マダツボミ

マダツボミ

最近の記事

言の葉に祈りをこめて

 新年あけましておめでとうございます。    去年の1月5日にブログを始め、3月22日を最後に更新を途絶えさせてしまっていたのですが、再び始動しようかと思います。(果たして、この心意気がいつまで続くか……)  年始早々、つらい出来事ばかりで気が滅入りそうになります。  今回の大地震で被災された方々には一日でも早く安心して過ごせる日が来るよう、心から祈っております。  さて、ここから私の初詣に行った話をつれづれなるままに書きたいと思います。  初詣にて、事任八幡宮に行って

    • 選択に間違いなどない

       現代の小説家でいちばん好きなのは朝井リョウさんです。  朝井さんといえば、『桐島、部活やめるってよ』『何者』といった映像化された作品が有名でしょう。もちろん、上記二作品も好きですが、ここ最近の作品である『どうしても生きてる』『スター』『正欲』などもどれもおもしろいんです。  私が朝井リョウさんの中でいちばん好きな作品は『武道館』です。  登場人物が発するあるせりふが心に残って、離れないのです。  ストーリーとしてみると、あまり王道的なものではなく、読者によっては尻切れ

      • 本と旅、それから人生

         児童文学作家であり、詩人の長田弘さんのエッセイ『読書からはじまる』。いつどこでなぜこの本を購入したのか覚えてはいないけれども、本棚に置いてあったこの本を手にとり、パラパラとページをめくって読んでみました。  とても、心地いい。  ことばが、よどみなく、すっと自分のなかに入ってくるのです。  簡素であり、とてもやわらかい文体。  この本のなかで「なるほど」と思った部分を挙げればきりがありませんので、一点にだけ絞って記します。次の文です。  本 = 人生  たしかに「

        • 京都紀行

          「かつてハルク・ホーガンという人気レスラーが居たが私など、その名を聞くたびにハルク判官と瞬間的に頭の中で変換してしまう。」という書き出しから始まる小説の語り手がよもや源義経とは思いますまい。  さすが、町田康。  そんな町田康さんの小説『ギケイキ』を読みながら京阪電車に乗ること45分。出町柳駅に到着。  まず訪れたのは、賀茂御祖神社。  通称、下鴨神社。  昨年の夏ごろ、「下鴨納涼古本まつり」が開催されていて、そのときに足を運んだので、今回で二回目の来訪となります。

        言の葉に祈りをこめて

          あをによし

           いい写真が撮れました。  かわいい。  そう。  奈良県の奈良公園です。  そこここに鹿。野生の鹿たち。鹿せんべいを求め、あらゆる人にアプローチする鹿たち。  奈良県の鹿といえば、万城目学さんの『鹿男あをによし』を思い出さざるを得ません。この作品にはまって、万城目ファンになって『プリンセス・トヨトミ』や『鴨川ホルモー』などを読みあさるようになりました。  読んだのはかなり前なので、どんな名所が出ていたかほとんど忘れてしまいましたが、平城宮がメイン舞台だったのは覚え

          あをによし

          「うら」の話

           更新頻度がかなり低いのですね。  旅が全然できてないんですよね。  今回の話は「『うら』の話」。  旅の話ではないです。  西條奈加さんの小説で『心淋し川』というものがあります。  これは第164回直木賞受賞作なのですが、このタイトルを見たとき、私は「こころさびしがわ」と読んでしまったんですね。  でも、正しくは「うらさびしがわ」。「心」は「うら」と読むんです。  ちょうど手元に『新字源』があるので、「心」について調べてみましょう。  ちなみに『角川新字源』には、

          「うら」の話

          小さなものさし

           自分が面白いと思った漫画を、誰かが面白くないと思うことはあるでしょう。  私にとって『進撃の巨人』は人生史上一番興奮させられた漫画ですが、世界には『進撃の巨人』をさほど面白くないと思う人もいることでしょう。  それと同じように、自分にとって大切なことが、誰かにとっては大切ではないことが多々あるように思います。  朝井リョウさんの『スター』という小説で、千紗という登場人物がこんなことを言っています。  つまり、ここでは、誰かが信じている価値を自分のものさしで評価するこ

          小さなものさし

          マルチタレント住吉さん

           遣唐使進発の地。  大阪にある有名な住吉神社に、そう書かれた碑がありました。  ここは底筒男命(そこつつのおのみこと)、中筒男命(なかつつのおのこ)、表筒男命(うわつつのおのみこと)という航海の守り神を祭神とした神社です。その神様たちに息長足姫命(おきながたらしひめ)(神功皇后のこと)を加えて、住吉大神といいます。  住吉大神と聞けば、『土佐日記』を思い出します。  貫之(作中では女性という設定ですが)を乗せた船が暴風のせいで進めずにいると、舵取がこれは住吉大神の仕

          マルチタレント住吉さん

          すずめの雪かき

          「雪かき」の話。  雪かきがしんどいとか、雪かきにまつわる苦労話とかではありません。  村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』の中に、書かれる「文化的雪かき」というフレーズのことです。 「文化的雪かき」とは、ここでは「誰かがやらないと困るのだが、やったところであまり評価されない仕事」という意味合いで用いられています。  雪かきをする人は早起きをしてやるものです。ですが、雪かきをしてもらったことを知らずに人々はその雪かきされた道を歩きます。  この状況になぞらえて、「誰か

          すずめの雪かき

          人形供養

           クレヨンしんちゃんが好きでした。  大人になってからはまったく見なくなったけど、ふとしたときに思い出すことがあります。 「太陽の塔」を見れば、「オトナ帝国」を思い出し、「熱海」と聞けば、「ヤキニクロード」を思い出す。  ほんとですよ?  クレヨンしんちゃんはとても面白い。  笑わせてくれるだけではないんです。子どものためのアニメだと侮るなかれ、ときに感動させてくれます。「オトナ帝国」しかり、「ロボとーちゃん」しかり。  そんなクレヨンしんちゃんですが、怖い話をするこ

          雄島の海人の袖だにも

           源重之という平安時代の貴族・歌人の和歌にこんなものがあります。  松島というのはもちろん宮城県にある日本三景の一つの島のことです。正確には、松島湾内外に浮かぶ約260の島々やそれを擁する多島海を指す。『松島町史(通史編2)』(1991年)によると、どうやらその島々の中で名称をもつのは144、無名の島が98あるそうです。その中に雄島という島があります。歌枕として有名な島ですが、平安時代後期には霊場として栄えました。  雄島は極楽浄土に近い場所として、死者の供養のため、全国

          雄島の海人の袖だにも

          知の旅

          知識がなさすぎる。 2022年、そう思わせることがかなりあった。 自分に知識がないのは今まで不勉強だったからではあるのだが、もっとも大きな原因は知的好奇心の欠落にあると思う。 思えば、自分の中での「勉強」というものは「受験勉強」そのものだった。試験でいい点をとるための「勉強」。受験にしか通用しない空疎な「勉強」。 つまり、自分は今まで血の通った勉学をしてこなかったのだ。「血の通った勉学」とは「生きている上で活かすことのできる知識を得るための勉強」という意味で書いたが、と