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既成事実化

行政の意思決定

意外といい加減

15年間の公務員生活で企画部門に3年間在籍したり様々な条例策定や各種計画、リアルなプロジェクトに関わらせてもらうなかで、行政としての意思決定や政治判断を多く見てきました。
公務員になる前や最初に配属された建築指導課(の最初)の頃、行政の政策決定はまちの将来を左右するのでシビアなプロセス、プロの経営判断などの元に行われていると勝手に思い込み、遠い世界のことだと漠然と考えていました。
しかし、実際の政策決定のプロセスや会議の議論は経験してみると「意外といい加減」なものだったので、これだったら自分にもいろんな政策・プロジェクトができるだろうと確信するに至りました。

これまで多くの自治体に支援業務やいろんな形で関わってきた経験上、これは流山市だけのことではなく、程度の差はかなりありますがどの自治体でも似たようなことが繰り返されています。

民間と異なる価値判断

政策決定のプロセスでは、コンサルタントにほぼ丸投げ委託した基本計画に書かれていた文言の一部を切り取って「計画に記載されている」ことを根拠に、関連する莫大な予算が認められてしまったりします。「何のためにやるのか」といったビジョンも共有されず、総花的・抽象的な表現ひとつが単純な決裁文書と口頭の説明だけで通ってしまうのです。
別の会議では「この施設は利用率が低くても歴史的な経緯があるし、実際に使っている人がいるんだよ!」とデカい声を出した部長の一言で、様々な権利上のこともあって廃止する予定だったものが白紙になってしまったこともあります。
駅の自由通路建設では、何年も前に鉄道会社から協議を進めるために提出させられた文書に書かれた「請願駅」の言葉だけで「市が全額財政負担するんだよ!」と思考停止していたこともありました(この件は自分が担当として鉄道会社と協議し、少しは合理的な形に落ち着いたのですがw)。

このようにいくつか例示しただけでも、行政は民間企業の「経営」判断とは全く異なる思考回路・行動原理・価値判断をしてしまっていることが多々あるのです。

いつの間にか既成事実化

行政では、(全てとはいいませんがかなりの場面で)このような「意外といい加減な意思決定」や価値判断が行われていて、決まったか決まっていないのかすら曖昧なのに、それがいつの間にか既成事実化していることがあります。
前述の「計画に書かれた一部を切り取る」行為などはまさに典型例です。恥ずかしながら自分も公務員時代に、新しい事業を提案するために総合計画を徹底的に読み込み、総花的・抽象的な文言から自分に都合のいい部分だけを切り取って解釈し「これは総合計画でやることに位置付けられている」と起案文書に記したことは一度や二度ではありません。

現在支援させていただいているプロジェクトでも、何十年も前に(恐らくコンサルへの丸投げで)作られたバブリーでリアリティのないペデストリアンデッキの整備計画を未だに「生きた計画」と主張する職員もいました。その計画ってどのぐらい認知されているのか?と聞いても明確な答えが返ってくるわけではありませんし、人によって見解がバラバラなのです。

自治体規模からスケールアウトし、コンテンツがセットアップされていないような公共施設の整備も、「なんとなく」基本構想の業務委託をしてしまったところから五月雨式に基本計画→実施計画→基本設計→実施設計→工事と流れてしまったりしていないでしょうか。

決まったはずのことが

更に厄介なのは、会議や決裁で「決まったと思っていたはずのこと」がその後の予算編成や議会との調整などであっさりと覆されてしまうことです。
つまり、行政では意思決定そのものが曖昧なのです。
毎年開催しているPPP入門講座や拙著「PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本」でもこのあたりは「決め方を決める」重要性として、流山市のFM戦略会議、鳥取市のPPP優先的検討規程などを例示しながら詳しく解説しています。

戦略的に既成事実化

非合理的な組織だからこそ

行政は、一般的な市民感覚の「お堅いところ」のイメージの一方で、このように「意外といい加減」で非合理的な組織です。裏を返せば、いろんな物事を動かすためには、ここに大きなチャンスが内在しているとも言えます。

決裁をとってしまう

大切なのは三次元のプロジェクトを一つでも多く創出して回していくことです。まちを取り巻く様々な事象や目まぐるしく変化する世の中の潮流を考えれば、「お行儀良く」やっている時間や猶予は残っていません。
必ずしも理論的・正攻法ではなくても、泥臭く・愚直にやっていくしかありません。うまく物事を進められない自治体の多くは、既存のそのまちの政策決定(らしい)ルートにいかに乗せるか、市民や議員の全員合意を取り付けるかに腐心し、結局前に進めないので自らがすり減ってしまうのです。

例えば公務員時代にはあるプロジェクトでどうしてもハンコを押さない部長に対し「そういえば部長とサシで飲んだことないですよね。うまい店知ってるらしいじゃないですか、たまには奢ってくださいよ」と誘い出し、ベロベロに酔わせました。翌朝、お礼をかねて決裁文書を何の説明もせずに差し出すと、あっという間にハンコを押すわけです。これでも公文書としては決裁を得ているので法的な問題はありません。
残念ながら「まちに真摯に向き合うプロジェクト」に対する抵抗勢力の大半は、それを上回るプロジェクト・方法論を持っているわけではなく、「自分が大変だから・わからないから・リスク負うのが嫌だから」程度の理由で反発しているに過ぎません。何らかの(正当な)ポリシーを持っているわけでもありません。
その程度の理由で手が届くはずの未来を放棄するのはあまりに勿体ないわけです。綺麗事・理論・正論を並べるよりも、大切なのは組織としての意思決定のエビデンス、それに基づきプロジェクトを進めることです。手段に拘る必要はありません。

計画で位置付ける

前述のように行政では「何らかの計画で記載されたこと」が、質やプロセスはどうであれ、その事業のエビデンスとなっている場合が往々にしてあります。
ということは、戦略的に何らかの計画・方針・要綱等の執行権の範囲内でできること(更に言えば首長までの決裁も不要なもの)で、自分たちのやりたいプロジェクトを位置付けてしまえば、できる可能性は非常に高くなります。

「温暖化防止・環境負荷の低減」、「老朽化設備の計画的な更新」、「民間ノウハウ・資金の積極的な活用」といった言葉が(いくつかの計画に分散していたとしても)既存行政計画に位置付けられていれば、公共施設の空調・照明設備の更新はESCO事業が選択肢となるはずです。

庁内・対外的に示してしまう

更に身近な手段として有効なのが、アウトリーチです。
津山市の「つやまFMだより」のように庁内LANや庁舎エレベーター内に掲示することでやっていること、これからやりたいことを日常的・定期的にアピールしていくことで、関係者へ意識しなくとも受動的に情報を届けることができます。

阿南市では職員有志による公共施設マネジメントチームが専用サイトを立ち上げ、自分たちが考えていることや庁舎・科学センターなどで積極的に実施しているトライアル・サウンディングをPRしています。

流山市では(現在はやっていないようですが、当時は)5〜6回/年の頻度でその時機に応じた講師を招聘し、職員研修を実施することで「やろうと思っているプロジェクト」が効果的であること・魅力あるものだとPRしていました。毎回定型フォーマットで実施するアンケートを集計・分析・公表することによって、やる気のない・理解のない職員には「自分が少数派で古い」ことを認識させていくこともしていました。
また、庁内での意思疎通・認識が低迷していたり、議会との関係がよくない時期には対外的な評価を得るために戦略的に賞をとることで抵抗勢力を抑えながら、シレッと新規プロジェクトも応募時や受賞時のプレゼン資料に紛れ込ませることで既成事実化していきました。

更に、議会の一般質問でもFM関連の質問がなされたときには答弁で必要な事項を答えたうえで「今後はこのノウハウを応用して。。。も展開していきたいと考えています。」などと議事録に残る形で既成事実化を図っていきました。

経験知が勝負

既成事実化するスキル

行政の場合は前述のように「何となく」「いつ決まったかわからない」意思決定がされていることが多々あります。これをうまく使っていくことがまちのために求められています。
ということは、いかに既成事実化を効率的に図っていくのか、そのスキルが求められることとなりますが、いきなりそのスキルを高いレベルで持っている人がいるわけではありません。

いろんなプロジェクトを小さいレベルでも良いので実践していくことです。そして、その実現までのプロセスの中で様々な「経験知」が蓄積されていきます。

この経験知が蓄積されてくれば、(必ずうまくいくわけではありませんが)既成事実化との相乗効果でプロジェクトが進めやすくなっていきます。

大切なのはプロジェクトに結びつけること

まちは手をこまねいていたり、現実から目を背けつづたり、やってるフリだけしていると加速度的に衰退していきます。

重要なのは、今できることをひとつずつ・愚直に・地道に形にしていくことです。計画をつくることではありません。市民・上司・首長・議会・既得権益の顔色を窺っていたり忖度していても何も得られるものはありません。

そのために手段は選ばない、やりたいことをやるためにはその道筋を一つずつ既成事実化していくことも決して綺麗ではありませんが、リアルな生き方のひとつです。まちみらいでは、必死になって前に進もうとするまちを全力で支援します。

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