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小説|赤いバトン[改訂版]|最終話 終わりが始まり(語り:ユカリ)

ココミさんは「これが便箋びんせんのコピーです」と言って、
A4サイズ二枚を渡してくれた。

わたしが読み始めると、
「このエピソードをコアにしたラジオドラマを作りたいと思っていまして」
ココミさんはそう言って、わたしが読み終えるのを待っていてくれた。
読み終えたわたしは、
「いじめを止めたんだ。……スゴい、二年D組」とつぶやいた。
「二年D組? えっ? そんなこと、どこにも書いてないですよね」とココミさん。
きっとココミさんは、まずわたしに読後の感想をくつもりだったと思う。
しかし、咄嗟とっさに口をいて出たのは、便箋びんせんのどこにも書かれていない二年D組のこと。
わたしは「はい、書いてありません」と答えた。
ココミさんは「ユカリさん、いったい何をご存知ぞんじなんですか?」
目を見開きたずねてきた。

わたしは、二ヶ月前の誕生日、平成三十一年三月十八日の月曜日、妹リカコとの電話から始まった[赤いバトン]にまつわるあれこれを説明した。

■わたしの地元の、卒業証書を入れる赤い筒のこと。
■地元では、その赤い筒を[ありがとうの赤いバトン]と呼んでいること。
■妹のリカコ・妹の友人コトノちゃん・同ノリコちゃんが、
 学生時代にボランティアで訪問した児童館で、
 偶然出会ったコウスケくんと、
 コウスケくんの[赤い折り紙のバトン]のこと。
■コウスケくんのお母さんが、
 サンキュー先生からもらった[赤いバトン]のこと。
■サンキュー先生 = クミコ先生 = コウサク先生の奥さんであること。
■コウサク先生が校長をつとめている小学校に、
 妹の友人ノリコちゃんが在任ざいにんしていて、
 その偶然からいろいろな話とさまざまな人たちがつながったこと。
■昭和五十八年の二学期終業日(クミコ先生の教職最後の日)、
 クミコ先生から担任クラスの二年D組四十人全員に、
 バトンが渡されたこと。
■青いバトンの存在と、バトンの番号 = 出席番号であること。
■わたしの地元の[ありがとうの赤いバトン]。
 その本当の始まりが、クミコ先生の教職最後の日に、
 二年D組全員にバトンが渡された出来事に由来ゆらいしていること。

せんだって、わたしは旦那に、
「どういうこと? もう一度説明して」と聞き直され、二度にわたって説明していたこともあって、話をし始めると、思いの外、整理ができていることに気づかされた。なのでわたしは、とてもリラックスした状態で、順を追って分かりやすく説明することができた。

ココミさんが右肩上がりに興奮し始めた。
えんと偶然がつながって、バトンリレーになっていて」
「……スゴい。スゴいですよ、ユカリさん!」
「今の話、そのまま、いきましょう!」
「コンセプト、愛を知る、はやめます!」
「コンセプトは、ありがとうをリレーするに変更です!」
「開局六〇周年の感謝の気持ちとも合います!」
「今の話をそのまま、全二十話で進めたいです!」
ココミさんは、もうテンションMAX。
逆にわたしは、自分の説明がスムーズにできた達成感からか、とても冷静だった。

「ココミさん、先ほど、ラジオ番組のエピソードをコアにと……」
(コア?)

「大丈夫です!」
「今この瞬間、この場のシーンが、そのままクライマックスの一つです!」
「だから全然OK! むしろOKです!」
「編成会議、絶対わたしが通します!」と強気のココミさん。
わたしは「あ、はい、了解しました」と圧倒あっとうされた。

(コア = 中心?)
突然わたしは「あっ!」とひらめいた。
(コア = 心!)
ココミさんは「えっ? あ、何か問題でも?」と。
(core = coeur!)
「いえ、あの、ペンネーム、今思いつきまして……」と言いながら、
手許てもとのノートに書いた。

コア:coeur(心)+  ラ:la(定冠詞)+  ミユ:mieux(より良い)

ノートを見せつつ、
「ココミさん。わたしのペンネーム」
「コアラミユにします」
「わたし、学生時代にフランス語も学んでいて」
「文法的にはバッテンですが……」と前置きして、
「直訳すると[最高の心]になります」と解説した。

わたしのこの見事な大発見に、
ココミさんは「はい、お任せします」
なんともうす~い反応だった。
(おやおや?)

まぁ、とにもかくにも、
わたしはペンネームを[コアラミユ]に決めた。
妹のリカコは言うだろう。
「おもんないし、おねえらしない」と。
でも、今回のラジオドラマ限定のペンネームだと言ったら、
「それなら賛成したる」と支持してくれるはず。
この[赤いバトン]の話には[最高の心]が相応ふさわしいから。

……という訳で、
その後、ココミさんとの打合せは順調に進み、
全二十話のおおよその流れまでサクサク決まった。
打合せ終了後、ココミさんは、局の外まで見送りに出てきてくれて、
「今日はありがとうございました。これからもよろしくお願いします」
美しいお辞儀じぎを見せてくれた。
わたしもキヲツケして頭を下げた。
「こちらこそ、ありがとうございました。引き続きよろしくお願いします」


……という訳で、おしまい。

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ていうか、[第一話 卒業の日]につづく。
以上、コアラミユでした。
**********************************


~ おしまい ~


この作品についての著者のたくらみなど、
[あとがき]内でいろいろ解説しています。
ぜひあわせてお読みくださいませ。



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