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リンゲルマンの法則 1+1が2にならない 集団作業のパフォーマンスの低下

大方の人は集団で仕事をしています。現代の建築物も、昔の平城京も多くの人が建築に関わったからこそ出来上がりました。しかし、集団で仕事をすることで、それに関わる個々人のパフォーマンスが低下することがあります。

20世紀の初頭、フランスの農業技術の学者だったリンゲルマンがそれを分析しました。

綱引きや荷車を引くことなどで実験し、1人の力を100%とすると、2人の場合には93%、3人の場合には85%、4人の時は77%と、単独で仕事をするのに比べて集団の方がパフォーマンスが低下するのです。

日本では釘原直樹氏が「社会的手抜きの心理学」として中公新書で記載しています(中公新書 人はなぜ集団になると怠けるのか)。

なぜ、個人が単独で仕事を行う場合に比べて、集団で仕事を行う場合の方が1人あたりのパフォーマンスが低下するのでしょうか。言い換えれば、人数が多くなると、なぜ生産性が低下するのでしょうか。

釘原氏によれば、いくつかの理由があるものの1つには集団の中では責任感が希薄になり一生懸命さが失われるからだ、とします。

これは多くの人が普段の仕事で経験しているのではないでしょうか。
会議に出席する人が多くなればなるほど、最初から最後まで何も話さない人が多くなる、結局は数人の人だけで決めてしまう、など。

何かのプロジェクトの場合、1人1人のアサインメントが明確であっても、それをプロジェクトマネージャーが緻密に管理しないと、自分だけが期限に遅れても全体には大きな影響はないだろう、と責任感が弛緩し、プロジェクトが遅延してしまいます。

「再鑑」という言葉があります。ダブルチェックのことですが、最初の人が行った仕事を、間違いがないか他の人がチェックする、というごく日常的な仕事の進め方です。これをトリプルチェック、つまり3重にチェックしたらかえって全体のミスが発生する割合が高くなる、という実験結果もあります(人間による防護の多重性の有効性)。

これは「リスクホメオスタシス」という考え方で、リスク体制を多重化したり、安全技術を導入したりすることによりリスクが低下したと認知すると、人の行動はかえってリスクを高める方向に変化する、というものです。

では、集団に仕事をしてもパフォーマンスを低下させないようにするにはどうすればいいでしょうか。

釘原氏は、次のように言います。
①罰を与える、
②手抜きをしない人物を選考する、
③リーダーシップにより集団や仕事に対する魅力の向上を図る、
④パフォーマンスのフィードバックを行う、
⑤集団の目標を明示する、
⑥個人のパフォーマンスの評価可能性を高める、
⑦腐ったリンゴを排除し、他者の存在を意識させる、
⑧社会的手抜きという現象の知識を与える、
⑨手抜きをする人物の役割に気づく、

こうしてみると、リーダーの役割が重要だということだと思います。

集団になれば1人あたりのパフォーマンスは低下する、ということを前提として、その集団をマネージする。


仕事量が多くて大変だから応援者を2名呼んできても、仕事の質が思ったほど向上しない時、その応援者のパフォーマンスに不満を感じてしまうより、その応援者の技量・得手不得手を把握し、集団の目的意識を共有し、応援者に対する期待値を応援者に明確に示し、リーダーが個々人の進捗に目配せし、遅延している時や質が向上しない時には、その要因を除去する、という普通のリーダー論に行き着いてしまいます。

肝心なことは、パフォーマンスの低下を単純に応援者のせいにしない、ということでしょう。

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