見出し画像

息抜きの息継ぎ:20「天」



シンプルなボーイミーツガールものだと言ってしまえばそれまでです。

日常系天空の城ラピュタと言ってしまえばそれまでです。

レイを救い出そうとするシンジのシーンを重ねるなら
乗り込むコクピットや戦闘の必要のない
ゆるいエヴァとも言えるかもしれません。


だけど少年が少女に向けた気持ちの純度の高さは
今まで見たアニメ映画一でした。

ストーリーを詳しく解説することはしませんが、
ざっと流れを追いながら
かなりネタバレを含ませながら、
好きに感想を書かせて頂きます。


私にとっての『天気の子』は
コピーである「僕と彼女だけが知っている世界の秘密についての物語」ではなく

ただただ『男の子』が「主人公」の役割を果たして光る物語でした。

少年の気持ちと行動が物語を展開させていく、そういうお話でした。


おそらく無計画で、問われても明確な理由を答えることも出来ず、

行くあてもなく、何がしたいのか分からず、先も見えない、

灰色で冷たく、雑多で混沌としたイメージの序盤の雨の東京、が

少女に出合ったことで
とたんに鮮やかに美しく輝かしい、温度感のある描写をされていく、

序盤から中盤は
16歳の彼の気持ちの動きが、音と映像をそのまま動かしているような感覚に陥りました。


この主人公の少年と
対比されるように、主要人物として登場する大人の男。

中盤からは
私は彼等ふたりの気持ちの間をいったり来たりしながら
物語の展開を眺めていました。


私は彼等を大人と子供、という
単純なコントラストとしてではなく、
根底にあるものが同じであるふたり、として捉えました。


ひとつ、もしくはそれ以上の喪失や失敗や痛みを知りながら大人になり
それなりに、或いはなんとか「うまくやる」方法を身につけ、
同時に進行形で、模索しながら現状と静かに戦う、
(一見すると怪しい)『大人』


何でも出来そうな気がするのに
実際のところは何も知らない、
何の力も使えない、不自由さと制限、閉塞感ばかりを感じる、10代家出『少年』


どちらの行き場のない気持ちも
同時に理解出来るところまで生きた私の年齢が
そういう見方をさせてくれました。


とはいえ直接的なシリアス要素はほとんどなく、
シーンの大半、人物達のやり取りはテンポ良く、見るものを楽しませようとする演出に溢れていました。
(部屋の間取りやインテリアも楽しめた!)


私がアニメは絶対的にそうではなければならない、と思っていることのひとつ、

『ヒロインが無条件にかわいい』

(そこに理由なんて必要ない。ビジュアルが可愛ければそれでいんだよ性格なんか二の次)

も、難なくクリア。


ただ
ところどころに挟まれるワードや描写からはぽろぽろと

彼等は世間一般でいうところの、『幸せ』から外れてしまわないように、
ギリギリのところで踏ん張っているのだろう、という背景が読み取れ

だからこそ、この少年の持つピュアな気持ちは光のように
際立って胸を打ちました。


終盤、自分たちの『幸せ』を守る為に
信じた方向へと行動してゆく少年は
意図せず警察に追われる形になり


当然、大人の側の男は
まあ誰だってそうするよね、
(私でもそうするわ、そもそも16歳を働かせないわ)
という
「至極常識的な大人」の行動を取り、
少年に対し、おとなしく家に帰るよう、諭そうとします。



最終的に
彼等2人が向き合うシーンは私の涙腺を刺激しました。


全てを敵にまわしても
ヒロインの少女を助けることしか考えられない少年。


おいおい、熱くなるなよ、何やってんだお前。というニュアンスで
「様々なことを知っている余裕」を見せながら、なだめようとする大人。


自分の中にも存在し
対峙したままの「10代」と「大人」のふたつの気持ちが
目の前のスクリーンに人物としてそのまま映し出されているような感覚。しびれました。


古今東西、エンタメに銃はつきもの、
ですが
あんなに純度の高い気持ちで銃を構え
精一杯の存在証明のように引き金を引いた主人公を、私は見たことがありません。


クライマックスに少女の決断と行動にスポットがあたる「君の名は。」と対比させるつもりはないのですが、

この物語は少年の側の行動、で構成され、
それが全てと言っても良いほど清々しいものがありました。


最初にラピュタやエヴァの名を出したのは、
少女を救出する時の求心力、気持ちの強さは
パズーや、シンジと並べても良い、

いや、何の力も持っていない分、気持ちの純度だけで勝負している、
=彼らを越えてんじゃないかこれ、と感じた為です。


更には
『世界や誰かの為に、身を削る、
自己犠牲の精神が正しく美しいとされる
古い時代の象徴』
のようなヒロインに

彼はピシャリと言い放ちます。


『天気なんて狂ったままでいいんだ!
自分の為に、祈って!』


涙腺、崩壊。


どシンプルです。
現代のヒーローです。

世界など救わなくていい。

君が居ればいい。

世界や他人の為でなくていい、

自分の為に祈れ。



そちらの世界、を選んだ少年と
救われなかった側の世界、をしっかりラストシーンに描いた監督のキレはちゃんと感じ取りましたよ。


そして流れるエンドロールと
RADの『愛に出来ることはまだあるかい』

後半から終盤は特に
映像の力、音楽の力、言葉の力が冴え、

畳み掛けるように投下される
ピュアの爆弾に、私の心は完全に浄化されました。


良い映画を見た後はいつもそうであるように
映画館を出て目にする街の明かりのキラキラとした美しさが
目じゃなく胸に染みました。(余韻を楽しみたいなら映画は夜に限る!)

視聴したあとに、
世界は美しいな、と単純に思えてしまう、良質な映画だけが持つ魔法。

「賛否両論なレビュー」などどうでも良い。
私にとってはこの現象が全ての答え。


近いうちにもう一度みに行ってきます。
2度目はまた違った感想を抱くかもしれませんが、

ひとまず、ファーストインプレッションとしての記録を残しておきます。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?