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漫画語りー7. 「ちゃんと生きよう」となる反面教師漫画<闇金ウシジマくん>


はじめに


こんにちは、マッチロと言います。


ぼくは漫画が大好物で、これまで何作品か読んで楽しんできました。その中で感動して印象に残った作品がいくつもあるわけですが、このnote上で、ここが好き、これを学んだ、等の自分の感想や印象をとことん綴っていこうと思います。

読んだことない人のために作品の魅力をできるだけネタバレしないよう紹介するつもりです。拙い箇所もあるかもしれませんが、漫画が同じく好きな方は少しお付き合い頂いけると幸いです。

今回は青年コミックの中で読書中最もインパクトを貰い続けた大好きな漫画、「闇金ウシジマくん」です。


「闇金ウシジマくん」


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リスクの先にあるリアル


前回書いた『インベスターZ』は投資や会社経営など、言ってしまえばお金の陽側を扱ってました。

一方、『闇金ウシジマくん』は逆に借金、ギャンブル、負債など、お金の陰側にとことんフォーカスしています。


漫画の主役、丑嶋馨は、闇金融を営む「カウカウファイナンス」の社長として君臨し、数人の部下と共にあの手この手で日々債務者からお金を回収します。

しかも、利息が基本で10日で5割、時には日で3割とかなり暴利です。


そんな「カウカウファイナンス」を訪れる顧客は幅広く、

パチンコ依存症の主婦、中小企業の社長、専業主婦、ゲイ、フーゾク嬢、フリーター、サラリーマン、タクシードライバーー、生活保護者・・・

など、お金に困ったいろんな人が闇金融に頼ってきます。


漫画では彼ら債務者にまつわる業界だけでなく、

イベントサークル、読者モデル、ホスト、不倫、犯罪性の洗脳、フリーエージェント、ギャング、半グレ、ヤクザ・・

といった日本社会のダークサイド、アンダーグラウンドな部分を闇金融と絡めて紹介しています。


普段真っ当に生活している人は、なかなかこういったことは見たり聞いたりしないため、漫画の内容に唖然として「本当かよ⁉︎」と疑いたくなることでしょう。



では、なぜ作者の真鍋先生は裏社会にまつわる出来事を事細かく描けるのか。

それは先生自身が身を削って行った取材のおかげです。


聞く所によると、真鍋先生は紹介を通じて、裏社会だろうとどんな相手でも自分の足で直接取材に赴きます。漫画の印税はその取材の飲みにほとんど消えるそうです。

大半の取材は幸い事なきを得ますが、なかにはワインをぼったくられたり、取材後も付きまとわれたり等のちょっとした事はあったようです。



普通は会うだけでも臆する相手に、リスクを覚悟してまで取ってきた生の情報。

まさに、「虎穴に入らずんば虎子を得ず」です。


しかも、真鍋先生はその情報を想像力でうまく咀嚼してストーリーを描き、そこに先生の独特な絵のタッチが物語のダークな世界と非常にマッチするため、裏社会の実態が十分伝わってきます。


印象に残ったエピソードを一つ取り上げると「フリーターくん」は、

物事を甘く考えて行動したばかりに、家族ぐるみで搾取されて崩壊していく様がしっかり描かれている故に読んでて辛く、ぼくも楽観的に思考する所があるので襟が正される気持ちになりました。


<フリーターくんより>

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裏社会を知っている人がこの漫画を読むと、リアリティを超えるリアルな内容にうなるそうですが、それほどのクオリティだからこそ多くの読者を魅了するのでしょう。



登場人物が生きて見える言葉の叙情的表現


物語で丑嶋社長が放つ数々の名言は、ある種漫画の決め台詞でもあり、心にグサッと刺さる内容ばかりなのですが、多くの人が引用して割と知られているため、今回は別の点に着目します。


「闇金ウシジマくん」で出てくる債務者は、


家庭環境が円満でなかったり、
将来を予測せず目先の欲に手を伸ばしたり、
他人から憧れられる承認欲求のために見た目を気にしたり、
誰にも頼ろうとせず狭い視野で一人で解決しようとしたり、


という特徴がほとんどですが、彼らに共通してる見られる姿勢は、


世間に対する妬み嫉み僻み+自己否定を口にすることです。


この債務者たちのネガティブな言葉が漫画ではオンパレードで、内容もすごく現実的かつ情緒的で、読む度に真鍋先生の表現に度々感心します。


たとえば、次の「生活保護くん」のとあるシーンを見てください。

<生活保護くんより>

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これはこのエピソードでの登場人物、佐古彰によるモノローグですが、

ぼくはこれを読んだときネガティブ全開なのに、描かれている絵も相まってすごい詩的に感じました。

そのため、登場人物の卑屈になった心情がすごい伝わってきます。



前回の「インベスターZ」を描いた三田紀房先生は、セリフに比喩が出てきたら絵でもその比喩を描く(例: ファーストペンギンの言葉が出たらペンギンを描く)手法をとっていますが、


一方で真鍋先生は、セリフと関係なさそうな描写や情景までもしばしば描写しています。

上記の絵で言うと、最後の猫のアップなんて別に要らなそうなのに、なんかこの後登場人物の彼に良からぬ事が起きるのではないか、と暗示しているようです。


もちろん、漫画内ではリアルさを出すためにエログロ表現や負債者の悲壮感丸出しな顔のアップなど露骨な描写もあるのですが、この抽象と具体のバランスが絶妙です。


また、簡単に負債するような人は自分ワールドに浸り、訳のわからないような話し方をするようで、その様子もちゃんと描かれています。


<スーパータクシーくんより>

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「むらむらむらーり・・」なんて、先生は一体どうやってこの言葉を思い付いたんだろう・・・。

そんな変わった言葉使いによって、さらに負債者キャラのクレイジーさが醸し出てます。



以前テレビ番組で、林修先生斎藤孝教授も「闇金ウシジマくん」に注目してる発言をしていましたが、そうした国語を教える先生が一目置くのも真鍋先生の豊富な語彙と情緒的な文章も起因しているのでしょう。

真鍋先生の凄まじい観察力、想像力、発想力から描かれる言葉と表現の魔法は是非みなさん読んで感じてほしいです。



圧倒的存在! 社長、丑嶋馨!


「闇金ウシジマくん」は救いようのない人たちのショッキングな物語がひたすら続くので、読んでると胸がキュ~~っと毎回なります。


じゃあ、なんでそれでも漫画を読むのか。



そんな憂鬱な気分を散らしてくれる、丑嶋社長のどでかい存在があるからです。

胸が塞がるようなエピソードの最後に必ず現れて、まるで昔の時代劇かのように事件を収束する展開は少し気分が晴れます。


ぼくは漫画を読んで、一番好きなキャラクターにその作品の主人公を選ぶことはほぼないですが、丑嶋社長は断トツで好きになりました。

理由を列挙すると、

・でかくてゴツい体からくる威圧感
・その上頭もキレて話しが合理的かつ論理的
・トラブルに対する用意周到な計画を欠かさない
・余計なしゃべりもほぼせず、感情的な話し方を一切しない
・たとえ相手が地位も力も格上だろうと反撃する肝が据わっている
・時と場所を弁えて嫌な相手でも我慢する忍耐力
・こんなに男として憧れる要素満載なのに、ウサギを愛でるというギャップ


等があります。


余談でぼくはジョジョ第三部の空条承太郎も大好きなのですが、

ゴツい体格、逆境でも取り乱さないクールな性格、頭のキレの特徴が類似してるため、

いつも丑嶋社長と被ります。


これだけのカリスマ性と漢気を持ち合わせているからこそ、部下の柄崎と加納に社長の忠誠心が芽生えるのでしょう。経営者として優秀です。

そんな丑嶋社長は右腕の柄崎を信頼の上でよく虚仮にするですが、その絡みも面白くて好きです。


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少しネタバレになるかもしれませんが、丑嶋社長は元々闇金融ではなく真っ当な仕事をして生きてくはずでした。しかし、さまざまな事情により裏社会で生きていくことになったのです。

人は過ちを繰り返すのでしょうか。最近このnoteの記事を読んですごい丑嶋社長を思い出しました。


けれども、芸人のバットボーイズの佐田正樹さんや元ヤクザの鈴木啓之牧師など、現実には過去を悔い改めて表社会で頑張ってる人は少なからず存在します。


人間は強烈なきっかけと害がない環境が揃えば本人の内的動機次第で人生をやり直せる、とぼくは信じたいです。

<生活保護くんより>

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おわりに


「闇金ウシジマくん」ははっきり言って、劇薬の漫画です。


決死の取材を元にした真鍋さんの露骨な表現と言葉から伝わる、裏社会事情とお金に困って苦しむ人の姿があまりにリアルなので見るに堪えない、という人の気持ちもわかります。


しかし、読んだ人はきっと、「おれ、ちゃんと生きよう・・」と思い直して、強く生きる知識と覚悟が得られるでしょう。

世に出版されてる数々の自己啓発本よりよっぽど生き方に響くんじゃないでしょうか。ぼくはもし子どもがいたら、ある程度成長した時に絶対読ませたいです。


この漫画を読んで少しでも多くの人がお金と人生に真剣に向き合って、不幸な道に進まないことを願います。

好きすぎて長くなりましたが、お付き合い頂きありがとうございました。


こちらもためになったので合わせて是非


こちらの書籍も普段あまり経験しない仕事を筆者の体験を通して紹介されており、ウシジマくんと同じくらい日本のキツいリアル社会を垣間見られると思うので、是非どうぞ。




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