異物だった私を引き上げた1人の先生。インクルージョンは実現できる、自分の半径5メートルから。
前回より:転校初日、1秒で自分が「異物」だと感じた話
こちらの記事で書いたように、小学校5年で沖縄から福岡に転校した私は、その初日に隣の席の女子からの悪気のない一言により、「自分はここでは異物だ」と感じ、心を閉ざしてしまったのでした。
私の「強み」を見つけ、光を当ててくれたケイコ先生
転校初日の出来事以来、なるべく目立たずに学校生活を送っていましたが、そんな私を輪に引き戻してくれたのは、担任のケイコ先生でした。
ある日彼女は、「学級旗を作ろう!」とクラスに提案しました。全員に一枚ずつA4用紙を渡し、次の日までにデザインを考えてくるという宿題を出したのです。
絵には多少の自信があった私は、家に帰ってすぐにドラゴンボールの神龍(シェンロン)を真似たデザインを本気で書き上げ、翌日に提出しました。すると数日後、なんと私の絵が学級旗のデザインとして選ばれたのです。
彼女はすぐさま私を「プロジェクトリーダー」に任命。そしてクラスメンバーを10人ほど選抜し、「プロジェクトチーム」を作りました。そのカタカナ言葉も、その進め方も、小学生の私には驚くほど洗練されて見え、とてもワクワクしたのでした。
私たちプロジェクトメンバーは、毎日頻繁に集まり、大きな学級旗を作り上げていきました。そして旗が完成に近づく頃には、私は自然とクラスメイトから一目置かれる存在になっていたのです。
今にして思うと、私のデザインの他に、もっと素敵なデザインはいくらでもあったのかもしれません。でもあえてケイコ先生は、見つけ出した私の小さな小さな「強み」に光を当てるために、私のデザインを選んでくれたのではないかと想像してしまうのです。
授業で初めて手を挙げた日、ケイコ先生が廊下に膝をついて全力で褒めてくれた
ケイコ先生のインクルーシブな観察と行動は、そこで終わることはありませんでした。
徐々に自信をつけ、博多弁も覚え始めた私は、ある日ついに授業で手を挙げ発言することに成功します。すると、予想しないことが起きました。授業終了のチャイムが鳴って廊下に出た私を、ケイコ先生が追いかけてきたのです。
彼女は私の両手をしっかり掴み、汚い廊下に膝をつけて私を真っ直ぐに見つめ、満面の笑みでこのように言いました。
今思い出しても、胸が熱くなります。彼女はずっとずっと私のことを気にかけ、私を輪に引き戻せるように尽くしてくれていたのです。
インクルージョンは実現できる。たった1人の半径の5メートルへの働きかけから。
世の中では、ダイバーシティ&インクルージョン(DEI)がトレンドになっています。企業の人事部で何度かDEIの推進役を任された経験のある私にとって、DEIの実現はゴールの見えない取り組みに思えました。あの手この手で働きかけても、企業文化に大きな変化は見られなかったからです。
でも、本当はそんなに複雑なことは必要なかったのかもしれません。外側の制度や取り組みに頼りすぎる必要もなかったのかもしれません。
ただ、あのときケイコ先生が示してくれたように、一人一人が「小さく縮こまっている誰かを見つけ、本気で気にかけ、強みに光を当てる」という行動を取ることができれば、チームも組織も地域社会も変化していくのだと思います。性別や属性とは違う次元の、本当のDEIが実現していくのだと思います。
だから私も、自分の半径5メートルのDEIから始めてみることにします。
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