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憧れるのをやめましょう


憧れ

オオタニさん

WBCの決勝前のロッカールームで日本代表の大谷翔平選手が「今日だけは憧れるのをやめましょう」とチームメートに語った。

僕から一個だけ。憧れるのをやめましょう。ファーストにゴールドシュミットがいたり、センターを見ればマイク・トラウトがいるし、外野にムーキー・ベッツがいたり、野球をやっていたら誰しも聞いたことがあるような選手たちがいると思う。憧れてしまっては超えられないので、僕らは今日超えるために、トップになるために来たので。今日一日だけは彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけ考えていきましょう。

WBC_決勝前のミーティング

ヒリヒリとした状況下で勝つためには、相手に憧れたりビビったり冷静さを失って心のどこかに隙・迷いを生じさせている場合ではない。

J1昇格プレーオフ敗退後のエスパルス選手とサポーター

(このブロックはおまけ)
先日観戦したJ2プレーオフ決勝(ヴェルディvsエスパルス)でも、エスパルスは後半ロスタイムにそのままあと数分間を凌いで試合をクローズすればJ1に上がれた状況であった。
しかし、ロングボールを一発放り込まれペナルティエリア内までドリブルを許すこととなった。周囲の状況が見えていれば、リスクが非常に低かったのでディレイすれば良かったところを、「ボールに喰らいつく」メンタルでタックルして結果的にPKを与えてしまった。
このタックルの前にも丁寧に回しながらボールキープ(やうまくタッチラインに逃げるなど)すれば良かったものが、別のMFの選手が「仲間のために」1人で頑張り3人のディフェンスに囲まれてロストしてしまった。
更にお互いに疲弊し(、一部交代でフレッシュな選手が投入され)ているなかではハイラインを保つ必要もなかったが、「チーム戦術を頑なに守って」DFはハイラインの隙を突かれている。
攻撃陣も何度もあった決定機で枠内にシュートを飛ばせなかったことも「勝利のために早く点を取る」焦りから生じたのかもしれない。
監督も「超アグレッシブに」と言いながら、選手交代が後ろ中心になってしまっていたりした。

こうしたことを考えても確かに「相手に・何かに憧れて」いる場合ではない。
一方で、公共施設マネジメントやまちづくりの世界では、(少し意味の違った)「憧れ」が蔓延しているように思う。
まちを取り巻く状況が非常に厳しく、デッドラインを超えてしまったような状況のまちもあるなかで、「他のまち・プロジェクト・人」に憧れている場合ではない。

「憧れ」るようなプロジェクト

近年はオガールプロジェクト、morineki、長門湯本温泉、Globe Sports Dome、INN THE PARK、あすなろの里、山陽小野田市のLABV、ONOMICHI U2などキラキラしたプロジェクトが日本各地に誕生している。

確かに現地を訪れれば「そこでしか味わえないサービス」を味わえるし、「自分のまちにはない」世界で憧れてしまうことは理解できる。
ただ、ここでいうところの憧れは無いものねだりの「羨ましさ」でしかないのではないか。

他のまちは「裏山」

業務でいろんなまちの行政担当者・幹部・首長・議員等と話すことが多いが、そのなかでもこうした憧れるようなプロジェクトが話題に上ると、「〇〇はいいよね。」「うちには〇〇さんのような人がいないし」「うちには地域コンテンツがないし」「うちには金がないし」「うちは〇〇のやる気・スキルがないし」といった思考回路・言い訳を連発して勝手に闇落ちしていく。

他のまちでは「何らかのラッキーな与条件があったから」できて、「うちのようなアンラッキーor普通のまち」にはそもそも無理だと、ガチャのような世界観になってしまっている。
「裏山」とイジけていても何も好転することはないし、誰かが手助けをしてくれるわけでもない。
「〇〇ガー」と叫んでいても、それは現在の立ち位置・スタート時点でしかなく、そのポイントは受け入れていくしかない。

「憧れ」すらしない

もっと悪いのは、「憧れ」すらしようとしないことである。
「どうせうちのまちには」と、既得権益・老害の重鎮の言いなりになったり、事勿れ・前例踏襲の思考回路・行動原理で行政運営(≠自治体経営)しているだけに成り下がっていては加速度的にまちが衰退していってしまう。
元気のない・希望を失った・パブリックマインドの欠如した人たちが中枢にいるまちは、残念ながらその空気感がまちなかにも蔓延し、希望のある動ける人たちが逃げ出していく。

羨ましがるレベルでの「憧れ」すら持てないようでは、希望はなくなっていく。

もちろん聞くだけ番長・自分ごととして考えないのは論外である。

憧れ⇒可能性

「憧れる」ようなプロジェクトをもう少し冷静に見ていこう。

「いきなり」ではない

どのプロジェクトも短期間・思いつきでできたものではない。

なんば駅前のウォーカブル化のプロジェクトは、足掛け10年以上にも及ぶ地道で愚直な積み重ねが根幹にある。当初は行政も「なんば駅前の整備は完了している」という認識を持っていたので、これを変えていくことは生半可なことではない。
ウォーカブル化に伴い、駐車場付置義務に基づき設置されていた高島屋等の駐車場が使えなくなる。タクシー・バスなど既存交通関連事業者との利害調整、搬入車の取り扱いなど相当の時間をかけながら、しかもオーダーメイド型で解いていかなければならない課題が山積していた。

オガールも新聞報道で「黒船が来た!」からはじまり、岡崎正信氏をエージェントに据えるための庁内・議会との調整には相当の時間を要している。
常総市のあすなろの里においても、当初は「教育財産だから約60,000千円/年のキャッシュアウトしていても全く問題はない」という認識であった。そこから管理職研修、案件協議、サウンディングから全国初のトライアル・サウンディングを経て徐々に変わっていた。

つまり、一朝一夕に優れたプロジェクトが構築できるわけではなく、地道で愚直なプロセスを蓄積しながら、時には(様々な外圧で)脇道にも落とされそうになりながら構築している。

「表面的」ではない

優れたプロジェクトは、現場をみたりセミナー・書籍等で情報に触れると、確かに見た瞬間に「凄み」が伝わってくる。この表面に現れる輝きに国・コンサル・学識やピュアな行政の担当者は「憧れ」を感じてしまうのもわからなくはない。

人間もそうだが、輝いているものは決して「表面だけ」が輝いているのではない。前述のようなプロセスを経ながら、関係者の個性やクリエイティビティ・まちの文脈などが内側から多様なレイヤーとして複雑に絡み合うことで輝いている。
だからこそ、事例集等で表面上に現れるスキーム図や資金の流れだけを見ても意味はないし、要求水準書等をそのまま劣化コピーしても全く再現性はない(どころかとんでもない悲劇を招いてしまう)。

「簡単に」ではない

近年、廃校活用で注目されている福知山市のTHE 610 BASEや里山ファクトリーは、アウトプットだけ見れば地元プレーヤーがそれぞれのビジネスモデル・規模にあった形でプロジェクトを展開している。
表面上だけ見れば、福知山市が実施したのは「市街化調整区域に位置するにも関わらず、民間事業者の使いたい形に合わせて学校敷地とその周辺のエリアに地区計画をかける」行為でしかない。
ただ、その過程では庁内の都市計画や開発部門との調整はもちろん、京都府との調整や文部科学省への確認など多様で煩雑な手続きが要求される。

それだけでなく、THE 610 BASEでは敷地の一部に民地が残存していたこと、里山ファクトリーでは既存の浄化槽の人槽では工場等の用途に対応できないことなどの技術的・物理的・法的問題も存在していた。こういったものを一つずつ丁寧に対応していったからこそ、現在の姿が存在するのである。

愚直に

このように「憧れる」ような事例について、一つずつ本日に至るまでのプロセスやエピソードを読み解いていけば、結局は自分たちの目の前にある課題やポテンシャルに対して関係者がプロとしての専門性・職域を活かしながら一つずつ「愚直に」紐解いていることがわかる。

クリエイティブなプロジェクトは、アウトプットの輝きだけでなく従来型・旧来型の発想・行動原理だったら突破できなかった様々なことを、自分たちらしく試行錯誤しながら解決策をオーダーメイド型で導いていったことが大きなポイントであるし、それこそがクリエイティビティである。
包括施設管理業務委託などは、全くアウトプットに煌びやかさはないが、(中途半端なビルメンテナンス業者の仕込み案件は問題外だが、)自分たちで丁寧に包括も組み上げていけば、そこには自ずとクリエイティビティが宿っていく。
その過程ももちろん愚直なものでしかない。

可能性

大谷選手がMVPを受賞したとき、一緒に画面に映っていた犬がバズり、SNS上は大喜利状態となったが、そのなかに「犬に憧れるのをやめましょう」というフレーズがあった。
他の人・プロジェクト・まちを羨ましがり、表面的に憧れて、自分たちとは違う世界だと諦めてしまっては意味がない。

「憧れる」ような他の人・プロジェクト・まちは、誰にでも・どのようなプロジェクトにも・どんなまちにもどこかに可能性があることを示唆してくれている。
どこにも道筋が見出せないと前に進むのは困難になってしまうが、様々な人・プロジェクト・まちが(似たようなことをやれば上手くいくわけではないが、)可能性や道筋を照らしてくれている。

オオタニサンの犬に憧れてしまうのと、指をくわえて他の誰か・プロジェクト・まちに「憧れているだけ」なのは同義でしかない。
自分たちらしく覚悟・決断・行動をしていく。その過程で「憧れる」ような先人の知恵・道が役に立つだろう。

お知らせ

公共FMフェス2024in福山

2023年8月に草加市で開催し、大好評をいただいた公共FMフェス。満を持して第2回を2024年1月17日に福山市で開催することになりました。
詳細は上記リンクで確認いただきたいと思いますが、今回もSlidoを活用しながら会場参加型の1vs1のトークバトルを3ブロックにわたって展開します。絶対に再現性のない・ここだけでしか聞けない・超リアルな場ですので、ぜひみなさんご参加をお願いします。

実践!PPP/PFIを成功させる本

2023年11月17日に2冊目の単著「実践!PPP/PFIを成功させる本」が出版されました。「実践に特化した内容・コラム形式・読み切れるボリューム」の書籍となっています。ぜひご購入ください。
出版記念企画の「レビュー書いて超特濃接触サービス」も絶賛実施中ですので、ぜひこちらにもご応募ください。

PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本

2021年に発売した初の単著。2023年11月現在5刷となっており多くの方に読んでいただいています。「実践!PPP/PFIを成功させる本」と合わせて読んでいただくとより理解が深まります。

まちみらい案内

まちみらいでは現場重視・実践至上主義を掲げ自治体の公共施設マネジメント、PPP/PFI、自治体経営、まちづくりのサポートや民間事業者のプロジェクト構築支援などを行っています。
現在、2024年度業務の見積依頼受付中です。

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