#022 アイツは突然やってくる②
拝啓 ひらめいてしまった方へ
前回「#021 アイツは突然やってくる①」のつづきです。
※プロット[パパとのLINE(仮)/ 第2章:崇夫]です。
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■コンセプト(メッセージ)
「見守ってくれるひとは、いつもそばにいます」
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~ タイトル:パパとのLINE(仮) ~
■第2章:崇夫
7年前、崇夫の膵臓癌が発覚し、
主治医からは「余命は1年持つか持たないか」と告げられた。
崇夫は、このとき40歳。
妻・恵美子も40歳。
大手自動車部品メーカーの同期で、
崇夫は技術職、恵美子は総合職。
2人は、お互いが25歳のときに結婚した。
その2年後に、ひとり娘の澪が生まれ、
澪が小学5年生のときに、3LDKのマンションを購入した。
35歳のとき、恵美子が課長職に就き、
崇夫は、37歳のとき、遅れて課長に昇進。
しかしおそらく、数年以内には、
40代前半の若さで、部長職に昇格するだろう。
崇夫はマネジメント力も高く、人望も厚く、
社内でも指折りの優秀なマネジャー(課長)として評価されていた。
崇夫個人にとっても、
順調すぎるほど順調だった道半ばに起きた、
膵臓癌(ステージ Ⅳ)の発覚だった。
崇夫の膵臓癌は、膵臓だけでなく、
リンパ節、ほかの臓器ヘの転移も確認されたため、
手術は行えず、化学療法のみの対応になった。
病院の1階。
ロビーソファに座った崇夫と恵美子。
「1年持たないのか。さすがにキツイな」と崇夫。
「そうだね」と恵美子。
「オレ、先生の説明にすごく納得した。つか感動した」
「わたしも」
2人は冷静だった。
主治医は、崇夫の現状と今後の治療方針について、
とても分かりやすく説明し、またすべての質問にも的確に回答。
2人は狼狽えることなく、大きく深くうなずき、
「よろしくお願いします」と言って、
いま、病院の1階のロビーソファに座っている。
「ねぇ?」と恵美子。
「うん。きっと同じこと考えてるよね?」と崇夫。
「たぶん」
「澪のことだろ?」
「そう、澪のこと」
崇夫はすぐに入院した。
そして2人きりのときは、今後のことについて、
1階のロビーソファでも、中庭でも、病室でも、話し合った。
特に、これからの澪のことについて、話し合った。
3LDKのマンションは、崇夫にもしものことがあった場合、
残りの住宅ローンは全額弁済されるため、
生活していくうえで、むしろ負担にはならない。
たとえ恵美子がいまの課長職を降りても、
贅沢しなければ、しっかり生活は続けていける。
2人は、これからの澪のことだけが心配だった。
この先、高校受験(進学)があって、大学受験(進学)もあるだろう。
ひとりっ子で、思春期に入ったばかりの澪。
崇夫と恵美子にとって、
最も気がかりだったのは、澪のことだった。
何度目かの話し合いの際、崇夫が言った。
「澪の誕生日ごとに届く手紙なんてどうかな?」
すぐに恵美子がストップをかけた。
「それ、澪が好きなアニメのエピソードでしょ?」
「そう。そっか、そうだよな」
「オレだったら、真似じゃん! って思うもんな」
恵美子が「LINEは?」と言った。
「LINEってさ。予約送信ができるらしいの」
「そうなの?」と崇夫。
「なんかね。日時を指定して送信できるらしいの」
「それ、はじめて聞いた」
「なんか別のアプリが必要らしいけど、わたし、調べるね」
数日後、1階のロビーソファ。
「ねぇ、スマホ貸して」と恵美子が言った。
そして崇夫のスマホを操作して、
[LINEの予約送信アプリ]をインストールした。
「はい、完了」
恵美子は崇夫にスマホを返し、
「じゃあ、テスト配信しよっか?」と言った。
「よし。澪と恵美子に送るね」
翌日夕方の時間を指定して、澪のLINEにテスト配信した。
💬 澪、元気か?
そして、恵美子にもテスト配信した。
恵美子が崇夫に訊ねた。
「わたしに、なんて、送ったの?」
「恵美子、元気か? って送った」
「じゃあ、明日それ、わたしにも届くね」
翌日の夕方になっても、
崇夫が澪に送ったメッセージに、
既読はついていなかった。
その日、恵美子といっしょに病院に来ていた澪に、
「昨日の夕方に送ったパパからのLINE、届いてる?」と訊ねた。
澪は「届いてないよ」と答えた。
「あれ? 送ったはずなのにな」
「パパ、誰かに間違えて送ったんじゃない?」
崇夫は恵美子の顔を見た。
恵美子も、首を横に振った。
つぎの日の夕方、
崇夫が1階のロビーソファで、
恵美子の来院を待っているとき、
チン ♪ コン ♪(LINEの通知音)
崇夫のスマホが鳴った。
確認すると、
それは、澪からのメッセージだった。
しばらくして、恵美子が来院した。
崇夫が言った。
「おかしなことが起きてる」
「どうしたの?」と恵美子。
崇夫が、澪とのトークルームを開いて、
恵美子に見せた。
💬 どなたですか? パパですか?
間違いですか? いやがらせですか?
どうしてわたしに 送ってきたんですか?
パパはいま天国にいますよ やめてください
「何これ? 澪から?」と恵美子。
「たぶんな。…… でもオレ、天国にいるらしい」
「崇夫、死んでる体になってるじゃん」
「オレの余命、澪は知らないだろ」
「わたし、言ってないし」
「つか、トークルームが2つあるんだよ」
崇夫が、そのトークルームを閉じて、
トーク一覧を見せた。
「これと、これ」
「ほんとだ」
「で、いま見せた[オレ終了]のやつが、こっちのB」
「で、さっき、こっちのAの方に、こうLINEした」
💬 パパ、生きてるよ。
「そうしたら、澪から即レスあって」
💬 どうしたの? パパ 変なこと いわないで
きょうは塾 でもあした そっちいくから
ぎゅっと してあげる
「恵美子、どう思う?」
「なんだろ。アプリがおかしいのかな」
「で、こっちのBに送ろうとしたら、予約送信しかできないみたいで」
「やっぱりアプリがおかしいんじゃない?」
「だと思うけど」
「ねぇ、崇夫。Bの方に、もういちど送ってみたら?」
「そっか、そうだよな、そうしてみる」
「わたしのトークルームは?」
「恵美子の方も2つあって、既読はついてた」
「ちょっと、わたしのスマホ、見てみるね」
「うん。見てみて」
「えぇっと、トークルームは1つだね。で、昨日、崇夫が言ってた」
「恵美子、元気か? …… は、届いてない」
崇夫は、恵美子の前で、
あす夕方の時間を指定して、澪のLINEに予約送信した。
💬 正真正銘、澪のパパだよ。
アニメ「バイオレットエバーガーデン」、
澪・ママ・パパ、3人で見て、みんなで泣いた。
どうかな? パパって信じてくれる?
2日後の夕方、いつもの1階ロビーソファ。
「崇夫、お待たせ」
「恵美子、お疲れさま。 澪は塾?」
「そう。明日はいっしょに来る。…… で、どう?」
崇夫が、
澪とのトークルームBを開いて、恵美子に見せた。
💬 パパだ 本物だ なんだかよく分かんないけど
元気ですか? 天国で元気してますか?
澪は元気に生きてますよ~
やったー! 天国のパパとLINEできる~
あとね ヴァ ヴァだから
ヴァイオレット・エヴァーガーデン 間違わないでね
恵美子は、つい笑ってしまった。
「これ、澪じゃん。ヴァ、ヴァって、ぜったい澪じゃん」
「そうだよな。でもやっぱり[オレ終了]みたいだね」
「それは、わたしたち2人、もうすでに覚悟してることだけど」
「でも、この澪は、何年先の澪なのかな?」と恵美子。
「いや、ちょっと待って」と崇夫。
「なに? もう何年先の澪か、予想ついてるの?」
「じゃなくてさ。恵美子いま、普通に受け入れてるけど」
「うん。時空がおかしいね」
「だろ?」
「…… うん。…… うぅん? そうじゃん!」
「そうなんだよ」
「時空が狂ってるじゃん!」
たまたま通りがかった看護師に、
「あの、もう少し声のトーンを ……」 やんわり叱られた。
崇夫と恵美子は、
2人ともが肩をすぼめて「すみません」と謝った。
恵美子は、このアプリのことを、
崇夫には[LINEの予約送信アプリ]と伝えていた。
しかしこのアプリは、予約送信のためのアプリではない。
恵美子は崇夫に、アプリの実際の機能、
つまりアプリの実相と本来の目的(遊び方)について、
何も話していなかった。
アプリ名:ミライン(未来のひととLINEであそぼう)
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メッセージを送信すると、そのトークルームのやりとり履歴や、
ネット内のあらゆる情報から、AIが自動で返信メッセージを作成。
あたかもトークルームの相手のような口調で、その返信メッセージが届く。
しかし、あえてクセのある機能になっていて、
既読のつくタイミングと、返信の届くタイミングが、
早かったり遅かったりする。
即レスのときもあれば、数日空くときもある。
このクセ機能のせいで、あまり人気のないアプリだった。
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つまり、AIを活用した「ごっこ遊び系」のアプリだった。
しかし、
崇夫がこのことに気づかないはずはなかった。
崇夫は、工学部 情報工学科 出身。
しかも、ずっと技術職(ソフトウェア開発技術者)。
崇夫と恵美子は、
このことを知りながら、お互い黙ったまま、
崇夫はずっと架空の(1年後の)澪と、LINEごっこを続けた。
恵美子は、そのやりとりを崇夫といっしょに楽しんだ。
澪がそばにいないとき、2人だけのとき、
このアプリ遊びのほかにも、別のアプリで遊んだり、
オセロや花札をしたりして、
崇夫と恵美子は、じゃれあった。
たまに病院関係者に叱られることもあったが、
2人にとって、このイチャコラは、
かけがえのない時間になった。
入院してから約5ヶ月が経った頃、
崇夫の容態は、急速に悪くなった。
ベッドの上からあまり動けなくなり、
もちろん院内を歩き回ることも、
1階のロビーソファまで行って、
架空の(1年後の)澪とLINEごっこしながら、
恵美子とじゃれあうこともできなくなった。
ほかの遊びも控えるようになった。
ほとんどの時間を病室で過ごすようになって数日後、
2人きりの病室内で、
崇夫が恵美子に言った。
「なぁ。頼みごとが、2つあるんだけど」
「うん。いいよ。なに?」
「1つは、トークルームBの澪にLINEをしてほしい」
「もう、それ、いいんじゃない?」
「いや、ダメ」 崇夫はそう言って、
ベッド脇の床頭台の抽斗を開けて、
恵美子にメモを渡した。
「これ。この文章で、1階のロビーソファからLINEしてあげて」
恵美子は手渡されたメモを見た。
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澪、これが最後のLINEになると思う。
澪、看護師になる夢、かなえなさい。
澪ならなれるし、
パパは天国と澪のそばを行き来するから、安心しなさい。
澪、夢に向かって、頑張れ!
パパはこれからもずっと応援している。
そしてこれからもずっと、愛してるよ💗
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恵美子は戸惑った。
崇夫は崇夫なりに、
これまでの2人のイチャコラタイムに決着をつけようとしている。
おそらくもう、覚悟を決めたんだ。
恵美子はそう思って「…… うん。分かった」と回答した。
「で、もう1つは?」
恵美子がそう訊ねると、
「オレのスマホ。最低10年、解約しないでおいてほしい」
「するつもりないけど。でも、どうして最低10年なの?」
「澪が23歳になるまでは、絶対に解約しないでほしい」
「どういう意味?」
「もし、現実の澪が看護師試験に合格したら」
「現実の澪、そんなこと言ってないんだけど」
「もしも、でいい」
「それ、トークルームBの話だよ」
「知ってる」
恵美子は困惑した。
そして急に泣きたくなった。
でも、ここでは泣きたくない。
だから、
「ごめん。とりあえず1階行って、LINEしてくる」
恵美子は、
崇夫からスマホを受け取って、
病室から出て行った。
恵美子は、
トイレの個室で、ひとしきり泣いた。
泣き終えて、1階のロビーソファに行き、
崇夫のメモを見ながら、
トークルームBの澪に予約送信した。
30分ほど経って、
恵美子が病室に戻ってきた。
「遅かったね」
「うん。ごめん」
崇夫は恵美子の不在中に、
もう1枚メモを書いていた。
そのメモを恵美子に差し出した。
「もしものときでいいから」
「もしものときね。はい、はい、分かりました」
恵美子はメモを受け取った。
そのメモには、
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澪、合格おめでとう💗
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と書かれてあった。
「短!」と恵美子。
「それは、トークルームAに頼む」
「はい、はい、Aね。リアル澪の方ね」
「絶妙なタイミングでね」
「絶妙なタイミングって、なに?」
「ここぞ! のタイミング」
「はい。そのとき、考えます。もうほかにない?」
「ある」
「なに?」
「チューしたい」
「バカ!」
それから約1ヶ月後、
崇夫は、亡くなった。
…… そして1年が過ぎ、
1周忌法要も終えた、ある日の夕方。
恵美子は、
仕事から自宅へと帰る途中(運転中)だった。
チン ♪ コン ♪(LINEの通知音)
助手席に置いたバッグの中のスマホが鳴った。
会社を出て10分も経っていなかったため、
(なんだろう?)と思って、
車を路肩に停め、
バッグからスマホを取り出し、
LINEを確認した。
トーク一覧のトップに、
💬 恵美子、元気か?
恵美子は、おそるおそるタップした。
💬 恵美子、元気か?
つか、愛してるよ💗
あのときの、テスト配信のときの、メッセージだった。
恵美子は、つぶやいた。
「ちょっと、ねぇ、崇夫ぉ、崇夫ぉ」
涙があふれてきた。
「恵美子、元気か? だけじゃ、ないじゃん」
「つか、愛してるよ💗 って、なに?」
いろいろな感情が一気に押し寄せ、
「つか、時空、狂ってるじゃん」
嬉しさも相俟って、ついには決壊した。
恵美子は車の中で、声を上げて泣いた。
子どもの頃のように、大声出しながら、しばらく泣き続けた。
~ 第2章:崇夫 / おしまい ~
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このつづき、
■第3章:恵美子
については、次回「#023 アイツは突然やってくる③」で書きます。
第1章の内容と照合(検証)してみないと分かりませんが、
整合性の取れていない箇所があるかもしれません。
ですが、いまの段階で、わたしは気にしていません。
それは、プロットをさらに詰めていく過程で、
もしくは実際に執筆するときに調整・訂正すればいいのです。
ちなみに今回の記事で、お伝えしておきたいことは、
ストーリーをひらめいてしまったら、
覚え書きでもいい。プロットでもいい。
プロットは短くてもいい。長くなってもいい。
とにかく逃げずに書き切る。
ということです。
ではでは、次回「#023 アイツは突然やってくる③」もお楽しみに。
[告知]
とても売れているようなので、
この本を買いました。
~ 5月中に読後の感想を記事にします ~
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