すずめの雪かき

「雪かき」の話。

 雪かきがしんどいとか、雪かきにまつわる苦労話とかではありません。

 村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』の中に、書かれる「文化的雪かき」というフレーズのことです。

「文化的雪かき」とは、ここでは「誰かがやらないと困るのだが、やったところであまり評価されない仕事」という意味合いで用いられています。

 雪かきをする人は早起きをしてやるものです。ですが、雪かきをしてもらったことを知らずに人々はその雪かきされた道を歩きます。

 この状況になぞらえて、「誰かがやらないと困るのだが、やったところであまり評価されない仕事」「文化的雪かき」と表現しています。

 なるほど、そういった仕事は多くあります。

 ゴミ清掃、インフラ整備などは表立った仕事ではないかもしれませんが、なくなってしまってはいけない仕事です。そういった人たちがいつも見えないところで一生懸命働いているから、私たちは日々何事もなく暮らしていけるのでしょう。

 かつて2000年問題という、コンピュータの年号認識システムが混乱して、世界中で混乱が生じると懸念された問題がありました。世間は大騒ぎしたそうです。

 結果的に何事も起こらなかったのですが、その裏で多くのエンジニアが死ぬ気でトラブル対応に当たっていたのです。

 世の中にはそういったことが往々としてあるような気がします。

 電車に乗ってどこかに行くことができるのも、コンビニで飲み物を買うことができるのも、スマホを使うことができるのも、全て多くの「誰か」のおかげです。

 車掌さんはは子どもの憧れでしょうが、線路を点検する作業員さんはあまり表舞台には現れません。ですが、なくなってはいけない仕事です。

 コンビニの店員さんは大変な仕事をこなしています。ですが、同時に毎日毎日そのコンビニに商品を届ける配送がいて、その商品をつくるための工場で働く人たちの存在を忘れてはいけないでしょう。

 iPhoneを開発したスティーブン・ジョブズ。しかし、彼の無理難題の要求に応え続けた部下のエンジニアたちにもスポットライトを当てるべきでしょう。

 見えないところで活躍する、なくてはならない仕事。
 しかし、その不可視性から評価を受けることがあまりない仕事。 
 そんな「文化的雪かき」。

 私は仕事とはそういうものだと思っています。
 目立った場所で活躍する仕事を求めてはいません。
 全員から感謝される仕事をしたいなんて思わない。

 そういえば、最近、新海誠の「すずめの戸締まり」を見ました。そこで登場人物の草太が言っていました。「大事な仕事は人からは見えない方がいいんだ」と。詳細を書くとネタバレになってしまうので書きませんが、まさにその通りだと思います。大事な仕事ほど、日の目に当たることが少ないような気がします。

 最後に、私が好きなアーティストであるMr.Childrenさんの曲で「彩り」のサビを紹介しようと思います。

 僕のした単純作業が
 この世界を回り回って
 まだ出会ったこともない人の
 笑い声を作ってゆく
 そんな些細な生き甲斐が
 日常に彩りを加える
 モノクロの僕の毎日に
 少ないけど 赤 黄 緑

 仕事とは、誰かを笑顔にさせられるものだと思います。
 どんな仕事でも。
 私は少なくともそうと信じたいと思っています。

 今度から、どこかに出かけたとき、働く人について注目していこうかなと思います。

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