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「ママ、アメリカの大学に行きたい」

 ティーネイジャーの息子が、濃いまつ毛を伏せて、今もダイニングテーブルで問題に取り組んでいる。私はカフェオレを片手にネットのニュースを読みながら、休日の朝を楽しんでいる。息子は数学オタク。三度の飯より…いやかなりの食いしん坊だから、三度の飯“と”数学が好き。頭の中身の9割がその2つみたい。インターナショナルスクールに通う彼の夢は、数学を思いきり勉強できる大学に行くこと。最近「ママ、アメリカの大学に行きたい」と言うようになった。やはり数学を学ぶには、教授も学生も世界中から才能が集まるアメリカが最高ということのようだ。いったい文系100%で数学は苦手だった私からどうやってこんな子が生まれたのかしら。彼は好きな数学と大学受験準備に集中していて、それにほとんどの時間を使いたいという気持ちがとても強い。ミーハーにいろんなことに興味があり気が散りまくっていた私の10代とはかけ離れている。
 
 私の10代といえば、好きなものは映画、ドラマ、本、雑誌。恋に憧れ、おしゃれして、友達と遊んでおしゃべりする日常。勉強はやる気後退といった具合。
 けれど夢はあった。ファッション誌の編集者になりたかった。雑誌が大好きでページを繰るたびに新しい世界が開かれた。ファッション、旅、インテリアや料理、そしてかっこいい女性たちの生き方にワクワクした。
 ただ息子とは違って、夢の叶え方もわからず、なんとなくなりたいと思っているままで大学に進学。多少人並みにマスコミ講座なるもので就職対策をしたくらいで、大いなる運に恵まれ有名出版社の採用試験に合格。ファッション誌の編集者として約30年仕事をした。怠け者になりがちで好きなことしか一生懸命できない私が、好きで得意な仕事に恵まれた幸運に感謝している。
 けれど夢中で働いて50代になってみると、雑誌は斜陽産業、自分自身の定年や老後も見えてくる。ずっと編集者でいられるわけではない。会社でももう編集者の現役は退き管理職だし、退職後フリーランスでやるとしても雑誌の世界の仕事は限りなく先細りだろう。50代からの新しい夢を探さなくてはと、焦った時期もあった。
 
 でも、今の私には子供の夢がある。子供の夢を応援する幸福。全然違うタイプの息子を応援するために私がいつも彼に言っているのは、好きで得意なことを見つけて仕事として一生懸命できたらとっても楽しいよ、ということ。それから、生活にはお金も必要だからお金が十分と思えるくらい稼げる仕事ならとてもバランスがいいと思うよ、と。さらに、好きなことを思い切りやるために好きじゃないこともある程度する必要はあるね、といういこと。
 私はタイガーマムではないから、息子に厳しくすることはほとんどない。タイガーマムというのは、一言でいうとアメリカのアジア系の教育ママ。子供の教育に熱心で厳しく、いい大学に進学させ、医師、弁護士、エンジニアなどを目指させる。私は自分の価値観を押し付けてしまうよりも、自分の50年の人生で学んできたそれなりの知恵や価値観を、彼に共有し役立ててほしいと思う。
 そして息子には、勉強、キャリア、人生に、楽しい夢を描けるようにしてあげたいし、それによってモチベーションも高めてあげたい。自分が、高校時代に勉強への高いモチベーションを失ってしまったと思いと、後になってもっと勉強しておけばよかったという思いがあるからだ。私が高校時代は1980年代前半。自分が怠けた言い訳もあるが、時代的にも日本人女性がキャリアに対して高いモチベーションを持つのは難しかったと思う。男女雇用機会均等法の施工が1980年代後半。勉強していい大学に入ることでどんな夢が描けるのか、全くわからなかった。
 息子には、さらに現実的なサポートも必要。アメリカの人気私立大学は、日本とは一桁違うほど学費が高いから、夫婦で大学資金をしっかり貯めなくてはいけない。

 彼が大学に行くまであと数年もない。自分の50代からの夢探しに焦った1、2年もあったが、自分の夢はゆっくりでもいいか、と思う。彼が楽しく勉強できる環境を作ってあげて、お金をきちんと準備してあげて。子供の目がキラキラ輝くのを見るほど嬉しいことはない。今持っている楽しさを大事にしよう、今そばに居て応援できる幸せをしっかり楽しもうと、思う。

#かなえたい夢

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