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「授業が上手な先生」になりたくて塾講師になったのに、「君の強みは授業力じゃないよね」とサラッと言われたあの日の話。

シリーズ「よみがえる過去の私」
~No.1~

先輩である社員講師の先生に、ある日サラッと言われたのだ。

「君の強みは、授業力じゃないよね」

がびーーーーん。

当時27歳の私、撃沈。
学習塾の社員講師として、毎日毎日しゃかりきに授業をしていた頃の話。

私の憧れ、そして目標は、荻野文子先生。
「マドンナ古文」の荻野先生。
言わずと知れた、スペシャル予備校講師。

駆け出し塾講師の頃に、荻野先生の講演会を聞いたのだ。
映像ではなく、生で聞いた。
あの熱量を、肌で感じた。
演題は、「授業の切り口と構築性」。
いかにして、授業を組み立てるか?
良い授業とは何か?
生徒にいったい、何を持ち帰らせるのか?
何年経っても鮮明に、その講演内容を思い出せるほど。
荻野先生は、カッコよかった。
荻野先生は、輝いていた。

だから自分もなりたかったんだ。
「授業が上手な先生」に。

学校の先生は、授業以外のことも膨大にやらねばならない。それより私は、「教えること」に専念したい。「授業を磨くこと」に特化して生きたい。
だから、塾の先生になった。受験と戦う親子を、自分の授業力でもってサポートしたいと思った。

入社するなり新人研修でさんざんしごかれた。
「今日のこの授業で、お前はいったい、お客様に何を売ったんだ」と追い詰められた。
核無き授業は子どもにも保護者様にも失礼。お金をいただくに値しない授業、そんな授業、していいわけがない。
「今日は何を売るのか?」
……「商品としての授業」の準備は毎日毎日、死に物狂い。追い詰められても追い詰められても、耐えて偲んでここまできた。

のに……?

「君の強みは、授業力じゃないよね」

あぁなんてことだろう。私の授業力へのプライドは、かくも儚く消し飛んで、言い返す言葉も見つからない。

撃沈する私の顔を……

先輩は見ておらず。

その視線の先にある物は、私が作った小学受験対策用の学校別の模擬テスト。

「うん。授業力じゃ、ない。」
「君の強みは、『作問力』だ。」

……え?

サクモンリョク?

「こんな問題、よく思いつくよね。あの学校の問題に、そっくりなのに、誰も見たことがない。」

あ、もしかして、けなされてるんじゃなくて、褒められてる?

左手に、模擬テストの問題用紙。
右手に、問題とセットの立体模型。
両方しげしげと眺めながら、先輩は言ったのだ。

当時の私は、立体模型を用いた難問を毎年出題する、とある私立小学校の受験対策授業に燃えていて……

ありとあらゆる立体模型を構想しては、対策問題を作り、受験生(年長児)と毎日奮闘していた。

ある時は立方体。ある時は正四面体。またある時は積み木を組み合わせた形。毎度、死に物狂いで問題を作り、立体模型を手作りしていた。

その日の私は、模擬テストの問題とセットで使う「透明な立方体」を作るために、工作用のプラ板をカッターナイフで切っていた。正方形を、何十枚も、何十枚も。

そこを通りかかった先輩が、言ったのだ。

「君の強みは、『作問力』だ」と。

…………

塾業界内部の人間にしか、わからないかもしれないけれど。「作問力」は、塾講師にとって「授業力」に並ぶ重要スキル。
要は、「問題を作る力」。

今日の授業内容の定着を見るための、小テストの問題。
中学生の定期テスト対策用の、予想問題。
受験対策としての、各学校の出題傾向に即した形の、対策問題。

授業準備と共に、膨大な問題作成業務がもれなくついてくる。そんな世界。

作成する問題は、易しすぎても難しすぎてもいけない。
子どもの力を本気で伸ばしたいなら、その子ができるかできないかの、ギリギリのラインを狙わねばならない。
小テスト1枚でも、そこから子どもは吸収し成長する。その1枚の成長をプロデュースしてこそ、本気の塾講師。

また受験対策問題は、過去問という膨大な資料を元に、その学校を分析しつくして作成しなければ意味がない。
これまでの出題傾向から、受験生に求められる力が何なのかを分析し、その力を確実に身につけられるような問題を構想する。
出題傾向を確実に掴み、「次はこれが来る」を当てに行く。時にほんとに、当ててしまう。
世の中には、「開成中の先生よりも開成中っぽい問題を作る塾講師」がいたりする。極めると、そのレベル。

……そうか、作問力。
作問力なのか。
授業力を磨きたいと必死だったから、気がつかなかった。
私の強みは、作問力。

…………

あの日から、十数年。
今の私を支えているのも、気づけば「作問力」なのだ。

「授業が上手な先生」になりたいと思っていた若造は、
今、母親になり、多くの子育て仲間を巻き込んで、「教えない知育教室の先生」をしている。

授業すること」を、やめてしまった。
「教えること」を、潔く手放した。


理由は簡単。
教えない方が、子どもの力は伸びるから。
そのことに、気づいてしまったから。

ただし、それには、必要な条件がある。

子どもの力を伸ばせるような問題を、作れること。

子どもが自らやってみたいと思うようなおもしろい問題を、作れること。

なんと、あの日の先輩の言葉そのままに、
「作問力」を強みとして、今の私は生きている。

授業力じゃ、なかった。
私の強みは、作問力。

今日もその言葉を胸に、「教えない知育教室」としてのパズル教室を運営し、オンライン講座の問題作成に燃えている。

あの日の私は、プラ板を切りながら、下を向いて黙るしかなかった。

今の私がその場にいれば、先輩にニッコリ笑顔を向けて、こう言い返すだろう。
先輩のやさしさに、感謝しながら。

「あなたの強みは、『人の能力を見抜く力』ですね。」

と。

*****

新シリーズ「よみがえる過去の私」、始めてみました~
今の私がこのような人間なのは、過去のいろいろな出来事があったからで。それを思い出して文章化して蓄積していきたいな~と、ふと思い立ちました。

こちら↑のマガジンのまとめていきたいと思います。

明日は、シリーズ「我が子育ての現場から」で、何かしら書きます。

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