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バブル時空間へフルダイブ

『アッコちゃんの時代』を読みバブル脳になっちゃってる。
もうこの時代の「美貌とスタイルと運に恵まれた女性」に成りきらなきゃ出て来ない表現、シチュエーションの連続で楽しい。

大人達が本当に皆楽しそうだった。エネルギーに溢れていた。中曽根×米国の関係性も磐石、向かうところ敵無し。街も人の装いもメディアの中身もキラキラし華やかだった空気感だけは子供だった私の中にも強烈に残っている。
小説とはいえその時代の中心部の狂乱を(実在の女性をモデルにした)女王の目線で知る体験が出来る。ハイカロリーゆえ読むのに普段使わない部分の体力が要る、でも楽しい。

主人公にとって重要な場所であるイタリア料理店、キャンティの地階が学生には近寄りがたい、成功者、芸能関係者やデザイナー、文化人などステータスを持つ人しか食事出来ない場所で、店の前によくロールスロイスが止まる・・?
イメージしてみる。架空の場所じゃなく、過去の映像として。

キャンティだけじゃない。84年の流行語大賞「〇金」(まるきん)、アライアのボディコン、ほんの少し見知っていた単語、記憶として残る断片的な映像に鮮やかな情報が描き加えられ確かなものとして補完されてゆく。楽しい。

BGMとして前半は80s JPOPアイドルを中心に、夫となる音楽プロデューサーと出会い、元彼は外資系企業で活躍、海外旅行などの描写が出る後半はカイリーミノーグ、マドンナの曲などに切り替えてエンタメとして没入した。私にとっては音楽さえあれば小説はメタバースのフルダイブと変わりはない。

ちなみに物語は小説発売時である2005年前後まで続く。
成功者の象徴は不動産関係者から得体の知れないインターネット、IT関係者に切り替わり、バブル世代の目線からは新人類のように描写されているのも面白い。

彼等に言わせれば(オタク気質の)IT系成功者は「金の使い方を知らないってかんじ」で「ワインの味に詳しい語りたがり」は不景気ならではの存在、当時は全て美味しい前提でバンバン飲んでいたから、となる。成功者周りの目の前には最高のものしか並ばないのが当たり前、そんな時代が確かにあったのだ。


2005年まで来れば、心配しなくとも読後には2023年にちゃんと戻って来られる。
ただ読む前と読んだ後で、思考や手元に残る気持ちの質量には変化が出る。だってあのバブル時空間にいたのだから、今までと同じで居られる訳がない。
あの時代特有の高揚感を持って2023年以降の未来に出て行く、そういう選択も悪くはないし、後に引く必要もない。



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