源氏物語を読む、を読む
与謝野晶子の訳の源氏物語を読み終え、うまく言い表せない余韻が未だに残っていますが、参考書代わりに読んだ高木和子氏の「源氏物語を読む 岩波新書」は、ここ最近読んだ新書の中で五指にはいる良書でした。
同書は源氏物語の入門書ではなく、単なる解説書でもなく、高木氏の古文・歴史・文化・和歌についての研究の成果が同書に凝縮されています。
高木氏は現在、東京大学大学院人文社会系研究科教授であり、東大の公開講座では「平安文学にみる愛の縺れ」というテーマで講演されており、その才媛ぶりに触れることができます。
「源氏物語を読む」の参考文献を見るだけでも、高木氏の長年の学究活動が窺い知れます。
同書は、これから源氏物語を読む人にはお勧めできません。源氏物語の1帖1帖を読み進めるに際に、横に置いて読むような本です。
また、太宗の新書なら2時間もあれば読み終えますが、同書には高木氏の研究活動が凝縮されているため、「気軽に読む」ことは出来ませんでした。しっかりした専門書の領域の新書であり、読みこなすのに時間がかかります。
高木氏は、同書でしばしば「伊勢物語」にも触れます。研究者からすれば源氏物語を語る上では自然な流れなのでしょうが、言い換えれば「伊勢物語」について読んだことがあるか、あるいはある程度の知識がないと源氏物語を読みこなすことができない、ということでしょう。
さて、源氏物語=光源氏の恋物語=好色物語、という予見を持って与謝野晶子の訳本を読み進めました。確かに、光源氏はただの女好き、と断じることもできるでしょうが、源氏物語には男女のきわどいシーンの描写はなく、男女の心の機微を絶妙に表現しています。多くの登場人物はそれぞれに「雅」を感じさせながら、絡み合います。
高木氏は同書の「おわりに」に次のように記します。
「『源氏物語』は恋の遍歴の物語として知られている。確かに光源氏や薫が、それぞれに個性的な女君たちと向き合う物語であることは疑いない。だがこの物語の本質は恋物語なのだろうか。細やかな心理の描写、巧みな話術、恋の歌の駆け引きは圧巻だが、それは恋の人間関係を炙り出すだけでなく、より広範な人間模様を映し出しているようである」
高木氏が述べるように、源氏物語は光源氏を中心すえた広範な人間模様を描いた長編小説であり、その後の日本の文化に様々な影響を与えたことは間違いないでしょう。
その作者、紫式部の博学ぶりには驚嘆させられましたが、高木氏の広く深い、そしてバランスのある知識にも敬服しました。
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