をするなんて思わなかった。

金曜の、帰りの電車が二十二時を過ぎた、あの夜の駅のホーム。

あの"人形"を私は見た。そして、変わってしまった。

その日はいつも通り定時に業務を終え、勤怠管理ツールを開いて退社をクリックし、社用パソコンからログアウトした。日常だった。

直属の上司の和田さん

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母さん

お題 絵描きの母

母さんの描く絵が好きだった。
もともと絵描きは、おやじのほうで、でもあまりに抽象的すぎて、おれにはよくわからない物体にしかみえなかった。
おやじは絵描きとして成功することより、母さんと結婚することを選んだ。
母さんは、花の絵をよく描いた。花のうしろに、必ずといって良いほど、洋風の装飾品にあふれた家具を描いた。
「これが、母さんの理想の家なの?」
中学生になって間もない頃だったか

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白い肌

お題 興奮した俺

腹水がたまるようになったらもう、死期はすぐそこだときいた。
電車を乗り継いで、走って病院に行った。医療麻薬のパッチが貼られた胸元が白く露出していたのを見て、胸に悔しさと恨みが沸き起こり煮立つのを感じた。何に対してか。母さんの細胞のミスコピーの癌なのかそれとも、健康な人々か。どうにもならないとやけに落ち着き払った医師か。すべてなのか。
母さんの肌はこんなに白かっただろうか。そして

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片付けられない男〜借金天国〜

 おれの好きなひとは、魔法使いです。おれの部屋に、いっしょに住んでいます。おれは、片付けがとても下手くそで、目星をつけていた、ここよりもう少し家賃の安い部屋に引っ越すことも出来ずに、貯金箱の中味もろくに増えない日々を過ごしていました。そんなおれのところに彼女は、急に舞い降りて、おれを真っ正面から見つめていいました。
「自分の感情を、見ないようにしているから散らかっている、そんな部屋ね」

 もちろ

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廃城の姫

お題 暑い流刑地

ひな子はここのところ、湯呑み茶碗を洗わずに、毎日そのまま使っている。
飲んでいるのは水で、氷のあるときは、たくさん入れて笑顔でのむ。
めんどうくさいのだもの。それがひな子の言い分だった。布団からのぞく足を、ぱたぱたと泳ぐように動かして、笑う。つま先はぴんと、バレリーナのように伸びていたので、美しかった。
仕事でおれが何日か帰ってこれないときは、洗ってあげたりも出来ないので、雑菌

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