本と旅、それから人生

 児童文学作家であり、詩人の長田弘さんのエッセイ『読書からはじまる』。いつどこでなぜこの本を購入したのか覚えてはいないけれども、本棚に置いてあったこの本を手にとり、パラパラとページをめくって読んでみました。

 とても、心地いい。

 ことばが、よどみなく、すっと自分のなかに入ってくるのです。
 簡素であり、とてもやわらかい文体。

 この本のなかで「なるほど」と思った部分を挙げればきりがありませんので、一点にだけ絞って記します。次の文です。

 本はその本を開いたときが始まりで、閉じたときがおしまいです。始まりがあって終わりがあるのが、本です。
 始まりがあって終わりがあるというのは、人間の生き方そのものです。生まれてきたときが始まりで、死んだときがおしまいです。

長田弘『読書からはじまる』(筑摩書房、2020)

 本 = 人生

 たしかに「人生の最初の一頁」という言い方をしたり、「一巻の終わり」などと言ったり、人生は本に喩えられることもしばしばあります。

「始まりがあって終わりがあるというのは、人間の生き方そのものです。」
 
 このことばが妙に心に残っているのです。

 ※  ※  ※

「旅」も「本」に喩えられるのではないでしょうか?

 先日行ってきた京都。鞍馬寺から貴船神社までの山道を歩いているときにふとそんなことを思ったのです。

 本に始まりと終わりがあるように、旅にも「行き(始まり)」と「帰り(終わり)」があります。

 本は「読む」という自発的な行為によって成り立つものであり、旅も「歩く」という自発的な行為によって成り立つものである。

 本は一度読んだらそれでおしまいではなく、もう一度読むことも許される。むしろ、再読することで初読のときには気づけなかったことを発見する喜びを得るかもしれません。旅も同じで一度行った場所にもう二度と行かないのではなく、再び訪れることも当然構いませんし、むしろ再訪することで以前とは違う発見を得るかもしれません。

 私はこの「もう一度」本を読む、「もう一度」同じ場所に訪れることは、倍速視聴に代表されるように、あらゆる情報を短時間で消費しようとしている現代人にとって大切なことなのではないかと思うのです。

 本も、旅も、どちらも人生を豊かにしてくれます。
 それでいて、本のありようは人間の生き方そのものです。
 同時に、旅のありようも人間の生き方そのものだといえるでしょう。
 本と旅と、それから人生。
 
 私はこれからも本を読み続けますし、旅もしたいと思っています。人生をよりよく生きるために。

〈参考文献〉
長田弘『読書からはじまる』(筑摩書房、2020)

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