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密かな夢

 最近、目標が出来た。今まで、漠然としたいこととかはあったけど、具体的にあれがしたいとかこれがしたいとか、そういうのは無かった。だから、大学を卒業した後のこと、つまり就職やこれから働くことについても億劫で、自分が何をしたいのか分からずにずっといた。でもそんな自分にも最近「やりたいこと」が出来たのだ。
 それは南アフリカの剣道レベルを底上げし、代表チームが欧州大会や天狗カップでも勝てるようにすることだ。先生となって教えるというよりは一緒にやって強くなって行きたい。なぜなら自分はまだ四段で先生としては不十分だからだ。だから彼ら/彼女らのためにもゆくゆくは五段、六段と高段位を取得したい。
 そして南アフリカの次は南部アフリカの周辺国にも剣道を広めて、将来的にはAKC(Africa Kendo Cup)を開きたい。簡単には出来ないことなど分かっている。でもやりたいと思ったら止まるつもりもないし、おそらくもう止まらないだろう。これを実現するために、どうにかしてアフリカで事業を拡大している日本の会社や大使館などで働こうと思う。剣道が目的の1番上に来ているので、働くことへの億劫さが全くなくなった。
 もちろん作戦も考えている。どうやったら人口を増やすことが出来るのか。まずは剣道の道具が必要だ。とりわけ防具は高い。安くても日本円で1セット5万円くらいはする。おそらく複数国を経由してアフリカまで送ることを考えたら、その値段は10万円を超えるだろう。これは裕福な人ならともかく、そうでない人にとってはかなりの負担で、それを払ってまで始めようなんて思わないほうが当然だ。
 これを解決するために自分はセカンドハンド(中古)の防具を思いついた。日本国内にはあまり使われずして、また使ったが綺麗な状態のまま保存されている中古の防具が山ほど存在する(と思っている。もちろんこれには正確な統計があるわけではない。自分が今まで見てきた上でのざっとした見積もりに過ぎない)。もちろん日本でも同じ道場内で先輩のお下がりなどを使うことも少なくない。だが日本人の多くは裕福(もちろんみんながみんな金持ちと言っているわけではなく、防具を買うくらいのお金は持っているということだ)なため、ほとんどの場合は自分の子供のために大金を叩いて新しい防具を買う。
 しかし子どもたちはすぐに大きくなり、また少し試しただけでやめてしまう子も少なくない。また小学校や中学校、高校や大学を卒業した後に辞めてしまう人も少なくない。そのため日本国内には有り余るほどの中古防具があるのだ。それらの多くは捨てられてしまうことも少なくない。事実、自分が大学剣道部の部室を掃除しなければならなかった時も先輩が置いて行った防具が山ほどあり、そのうちの半分以上は粗大ゴミとして処分してしまった。
 実は大学の体育の先生に頼まれて(仲の良い真鍋先生。今年度で確かご退官。)、10年以上前に体育の授業で使っていた剣道の防具の掃除と整理を手伝ったことがある。その時は筑波大学卒のめちゃゴリ剣道部の先生がいたらしい。まあそれはさておき、古いものだが比較的かなり状態の良い防具が30セットほどあった。先生と一緒に、捨てるのは勿体無いから、それをどうにかして活用できないかと話していた。
 思い立ったが吉日なので、それを思い出してすぐに学長にメールを送った。メールの内容はこんな感じだ。
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林 佳世子 学長

初めまして。国際社会学部アフリカ地域専攻4年の西間木優樹(にしまきゆうき)です。剣道部同期でトルコ語科4年の関口ひなたから連絡先を貰い、ご連絡を差し上げています。突然のご連絡お許しください。

本当は一度、お会いして少しだけお話ししたことがあるのですが、(確か林学長が切り株で転びそうになっているところに駆けつけて、それからプジョーの車について少し話した記憶があります。)このようにご連絡差し上げるのは初めてです。

自分はいま半年間の休学をして、語科の同期2人と一緒にアフリカを縦断する旅(南アフリカのケープタウンからエジプトのカイロまでいくC to Cの縦断旅です)に来ているのですが、旅のために買った車のエンジンに深刻な問題があり、現在は修理のために旅をストップしています。1ヶ月ほど修理にかかるため、それぞれ離散し、自分はヨハネスブルグの近くに滞在し、時間を潰すために1人は他の国へ、もう1人は南アフリカの別地域に滞在しています。

そこで自分はたまたま縁があり、南アフリカで剣道を教えることになりました。自分は8歳の頃から剣道をやっていて、大学でも昨年まで主将を務めていました。日本から剣道をやっている学生が来たとあって、こちらの国の剣道家の方々にとても温かく迎えて貰い、南アフリカ中の道場を回って剣道を教える代わりに、ホームステイ先を提供してもらい、週末などには遊びにも連れて行ってもらっています。(主将をやっていた際にも外大にいる留学生に英語で剣道を教える機会があり、その経験が行きました。)

そしてここからが本題なのですが、南アフリカでは欧米圏やアジア圏に比べて、剣道があまり普及しておらず、何人か強い選手はいますが、レベルもあまり高くはありません。また、剣道をするための道具を購入するのに、イギリスや他の国を何度も経由してから買うため、決して手頃な値段で買うことは出来ません。そのため、剣道を始めるためにはかなり恵まれていないと始められず、これが剣道人口の増えない主な理由になっています。

どうにかしてこの問題を解決出来ないかと考えていた際に、昨年、体育の授業を担当している真鍋先生に頼まれて、何年も前に大学の剣道の授業で使われていた防具を整理する作業を手伝ったことを思い出しました。それらはサークル棟地下の倉庫に埃をかぶって置かれており、真鍋先生とも、何とかしてそれらを活用出来ないかということを話していました。

そこでこれは提案なのですが、そこに幽閉されている防具のいくつかを自分に譲って頂けませんでしょうか?自分は在学中か大学卒業後、可能であれば、またアフリカ諸国を訪れ、剣道を普及し、また南アフリカ代表などのレベルを底上げしたいと考えております。寄付という形になるのかわかりませんが、大学の物なので学長だけの判断でも決めかねると思います。ですが、ただ使わずに粗大ゴミとなってしまうのであれば、必要とされているところで使われるのが、1番良いと思います。

もちろんタダでとは言いません。残った防具などを活用するために体育の授業で剣道を再開することなどがありましたら、TAとしてでもボランティアとしてでも剣道を教えることなどが出来ます。

私のしているお願いは容易なことではなく、断られることももちろん覚悟しておりますが、ご一考頂けますと幸いです。宜しくお願い致します。
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以下、学長からの返信

西間木くん、

すごいねえ~~!!!
ヨハネスブルグで、どうか無事に、元気にやってください。

さて、武具の件、まずはこちらでどうなっているか
調べてみますね。真鍋先生に聞いています。
その上で、どういうことが可能か一緒に考えましょう。

こちらの武具が提供できるとなっても、
送るとなると、送料とか、受け取り人の問題とか、
いろいろクリアしなくてはいけないことが多々あるようにも
思います。とはいえ、それはおいおいですね。
ダメとは思わず、解決していけるよう、
前向きに考えていければと思います。

ということで、とりいそぎ。

林佳世子
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軽〜っ!自分が送った文章がバカらしくなるくらい返信の内容軽いやん。いやー軽かった。東インド会社置けるくらいには軽かった。でもこれくらい生徒と距離の近い学長で良かったなと思った。

またこれ以外にも日本全国の道場や中学校・高校・大学を回って、今ではもう使われておらず、これからも使う予定のない、手持ち無沙汰になってしまっている状態の良い防具を譲ってもらいに頭を下げに行きたいと思う。

だけどまだ問題は残っている。それらをクリーニングする費用(自分で拭いたり出来る範囲内であれば良いが、おそらくいくつかは防具専用のクリーニング屋さんに頼んでやってもらう必要があると思う。)やそれらを置いておく場所、それらを送る費用など、考えなければいけないことは山積みだ。もちろんボランティアでやらなければいけない部分も沢山出てくるが、それにも限界があると思うので、場合によってはクラウドファンディングなどもしないといけないかもしれない。(リターンとして、アフリカの工芸品などがいいだろうか?アマルーラなども??大金を寄付してくれた人には自分が付き添って南アフリカツアーをするのもアリかもしれない。)

とまあ、いま現在考えていることはこんな感じだ。正直、実現させるのは容易ではない。だが、せっかく一度きりの人生。面白そうなことをやってみたいと思う。実はこれを決断したのにはある出来事があった。いま自分は運良くこっちの剣道関係の方のおうち、2家族のお家でお世話になっているのだが、そのうちの一つの家族が難民の学生をあらゆる面で(道場までのタクシー代や道具代、大会への遠征費用など)サポートし、剣道を教えていたのだ。実はその彼は自分が以前に出場して優勝したヨハネスの大会の時のチームのメンバーだった。とてもシャイだが、非常にまっすぐしたいい剣道をするやつだった。ウガンダかどこかからの難民だという。

もちろんこれを聞くまでもほとんど決めていたが、これを聞いて、人種に関わらず剣道を出来るようにしたいと考え、思い立った。
( Ubuntu Kendo Spirit = I am because we are、剣道でもそういう言い方がある。相手あっての剣道だと。)

そしてこれが、自分がこっちでお世話になった剣道家の方々にできる最高の恩返しだと思う。帰国するまではもちろんのこと、帰国したらすぐに行動に移そう。

人生は短いんだ。テンションの上がらねえことにパワー使ってる場合じゃねえ!(宇宙兄弟11巻より引用)
 

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