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【Part2:回帰分析】Jリーグクラブ決算情報を可視化して経営分析してみた

1. はじめに

前回の記事ではJリーグの2005年~2023年各クラブの決算情報を可視化して経営分析しました。

今回はJ1、J2、J3の各リーグにおける特定の財務指標がチーム順位に与える影響を2013年〜2022年決算情報を基に回帰分析によって検証します。これにより、各リーグに所属するチームが注視すべき重要な財務指標を特定し、リーグでの順位向上に寄与する財務戦略を探ることを目的とします。

2. 回帰分析の概要

回帰分析は、複数の変数間の関係性を明らかにするための統計手法です。単回帰分析は1つの説明変数が目的変数に与える影響を評価し、重回帰分析は複数の説明変数の影響を同時に分析します。重回帰分析では、自由度調整済み決定係数とp値がモデルの精度を評価する指標として用いられます。今回のJ1、J2、J3の各リーグ分析では、2013年から2022年までの財務データを用いて、各リーグの順位に影響を与える重要な指標を特定しました。

回帰分析について補足
■基礎用語
相関関係:2つの変数がお互いに関係しているが、どちらが要因かは分からない関係 変数A↔︎変数B
  例|子供のテスト結果を見ると理科の点数と数学の点数が両方高い
因果関係:変数が原因と結果の関係にあること。変数A→変数B
  例|今日は気温が高かったのでアイスの売上が上がった

回帰分析:変数間の因果関係を捉えるための分析。このとき原因側の変数を説明変数、結果側の変数を目的変数と呼び、説明変数がどれだけ目的変数の変動を説明できているか?が分析の評価基準となる。具体的には、後述する自由度調整済み決定係数で評価を行う。
 ・単回帰分析:ひとつの説明変数で回帰分析を行う手法
   例|気温→アイスの売上
 ・重回帰分析:2つ以上の説明変数で回帰分析を行う手法
   例|駅からの距離、築年数、間取り→アパートの家賃
一般的に重回帰分析の方が高い評価が得られる傾向にある。これは単一の指標で高精度の予測ができることは少ないため。Jリーグ分析においても単回帰、重回帰の両方を実践した。
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モデル化:候補となる説明指標群の中から、自由度調整済み決定係数が最大化するような説明変数の組み合わせを選ぶこと。

■分析結果に関する用語
自由度調整済み決定係数:重回帰分析モデル全体の評価基準。モデルの精度を評価する。具体的には、モデルに採用した財務指標の組み合わせが目的変数の変動を何%説明できているか?を示す。-1から1までの値を取り、絶対値1に近いほど評価が高い。以下のJ1分析結果画像では0.30を示しているため、画像のモデル(説明変数の組み合わせ)では、順位変動の30%程度を説明できていると解釈できる。

p値:5%未満であれば意味のある回帰式が得られた、と判断する指標。モデルや各説明変数のp値が0.05未満なら、目的変数に影響を与えることは統計的に95%以上の確率でそう言える、つまり「有意」であると主張できる。
p値は分析担当者によって変更可能な閾値だが、基本的には5%が採用される。

偏回帰係数:他の説明変数を固定して対象の説明変数を1単位増やした場合にどれだけ目的変数に影響を与えるかを示す。

標準化偏回帰係数:最も効率的に目的変数を動かす説明変数を見つけるための指標。総資産を百万円増やすのと営業利益率を1%上げるのでは労力が異なる。偏回帰係数では優先順位がわからないため標準化した(偏差値的な変換を行った)標準化偏回帰係数で判断する。

標準誤差:サンプル平均が真の母平均からどれだけ離れているかを示す指標です。サンプルの分散が小さいほど標準誤差も小さくなり、サンプル平均が母平均に近いことを示します。標準誤差が小さいほど、サンプル平均の信頼性が高いと評価されます。

3. 分析指標一覧

今回の分析では、以下の36種類の財務指標で分析しました。

各分析指標の相関係数は以下のとおりとなりました。

これらの指標がチーム成績にどのように影響を与えるかを分析します。

4. 分析方法と手順

2013年から2022年までのJリーグ財務データと順位データを用いて、単回帰分析と重回帰分析を行い、最も関連性の強い指標を特定します。特に、自由度調整済み決定係数とp値を基に、モデルの精度を評価します。

5. 分析結果

分析の結果、以下のことが判明しました

  • J1リーグ営業利益率と販管費および一般管理費が順位に強い影響を与える。

標準偏回帰係数のマイナスが大きいほど影響が大きい
  • J2リーグ:チーム人件費と入場者数が順位に強い影響を与える。

標準偏回帰係数のマイナスが大きいほど影響が大きい
  • J3リーグ:スポンサー収入の増加と入場者数が順位に強い影響を与える。

標準偏回帰係数のマイナスが大きいほど影響が大きい

各リーグで重要視すべき指標が異なることも明らかになりました。

分析結果の解釈
J1の説明変数をJ2、J3、およびJ1J2J3全体で評価

モデル全体
自由度調整済み決定係数が低下し、J1リーグで有効なモデルが他のリーグでは適用できないことが判明。
各リーグごとに別々のモデルが必要であるため、それぞれのリーグで重要視すべき説明変数が異なる。
各説明変数
スポンサー収入比率と販管費は、どのリーグにおいても重要な指標であることが分かった。
ただし、スポンサー収入比率は、J1とJ2ではプラスの影響を与える一方で、J3では逆の影響を与える可能性が示された。

6. 各リーグの特徴的な財務戦略

分析結果から、以下の各リーグにおける財務戦略が明確になりました

  • J1
    J1リーグでは、販管費の最適化と営業利益率の向上が最も重要です。特に、選手の給与やマーケティング費用をバランスよく管理し、コスト効率を高めることが求められます。また、スポンサーシップ契約の拡大やファンエンゲージメントの強化によって収益を最大化し、財務の安定性を確保する戦略が重要です。

  • J2
    J2リーグでは、人件費の増加による有望選手の獲得が最も重要です。優秀な選手を引きつけるための適切な給与体系の整備が必要です。また、選手育成プログラムの強化や、若手選手への投資によって長期的な成長を図ることが、競争力を維持するための戦略となります。加えて、クラブの財政基盤を強化するための収益多角化も必要です。

  • J3
    J3リーグでは、スポンサー収入の増加と入場者数の拡大が最も重要です。地域密着型のマーケティング活動を強化し、地元企業とのスポンサー契約を拡大することが重要です。また、ファンイベントや地域コミュニティとの連携を通じて、スタジアムへの集客力を向上させ、収益の安定化を図る戦略が求められます。

7. 今後の展望

今後は、さらに細かい財務指標の分析を行い、Jリーグ全体の競争力強化に向けた施策を検討します。得られた知見をサッカービジネス全体に適用し、戦略的な意思決定をサポートするツールの開発にも取り組んでいきます。

参考文献


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