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FairとEqualの違い?

先日、私が働いている会社のAttendance policyが来月から変わるという通達がありました。「Attendance policy」というのは、「出勤に関する方針」といったところでしょうか。アメリカに住んではいるものの、根っからの日本人である私は、無遅刻無欠勤が普通のことで、Attendance policyが変更するからと言って懸念すべきことはありません。実のところを言うと、現在のAttendance policyについても、把握しきっていないくらいですから。
そんな私が知る限りで現在のポリシーを説明すると、

 ①ペナルティ(罰則)はポイント制
 ②遅刻、無断欠勤などをすると、ポイントが課せられる
 ⓷一定ポイントに達すると解雇になる
 ④課せられたポイントは3ヶ月(確か…)で消滅する

というもの。
実は私、日本でもアメリカでも今のような大きな会社の一員となった経験がなく、比較するものもほぼないのですが、アメリカでは、人から聞く話限り、細かい違いはあれ、このようなポイント制を導入している会社は多いようです。似たり寄ったりでも、この細かい違いによって厳しさが決まってくることになりますが、私の会社は超ユルユル。Attendanceでクビになった人の話なんて聞いたことがないくらいです。実際に、私が働いているベーカリーにも、週1かと思われるペースで欠勤をする常習者がいますが、あまりに目に余る場合は書面での警告状が出されているようです。でも、そこどまり。当然のことながら、真面目に出勤して、無責任に開けられた穴をせっせと埋め続けている真面目組の不満はたまっていきます。このままでは、早かれ遅かれ、真面目な従業員が愛想をつかして店を離れ、無責任な従業員がはびこることになってしまう、とうんざりしていたところでの今回のポリシー変更。全店舗でそんな雰囲気が蔓延していたからなのかどうかは分かりませんが、少なくともアクションがあることはいいサインと思いたいものです。
さて、今段階で通達があった新ポリシーの要点はというと、こんな感じ。

 ①各自に一定時間の無給休暇時間が与えられる
 ②遅刻、欠勤は有給休暇を使わない場合は、この無給休暇時間から差し引
  かれる 
 ⓷遅刻、欠勤にあてる有給&無給休暇時間がなくなった時点で解雇 
 ④30時間働くごとに1時間の無給休暇時間が追加されるが、上限は60時間
  とする

質問があったら各チームリーダーに聞くように、とのことなのですが、どう思いますか?

私は質問がありました。
「新ポリシーが適用される時点でのポイントはどうなるのですか?」

例えば、新ポリシー適用日の時点で、ポイントが解雇寸前までたまっている場合、そのポイントはどうなるのか?ということですね。

ベーカリーのチームリーダーはMatt。昔は私と同じくベーカーでしたは、前職では軍隊や救急隊員の経験もあるそうです。そのせいもあってなのか、曲がったことや、うやむやなことはとにかく嫌いな頼れるボスです。これまでに築いてきた信頼関係もありますので、働く上での不満や提案、相談もストレートに話ができます。
ということで、今回も質問をぶつけてみました。すると、「そこだよね」と言いたげな顔でこんな風に返ってきました。

「Fair (公平)とEqual (平等)と言うのは違って、僕はEqualにするというのは
 嫌なんだよね。
 ま、とにかく、マチコはどうするのがFairだと思う?」

正直、FairとEqualのくだりには「ん?」とも思ったのですが、その場は、とにかく言おうと思っていたことを言いました。

「どのような方法で換算するのかは分からないけど、現在のポイントを時間 
 に換算して、最初に与えられる無給休暇時間数から差し引かれるべきだと
 思う」

実はその前日に、一緒に新ポリシーを読んでもらった旦那さんに同じことをいったところ「言いたいことは分かるけど、多分そうはならないと思う。新しいシステムの始まりは、みんな同じ地点からのスタートになるんじゃないかな」とのことでした。そう言うのも分かりますが、気になるなら聞いておくべきだし、伝えたいことは伝えるべき。
There is no harm in asking.

細かい決まりが発表されていない現時点において確証はないものの、Mattの予想も旦那さんと同じものでした。ありがちなことですが、会社としては、とにかく『訴えられないこと』が最優先。だから、それによって、たくさんの人がラッキーにもたまっていたポイントが自然消滅する、という結果になるのではないか、とのことでした。
「結局そういうものなのか」と、もどかしく思うとともに、なんらかの処置が施される一縷の望みも捨てず、正式な発表を待つことにします。


さて、今日の本題はここからです。
その後も、上記の会話のことを思い返しながら仕事をしていたところ、やっぱり、どうにも気になることが…

 あれ?FairとEqualって違うの?どんなふうに?
 Mattは「Fairであるためにはどうするのがいいと思う?」って言っていた
 けど、Equalであるためだったら答えは違うの?
 ていうか、FairとEqualの違いって何?

考えるほどに混乱してきたので、Mattに直接聞いてみることにしました。彼にとっては唐突な質問だったかもしれませんが、すぐに朝の話のことだね、と察した様子。一瞬、間を置いて、私が分かりやすいようにと、今はもういない前のアシスタントチームリーダー(ATL)の女性の名前を例に挙げて、こんな風に説明してくれました。

ケーキデコレーターとして働いていた彼女は、スキルもスピードもあって、毎日、時間内に自分のやるべき仕事をしっかりとこなしていた。その姿を見たMattは、徐々に彼女にケーキのデコレーション以外のことも教え始めた。例えば、材料の発注の仕方とか、在庫管理の仕方とか。きっと、ATLとしての素質も見抜いていたのでしょう。
するとある日、ベーカリーで働く別の人が、自分にも同じように教えてほしいと言ってきた。ところが、そう希望してきた人はというと、自分の仕事もこなせていない状態。よって、Mattはその希望を却下。 
 
 この場合、Equalであることを優先するならば、全員に同じ機会を与える。
 だから、僕がしたことはEqualではなかった。
 でも、僕はFairであることを優先した。

この説明はストンと私の中に落ちてきました。
その上で、今度はネットでFairとEqualの違いというものを検索してみたところ、子供を育てる上でのFairとEqualの説明が出てきました。

母親から「あなたはもう寝なさい」と言われた幼い妹。お姉ちゃんだけずるい!と言う意味で「That's not fair」と言いますが、これはFairなんですね。妹が反論するならば「That's not equal」ということ。そして、それに対し、母は「そうよ、Equalじゃないわよ。だって、あなたはまだ4歳。お姉ちゃんは10歳。あなたの寝る時間が先にくるのはFairなことだよね」となるのです。
これも納得。

たまたま見ていたクイズ番組にも、FairとEqualがありました。
見ていたのは、その日に居合わせた3人の回答者が協力してクイズ王を倒すというクイズ番組。番組の前半戦は個人戦で、各回答者が賞金を稼ぎます。そして、3人がそれぞれに稼いだ賞金を合計した金額をかけて、クイズ王と対決するチーム戦が後半戦です。クイズ王を打ち負かせば、前半戦の3人の合計獲得額が三等分されることになりますが、これはEqualではあるけど、Fairではないですよね。前半戦で3,000ドル稼いだAさんと、25,000ドル稼いだBさんの獲得賞金が同じでは、単純にAさんが得をして、Bさんが損をすることになります。それでも、賞金は3等分するのが番組のルール。
もし、前半戦の個人の獲得金額を反映して、その割合に応じて賞金額が分割されるのであれば、それがFair。

こう考えると、世の中にはFairだけどEqualでないことや、EqualだけどFairでないことが、なんてたくさんあるのでしょう。
似ているようで、ある意味、相反しているかのようなFairとEqualの存在が気になって仕方がない今日この頃。
それぞれの状況や、置かれた立場に応じても、Fairを優先するかEqualを優先するかは変わってくるものだとは思いますが、物事に理不尽さを覚えた際の一指針にはなりそうですね。


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