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MaaS Creative通信①「交通ガバナンスのDX」を探して ~過去、現在、そして未来の地域公共交通を構想する~

はじめまして、永田右京と申します。慶應義塾大学 総合政策学部を2022年に卒業し、交通に関する「計画」と「販売」もプラットフォーム開発を通じて、いわゆる「まちづくり」に貢献する株式会社MaaS Creative を創業・活動しています。

今行っていること

現在、「市民とともに、地域公共交通サービスを耕す」仕掛けづくりについて、事例研究とサービスの開発の2面について取り組んでいます。この中で、

・多くの人が、交通に関する計画を、手触り感をもって作られる(計画)
・多くの人が、交通を「サービスの資源」として利用できる(販売)

仕組みづくり に取り組んでいます。

前者に近いプロダクトとして、トヨタ自動車さんや西鉄さんの手掛ける「My route」をはじめとしたMaaSアプリケーション、後者に近いプロダクトとして、総務省さんが提供しているRESAS、国土交通省さんが提供している国土数値情報、またバルセロナ発のデータプラットフォーム「Sentilo」などがあります。

これらのプロダクトの実装を通じて、市民と公共交通機関、市民と自治体をつなぐかけ橋を実装し、社会における交通の価値を高めていきたいと考えています。

私と私たちの会社「MaaS Creative」は、これらのプロダクトの社会実装を通じて、「交通ガバナンスのDX」を進めるパートナーを探しています。これを進めていくにあたって、私がどのような考えからこうした活動に身を投じるに至ったのか、きちんと説明しておきたいと思います。もしよろしければ最後までご覧ください。

きっかけとなる論考については、以下の2記事とnoteを参照ください。


「交通ガバナンスのDX」とは:交通政策の主導権を市民が握ること

私が考える「交通ガバナンスのDX」は、公共交通を「インフラ」としてとらえた上で、デジタル技術を使って、計画とサービスの販売に市民を中心とした多くの主体を参加させることです。

現状、特にバスを中心とする地域公共交通は交通事業者によって運営され※、交通事業者と行政、そして市民の代表者が集まる地域公共交通会議において計画や事業案が作られ、実行に移される仕組みになっています。しかしそこでは、いわゆる「専門家」の中で交通政策が決定されているばかりか、他事業との連携もままならない状況です。もちろん安全性の面では「専門家」の存在は重要ですが、それ以外の公益性、成長性などの面では、専門家や専門事業者のみに閉じた産業構造の肯定は難しいと考えています。

これを解決するためには、交通サービスの安全性ほかの品質を担保しながら「計画」と「販売」の民主化※ を達成すべきだと考えました。これには交通政策立案プロセスの徹底的な標準化と、交通サービス販売の全面的な解禁があげられます。つまり、多くの人々を地域公共交通サービスの設計・管理・運営に携わらせることで、公共交通業界の提供するサービスの社会における価値、つまり社会にもたらす効果を高めるべきだ、と主張しています。

※民主化:ここでは、すべての人が「作り手」になること

以下では、私がこのような考え方に至った経緯について、高校時代から順を追って説明していきます。

イントロダクション:「まちづくり」概念との出会い

わたしが「まちづくり」概念に出会ったのは、おそらく2015年くらいだったと思います。「おそらく」と言っているのは、あまりに自然だったからです。私はもともと鉄道や航空機に興味があり、航空管制官になるのが夢だったりもして、通っていた中高一貫校もその興味で選びました。

興味のままに鉄道や航空機でいろいろな場所へ行くごとに、まちを魅力的にしようと多くの方々が知恵を絞っている状況を目にします。さびれた商店街の片隅に住んでいた私からすると、そのような活動はとても魅力的に映ったものです。こうして大学でもまちづくりをしたい、それにかかわる研究をしたい、という意識が芽生えてきました。

格安航空会社との出会い:交通機関により人の行動は変化する

まちづくりと交通に関心を持ったある日、スカイマークが経営破綻したときに航空会社の経営について研究していた私は、格安航空会社(LCC)の搭乗率が異様に高いことに気が付きます。多くの路線で85%を超える驚異的な搭乗率が地域に何をもたらしているのか、それを探るために、当時バニラエアが就航していた奄美大島に飛びました。

奄美高校へ取材へうかがったりしました。

そこで気づいたことは、LCCの導入によって観光客の行動が大きく変化するという事実でした。客層が変わるだけで、交通行動が大きく変わるのは当たり前ではありますが、当時の私からすると新鮮に思えました。

テクノロジー偏重への違和感:政治あっての「安全」、AIだけでは成り立たない

航空管制官になる夢は視力の関係でついえているのですが、その道も探っていた私は、当時電子航法研究所(現 同研究所兼東京大学准教授)の伊藤恵理先生の研究室へお邪魔し、航空管制関連の研究にも触れてきました。2018年には、ドローンにおける測位ネットワークの研究でNRI学生小論文コンテストの奨励賞を受けました。

この研究活動の中で感じたことは、安全は機械や人工知能(AI)だけでは達成できないという点です。もちろんAIは、データを分析し、あるべき答えの可能性を提示してくれる点で有用です。しかし実際のところ、提示されるのは「可能性」のみであり、「答え」ではないのです。提示された可能性が高いか低いかを判断するのは人間であるし、そもそも何が望ましいかを判断するのも人間です。つまり、AIが判断するよりまず、人間が「何が望ましいか」について、判断をせねばならないのです。これこそ政治です。

2017年ごろから、「未来投資戦略」とそれに付随する会議が始まり、結果としてAIの活用に焦点が当たるようになってきました。一方で、AIの導入ですべてが解決するというような、AIの限界を超えた言説も見られるようになりました。私は常に、こうした言説に違和感を覚え、人間の意思決定とデータを基にしたそれをどうミックスさせるか、という点に注意を向けるようになりました。

私の大学では、様々な「テクノロジーに触れることも可能でした。こちらは脳波を計測している様子。

MaaSという気づき:テクノロジーが交通を変える可能性

2018年に大学へ入学してから、観光やまちづくりと関連して、MaaSと呼ばれる領域を扱うようになりました。MaaSはスマートフォンのチケットに代表されるような、新たなテクノロジーを利用して交通サービスの提供体制を変革、具体的には複数の交通手段をまとめて一つのサービスとして提供するシステムの総称とされています。これを使えば、現状閉塞感が漂う公共交通産業において、なにか変革がもたらせるのではないか?今推進されている政策の意図や効果を探るために、株式会社MaaS Tech Japan へのインターンをはじめとして、業界への参加を進めていきました。

MaaSに覚えた違和感と無力感:変化しない業界構造

MaaS関連の業界に、一インターン生として参加するにつれて、地域公共交通政策が2分化していることに気づきました。交通を「課題解決の手段」として提供する向きと、交通それ自体を「目的」として提供する向きです。これら自体は悪いことではありませんが、前者については交通需要の多目的性から、後者については交通を「派生需要」とする交通経済学の前提から、不適切だと考えています。

前者でいえば例えば、送迎のためだけに交通機関を新たに引くという政策は、資源の有効利用の点で公共交通に比べて明らかに不利です。また後者については、第二次交通政策基本計画で規定されてはいるものの、「一億総交通マニア化」でも起こらない限りは不可能です。つまり、双方ともに公共交通が多目的に利用されている、という状況をとらえきれていないのです。

加えて多くのMaaSプロジェクトにおいて、既存の業界構造をそのままアプリケーションに落とし込み、"利用者から見れば" デジタル化による構造変革(DX)を成し遂げられていない事例が多いことも分かりました(下図)。例えば既存の販売手法をデジタル化(デジタライゼーション)したり、現在の販売やサービスを一部変更して共同チケットを提供する(デジタイゼーション)といった施策が、(自動運転を除いた)MaaSに関連する政策の多数を占めています。これらの施策は確かに、デジタル化によって促進されたとはいえ、前者はマルスシステム、後者は連絡運輸制度や旅行業、レールゴーサービスなどですでに達成されていたことでもあります。AI配車システムや自動運転はまさしく交通サービスのDXと呼べるものでしたが、あくまで提供方法が変わっただけで、提供者/利用者間の一方的な構造は変化しませんでした。

これらの気づきを経て、地域公共交通政策において、デジタル化によって達成されることはもっと先にあるのではないかと考えるようになりました。業界に入り浸りつつも、これになんの解決策も見いだせない私自身に対して嫌気がさしていました。

このころ、民主政権下のミャンマーに赴き、現地の公共交通政策について目の当たりにしたことがありました。公共交通を利用していただけるような投資を、経済協力の枠組みとして1から最大限行っていたヤンゴン環状線プロジェクトに触れ、公共交通政策のあるべき姿をわずかながら学ばせていただきました。

ミャンマー・ヤンゴン中央駅にて、ロンドンスタイルの路線図を前に。

コロナ禍での気づき:公共交通の価値との向き合い気づいた、創造性の導入

このどん詰まり状況は、コロナ禍になって考える時間が増え、いくらかの進展を見せました。まず、交通というものに何の価値があるのか、これを徹底的に突き詰めました。この中で、地域公共交通政策の新たな視座として、関連する各主体が複雑に絡まりあって政策を形成する「ガバナンス」という概念と出会いました。この概念の導入をきっかけとして、政策にかかわる主体がどのように主体性を発揮しているかについて、情報収集を進めました。この結果として、公共交通はプラットフォームとして機能し、その上のサービスでは創造性が発揮されるべきだ、という結論に至りました。

また多くの公共交通では、交通事業者への事業監督行政が強く、少なくとも市民は創造性を発揮しずらいという状況が分かりました。結果として市民が創造性を発揮しようとすると、例えば自家用車での輸送をはじめとした非効率な市民運動に頼らざるを得なくなるのです。これでは交通業界は、その社会的な価値を高められません。なぜなら、多くの視点が入り提供できる価値を柔軟に変えていかねば、日本産出の石炭のようにその産業は忘れ去られるからです。であれば、それが実現できるような地域公共交通政策の制御=「交通ガバナンス」、の変革が重要です。

創造性については、2017年からSFCでお世話になっている井庭崇教授の十八番です。彼は創造を「『発見』の連鎖」として規定する「創造システム理論」を書きあげ、これを規定としたプロジェクトを研究会、また「クリエイティブシフト」で展開されています。彼の議論を参考にしながら、地域公共交通政策においてどう「発見」の連鎖を生むべきかについて、具体策の模索を始めました。

2021年の初めには、かつて参加していた神奈川新聞のフリーペーパーに取材いただきました。

「何かしなきゃ」からの迷走:創業、そしてプロダクト化での迷走

地域公共交通政策において創造システムを生むためにどうすればいいか、私はその糸口を「公共」の中に求めることで、解決策を探っていました、既存の「公共」交通は、岡野秀行先生によれば「公衆」交通であり、誰もが利用できる点で公共性があると考えられてきました。また、コミュニティバスや第3セクターをはじめとして、「公的」なものとしても作られてきました。しかし、「共的」、つまり「すべての人間が交通政策を『作る側」に回る」という状況は、なかなか作られてきませんでした。ガバナンスの観点からいえば、地域公共交通政策決定の中で、市民や市町村の主張はそこまで強くはない状況が続いていたのです。

このシステムについて考え、また実装するために、2021年の8月に「株式会社MaaS Creative」として創業、市場調査を行ってきました。コンセプトにはある程度の需要があると確信する一方で、私の考え方は地域公共交通政策においてメジャーではなく、また交通には課題解決手段としての役割が求められていることもあり、なかなか上手いプロダクト展開は考えつきませんでした。そんな中で卒業論文の執筆が重なり、プロジェクトはいったん休止状態となりました。

再スタート:「計画」や「販売」の民主化を通じて、「交通まちづくり」に創造性を!

卒論を終えて、早急にプロダクトの内容について詰めはじめたところ、卒論で取り上げた「地方創生」の状況と交通がかなり似通っていることに気づきました。一部の人々が計画を決定し、実行し、上手く行かずにとん挫する、そういった事例をたびたび見てきたからです。

現状、コロナ禍もあって様々な交通サービスがデジタル化され、「交通サービスのDX」が起き続けています。しかし、これは「交通ガバナンス」の変化を殆ど促進しませんでした。地域公共交通政策に参加する主体は自治体、公共交通機関、住民の代表者など固定化し、政策立案は事業者やコンサルティング会社、あるいは学識経験者が担ってきました。このような、地域公共交通政策立案が「専門家」のみに消極的に閉じた構造は変わりませんでした(下図、再掲)。

既存の主体だけに囚われ、目的を見失い、漫然と交通サービスが提供され続ける地域公共交通は早晩、誰のためのものでもなくなり息絶えるでしょう。
公共交通は、すべての人を拒んではならないという既存の定義に照らしても、すべての人を巻き込みながら維持、変革されていくべきものです。だからこそ私は、「交通ガバナンスのDX」の実現に取り組みたいと考えています。

これを達成するために、公共交通に多くの人を参加させ社会的な価値、官民連携まわりでいうところの「社会的インパクト」を高めるシステムとして、「計画」と「販売」の民主化を目的とした事業や政策研究に取り組むことにしました。具体的には、路線、運賃、ダイヤや財源などの交通計画づくりをフォーマット化し、どの自治体でも策定が容易な形に仕立てます。さらに公共交通機関のサービスを、誰でも「自分のラベルを貼って」販売できる、運送サービス卸システムも構想しています(下図)。

これらの実装により、地域公共交通政策を「積極的に開く」ように変化させ、以て多くの視座を導入し「発見の連鎖」を導入できると考えています。


この構造で、大事なことは4点あります。まず政策立案プロセスにおいては、市民を政策形成の中心に置くこと。次に、市民に専門的な政策手法を伝え、それを利用できるように仕立てることです。政策手法には、計画立案、評価軸の設定、評価、アイデア生成の機能を含みます。もちろん、これらの伝えられる政策手法は、批判されながら改善されていく必要があります。

サービス提供プロセスにおいては、交通事業者が提供する運送サービスを他企業へ容易に卸せる仕組みを作ること、また卸したサービスの提供主体にできる限りの人々を混ぜることが肝要です。これにより、自らの事業を発展させるために交通を使えるようになり、機会を等しくした「我田引鉄」が可能となります。

今後に向けて:一緒に「交通ガバナンスのDX」を進めませんか?

私と私たち「MaaS Creative」は現在、このような「交通ガバナンスのDX」を目指し、少しづつ歩みを進めています。現在、先述した「市民に専門的な政策手法を伝え、利用できるように仕立てる」データプラットフォーム、そして「サービスの提供主体にできる限りの人々を混ぜる」ためのアプリケーションを開発・実装するチーム作りを行っています。私だけの力では、この活動を成功させることはできません。

私と私たち「MaaS Creative」は、「デジタル技術を使って、計画とサービスの販売に市民を中心とした多くの主体を参加させる」ために、様々なことに取り組んでいきたいと考えています。

私たちのチームで、この未来の実現に向けて活動してみませんか?もし画面の前のあなたが、私たちのプロジェクトに共感しつつも、批判を与え、役割を与え、ともに活動してくださるならば、こんなにうれしいことはありません。ぜひ、将来の「あるべき」交通ガバナンスのために取り組みましょう!

MaaS Creativeからのお知らせ

MaaS Creativeは、創業期メンバーを募集しております。

職種:アプリディベロッパー

①交通政策可視化
②オフラインセキュリティシステム開発
「交通ガバナンスのDX」を実現する、交通システムの可視化プラットフォームと、交通に関連する決済プラットフォームの開発に携わります。特にWebアプリケーション、オフラインアプリケーションの開発経験のある方を歓迎します。

職種:リサーチャー

「交通ガバナンスのDX」を実現するためのプロダクト群について、実装に係る戦略を決定、実行します。
具体的には、先行事例調査や研究に取り組みながら、顧客へのコンサルティングを行い、必要なサービスの実装計画を立てて実行管理までを担います。

ご興味がありましたら、私のメールアドレス(ukyonagata@maas-creative.com)やTwitterへご連絡ください。

「交通ガバナンスのDX」とは:
デジタル技術を使って、
計画とサービスの販売に市民を中心とした多くの主体を参加させること

重要なこと:
・市民を政策形成の中心に置くこと
・市民に専門的な政策手法を伝え、それを利用できるように仕立てること
・運送サービスを他企業へ容易に卸せる仕組みを作ること
・卸したサービスの提供主体にできる限りの人々を混ぜること

文責:永田右京(株式会社MaaS Creative 代表取締役)

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