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労働審判手続申立書の書き方~その7~

第21回のnoteまでに、労働審判手続申立書の主要部分についての説明は終わりました。第16回のコラムで「第2 申立ての理由」の構成を示していますが、残りは「5.付加金の請求」と「6.申立てに至る経緯・概要」の箇所です。

まず、私が使用した申立書の当該箇所を書き出します。
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5.付加金の請求
相手方は残業代の支払い義務を履行していないことから労働基準法第37条1項を遵守しておらず、このことは同法第114条の要件を満たしている。

合わせて、相手方は、申立人の相手方における就労期間全体にわたり、申立人の被保険者資格の取得手続きを履行しなかった(甲第*号証)。相手方は健康保険法並びに厚生年金保険法によって社会保険への加入が義務付けられている強制適用事業者であり、申立人は相手方によって使用される従業員であったことから被保険者となるべきであった。相手方は、申立人の雇用事実発生から 5 日以内に「被保険者資格取得届」を日本年金機構へ提出しなければならなかったにもかかわらず、当該手続きを履行しなかった。

これら相手方による申立人に対する不当な待遇に鑑みて、付加金請求も認められるべきである。

6.申立てに至る経緯・概要の箇所
(1)申立人は、相手方に対して、平成**年**月**日付け内容証明郵便(甲第*号証)により、未払い残業代の支払を要求した。それを受けて、相手方は、申立人に対して、平成**年**月**日付け回答(甲第*号証)を送付してきた。同回答には、相手方の申立人に対する支払い義務は存しない旨が記載されている。

(2)申立人は、平成**年**月**日に相手方の総務担当の取締役****に直接電話をかけ、未払い残業代の支払いついての協議を申入れた。しかし、相手方は、既に文書にて回答済との立場で、同申入れは拒否された。

(3)以上のような事態に至ったことから、申立人は、やむなく本申立てに及んだところである。
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では、「5.付加金の請求」から解説していきましょう。

付加金は、第17回のコラムで説明をしましたので、詳しくはそちらを見てください。ここで簡単に言うなら、付加金とは、残業代の支払いをしない会社(雇い主)に対するペナルティです。

仮に未払い残業代100万円が存在するとしましょう。会社(雇い主)は労働基準法第37条1項を遵守していないことになりますから、これは付加金を定めた労働基準法第114条の要件を満たしています。なので、未払い残業代と同額の100万円を請求する根拠が発生します。申立書のなかで付加金の金額を具体的に書いておく必要はありませんが、その旨を記述してください。

加えて、付加金はペナルティですから、会社(雇い主)がいかに不当な労働慣行をとっていたかも、できるだけ細かく具体的に記述してください。例えば、会社(雇い主)が就業規則の周知義務を怠っていた、入社の際に労働基準法第15条に定められている労働条件が明示されなかった、報酬体系が雇用契約書の内容と異なっていた、定時終業時間にタイムカードを打刻させられた後サービス残業を強制されていた等などです。いかに会社(雇い主)が法令遵守をしない酷い組織で、自分自身がそんななかで業務をせざるを得なかったかを主張してください。ただし、その証拠(書証)を提示する必要があります。

ちなみに、先に述べた私の例では、会社(雇い主)が法律で定められた私の健康保険・厚生年金保険の被保険者資格の取得手続き義務を履行しなかったことを挙げました。証拠として、健康保険料と厚生年金保険料の源泉徴収がされていない事実が裏付けられる給与支給明細書、日本年金機構が発行した公的文書などを添付しました。

次に、「6.申立てに至る経緯・概要」です。ここは、労働審判を申立てる前に、未払い残業代にかかわる紛争を解決するためにどのようなことが行われたかの経緯・概要を記述する箇所です。この段階を、任意交渉の段階と言ったりします。先の私の例では、内容証明郵便を発端とする任意交渉の概略を記述しています。参考にしてみてください。

労働審判に入る前に必ず任意交渉を行わなければならないかと言うと、必ずしもそうではありません。もちろん、裁判所を利用することなく当事者間の任意交渉をもって紛争解決に至れば、稼働も時間も費用も少なくて済むでしょう。しかし、法律や争いごとに関してのしろうとが会社(雇い主)と同じレベルで交渉できるか、あるいはまともに交渉に応じてもらえるかは懐疑的でしょう。

とすると、任意交渉を経ることなく、いきなり労働審判ないし民事訴訟に入るという選択肢もあるはず。内容証明郵便を作成・郵送するだけでも、それなりの労力と費用がかかります。その内容を作成するために、今後の戦略について熟考する必要もあるでしょう。会社(雇い主)の出方を先読みして、任意交渉が無駄になると予想するなら、いっそのことその段階をすっ飛ばすのも手です。そうした場合、「申立てに至る経緯・概要」を書く必要はないでしょう。

次回は、労働審判手続申立書の一番最後のパートです。「証拠方法」「附属書類」「別紙」について解説します。今回もお読みいただきありがとうございました。

街中利公

本noteは、『実録 落ちこぼれビジネスマンのしろうと労働裁判 労働審判編: 訴訟は自分でできる』(街中利公 著、Kindle版、2018年10月)にそって執筆するものです。

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。




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