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リレーコラム #8「今この目の前のこと」

 子育てを始めて2年になる。長女が産まれたばかりの頃は、見たこともない小さな体でする呼吸 が止まってしまわないかと耳をそば立てたり、破裂してしまいそうなほど大きな泣き声を聞くたび に、早く大きくなってくれと毎日願っていた。それに、授乳やオムツ替えにと四六時中かかりっきり で、うまくあやして置いても30分と続かない。自分のための断続的な時間が一切なくなった。分厚 い本が読みたい。断捨離をして家をすっきりさせたい。気ままな旅行や、深夜のカフェ。ふと思い 立って友達に会いに行きたい。もっとたくさん仕事がしたい。いつもどこかに思いを馳せ、「自分だ けの時間が欲しい」という怨念のような気持ちに心を覆われていた時、「子育てをしている今は、 幸せで愛おしい、宝物のような時間」と、ある人に言われたことがあった。「遠い昔を思い出すと 切なくなるよ」と。

 2歳になった長女は、この夏の終わりから少しずつ話し始め、毎日新しい言葉で私たちを驚かせ る。抱かれて眠る妹のように横抱きをしてとせがんできては、屈託のない笑顔を向けてくれる。2 ヶ月前に産まれたばかりの次女は、最近自分の手を発見した。握りしめたり返したりしながら「思 い通りに動く不思議な物体」をずっと見つめている。猫の耳のようにふわふわの髪の毛や、まだ 地面を踏みしめたことのない柔らかい両足も愛おしい。今にまじまじと向き合えば、心が溶けてし まいそうな瞬間がたくさんある。そしてこれらはあっという間に過ぎてしまうことも、2年間繰り返し 感じてきた。

 数ヶ月も経たないうちに、私は今のふたりに会いたくてたまらなくなるだろう。そう思うと、読書も掃 除も旅行も仕事も、そのうち十二分にできる日が来る。社会で活躍している同世代と比べたり、 何かを成し遂げて得られる充足感が恋しくなっては、生産性の低い日々につい焦ってしまうけれ ど、今はそばにいる人たちと、目の前の小さな成長を目一杯楽しみたい。

辻田美穂子
カメラマン
家族構成:夫、長女2歳、次女0歳

【質問】
Q1.忙しい毎日、どうリフレッシュしている?
 子供たちを昼寝させたら家の前に椅子を出して、夫とふたりでコーヒータイム。カフェがない田舎 町に住んでいるけれど、風の音や季節の鳥の声が聞こえてくるのが最高です。

Q2.子育て中に使ってよかった施設やサービス、教えて!
 今年の夏、産院が遠方のため、3週間ほど産院の近くでホテルを転々としながら放浪生活をして いたのですが、晴れている時は、噴水のある公園ハンティングをして、水遊び。雨の日は住民登 録をしていない街でも利用できる屋内のあそび場へ。アレルギーもちの長女を連れての外食生 活でしたが、アレルギー表がすぐに出てきたり、除去対応してくださる飲食店さんはありがたかっ たです。

Q3.あなたにとって「子育てしながら働きやすい職場やまち」
 困りごとを相談しても「前例がない」で済まされるのではなく、きちんと対話をしてくれるまち。 仕事はフリーなので、都度現場が変わるのですが、どうしてもこどもを置いていけず連れていく時 などはみなさん寛容に受け入れてくださいます。時には撮影中抱っこしていてくれる人も・・・! 「私も困ったから」と、経験と思いやりからの配慮に助けられています。

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