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そんなふうに私はそのおじいちゃんとやりとりをするようになったのね。

団地の中の児童公園で、通称ドーナツ公園と呼ばれるところがあるんだけど、そこがまずパッと思い浮かぶかな。
私の家はドーナツ公園の前の団地なんだけども、もう団地には20年。ずっと目の前がそのドーナツ公園。私は絶対最上階が好きなのね。見晴らしもいいし、窓を開けると公園が見渡せる。一番下の子は、ドーナツ公園を「俺んちの公園」とか言って、幼稚園おわってもうちょっと遊ぼうって時、「オレんちの公園来る?」って言って友達引き連れて遊んでた。ちょっと時々窓から見て、危ないことしてたら、パーッて行って、「危ない、だめだよ!」って。ほかのお母さんたちも、私が上から見てくれるから安心、っていう感じで、しょっちゅう電話かかってきた。「うちの子、ドーナツ公園で遊んでないかちょっと見てもらえます?」で、「はい、いますよー。」って言ったら「じゃぁ、そろそろ帰ってくるように言ってもらえます?」って。で、下まで降りてくのが大変だから、「○○ちゃんママが帰っておいでって言ってるよー。」って上から。あと、おにぎりやビールを持っていって食べたりのんだりとか、季節にはドーナツ公園で採れる梅でジュースとか梅酒を作ってできあがったものを飲み比べしたり、夏は花火をやったりとか。ドーナツ公園は交流の場でもあった。

団地には管理組合と自治会っていうのがあって、自治会は街区ごと。七街区まであるので7つの自治会があって、で、それをまとめる団地の自治会がある。で、あと、管理組合っていうのは、ふつう専門の会社がやるんだけど、団地は住人がやっているのね。修繕工事とか建て替え問題とかの専門的な知識もないのに順番やくじ引きなどでなっちゃった主婦とかが大きなお金を預かるからすごく大変。
私が自治会長の時にやった防災訓練では、ドーナツ公園に集まることで顔見知りが増えて、なんかあった時にひとり暮らしのお年寄りがいなかったら見に行こうねとか、一番上の階の人からドアをコンコンコンってならしながら降りて行こうねとか、そういう話もできたかな。

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そうそう、昔、うちの棟の1階に80過ぎのおじいちゃんが暮らしていたのね。最初、みんなちょっと怖いおじいちゃんだと思ってた。ある時私が駐車場から車を出そうとした時に、となりにあったそのおじいちゃんの車にガガガガガってやっちゃったわけ。でも、それをきっかけに、なんかおじいちゃんのことをすごくたくさん知ることになって、みんな頑固じじいと言ってるけど、そうじゃなくて、本当はいろんなことをみんなとお喋りしたいんじゃないのかなって思ったのね。そのおじいちゃんは、昔、大型貨物船の船長さんで、船で海外を回ってた時のことを話してくれた。で、それから、おじいちゃんがひとりでご飯作ってるっていうのがわかったから、ひじきをたくさん煮たときなんか持って行ってあげたの。そうするとおじいちゃんがその容器を返しにまた5階まで上がってきて、ピンポンって、ごちそうさまでした、って。そんなふうに私はそのおじいちゃんとやりとりをするようになったのね。そしたら、おじいちゃんがみんなに挨拶するようになったりして変わっていった。おじいちゃん船長さんだったから船の模型があるとかで、団地にそれが見たいっていう子がいたから、行って来れば? って言ったら、おじいちゃんとその子が仲良くなった。勝手におじいちゃんの家に行くようになった。あ~、思い出した、そのおじいちゃんとみんなで一緒にドーナツ公園でビールのんだことがあったなあ。うちのパパもその時おじいちゃんとふたりですごく話し込んで。懐かしい。そう、その時思った。ひとりで暮らしていて、なんか周りとは関わりたくないと思っているふうに見える人でも、実はみんなと和気藹々としたいって思ってる人もいるのかもな、って。
そういえば一番下の子は、ほんとにどうやっておむつが取れたんだろう。きっとほかのお母さんがいろいろやってくださったのかなぁ。全然覚えてないなぁ。ほんとに地域みんなで子どもを一緒に育てた感じ。そのとき一緒に面倒見ていた子どもたちが今でははたちとか、社会人。子どもたちの成長していくさまを、みんなでこう見守って…「見守る」っていうことはすごく幸せなことだと思う。こういうのって、このたまプラーザというか美しが丘の中でも団地っていう環境だからできることかなって思う。

林月子

インタビュー:2017年 夏

このおはなしは2018年No.005号に収録されています。冊子をご希望のかたはご連絡ください。冊子は無料、送料180円でお送りします(5冊まで送料は同じ)。「街のはなし」プロジェクトを、スキやサポート,snsのフォローなどで応援していただけましたら大変励みになります!どうぞよろしくお願いします。

企画・文・写真: 谷山恭子
編集・校正: 伏見学・街のはなし実行委員会
発刊:街のはなし実行委員会

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