アフターコロナの日常について考える~個人の自由と組織論~【前編】
皆さん、こんにちは。神村です。
今回は、以前ご紹介した「組織行動論」の講義を通じて APU の学生たちと交流する中で、私が感じたり驚いた部分があったので、皆さんに共有しながらコロナ後の社会について考えたいと思います。”リモートと対面”のあり方だけでなく、今後の私たちの生活習慣、行動を見据えながら読み進めてください。
(本稿は「Off the pitch talk 」第92~94回の放送内容のまとめです。今回はインタビュー&文責:神田さんでお届けします)
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#92 : https://stand.fm/episodes/60a234d835f97939e7969fe0
#93 : https://stand.fm/episodes/60a4dae2ae69345a96f02e3f
#94 : https://stand.fm/episodes/60a778c8ff44a46e9df91b3b
今、大学で起きていること
【学生がキャンパスに居ない⁉】
(神村):まず前提をお話しすると、現在の APU の授業スタイルは「リモート / 対面」を学生が選択できる”ハイブリッド型”の形式を取っています。「組織行動論」の授業は延べ150人ほどが受講していますが、実際にキャンパスで講義を受けている学生の数はかなり少ないようです。そこで教授が当初予定していたのテーマを変更し、「なぜ学生はキャンパスに来ないのか?」というテーマで学生同士でディスカッションをする機会を設けたんですね。そこに同席したのですが、ディスカッションの場で出た学生の意見に、私は衝撃を受けました。
(神田):なるほど、具体的にどのような気付きや意見が出ましたか?
(神村):まず話してみて気付いたことは、オンラインで受講する学生の中にも、①APU のある大分県別府市以外(東京など)に在住の学生と、②別府市内に在住でキャンパスに行かない学生がいるという点でした。それぞれキャンパスに来ない理由を聞くと、「キャンパスに行くのが面倒だし…」という意見や「そもそも選択制なのだから、別にリモートで何も問題ないじゃん」という意見が出たりと様々でした。たしかに APU は別府市の郊外に位置し、バスで通学する必要があるためアクセスは良くないですし、「バスの定期代が高い」等の意見が出るのは理解できます。
(神田):特に下宿生にとって家賃など生活費がかかることを考えると、オンラインで受けられるなら実家で受講した方が経済的には合理的かもしれないですね。
【リモート授業のメリット】
(神村):リモート授業では挙手しなくてもチャットで質問できるといったメリットがあるのも事実ですが、驚いたのは、彼らがコロナ禍で大学入学時からオンライン授業が主だったためか、「わざわざキャンパスに行く理由がない」というスタンスだったのです。この点について、神田君はどう思う?
(神田):もし今、自分が学生の立場だとすると、「完全なリモート形式」には反対です。たしかに、授業を受けるという観点ではリモートの方が色々と融通が利きますし、メリットが多いと思います。ただ、キャンパスライフ全体で考えると、サークル活動など授業以外にも様々あると思うんですよね。なので、生涯の友人ができるかもしれない貴重な期間をオンラインだけで過ごすと、お互いの信頼を築くことが対面よりも難しいのでは?と思ってしまいます。
(神村):私も同じ考えだったので、つい「大学生活って授業以外にもサークル活動とか友人作りという別軸の価値があるんじゃないの?」と学生に問いかけたんです。すると、「サークル活動は制限されていて、かつキャンパスにいっても人が居ないから友人もつくれない」状況だということに気づかされました。
(神田):まさに、「鶏が先か、卵が先か」という議論ですね…(苦笑)
(神村):彼らの見解は至極真っ当だと思います。私自身、彼らの主張に対して正しい / 間違っているという判断をするつもりはありません。ただ、個人的には理解できつつも、個人の自由ばかりに委ねられていると、今後の社会の在り方などを踏まえると、「本当にこのままでよいのか、将来に爪痕を残さないか」という一抹の不安が残ります。
(神田):そうですね。「学生はリモートで授業を受けるべきか?」という問の解は現時点では出ないと思いますが、何年か経ってから、良くも悪くもリモートの影響が顕在化してくると思っています。”今”だけに焦点を当てたらリモートがスタンダードになりつつありますが、いずれ再び社会の価値観が揺れ動くタイミングが来るかもしれません。
ビジネスの世界ではどうだろうか?
【リモートワークの普及度合いについて】
(神村):さて、学生生活も様変わりしている中で、企業の話もしていきたいと思います。最近、新聞などのメディアでもコロナ禍でリモートが定着した企業と、出社に回帰させた企業の二極化が進んでいることが取り上げられています。神田君の会社はどういう勤務形態なの?
(神田):私の会社では、コロナが流行りだした昨年3月以降、「原則、リモート勤務(出社禁止)」としています。転職したのが昨年4月だったのですが、前職の毎日出社していたスタイルから急にフルリモートに変わり、最初は慣れるのが大変でした。
(神村):そうなんだね。リモートワークの普及度合いは、企業差(業種・規模の違い)や地域差(首都・大都市圏 / 地方の違い)、あるいは個人差によって変わるのだと思います。これを流れに任せておけばいいのか、あるいは「ある程度の方向性・推奨形態」を出すべきなのかという議論があります。
(神田):地方企業では、そもそも車通勤が主流でしょうし、リモートしている方は実態としてほどんど居ないと思います。今後さらに傾向が分かれてきそうですね。
(神村):そもそも、コロナ以前の状況をふりかえると、時差出勤やリモートワークという概念は存在していましたし、推奨する意見すらありました。しかし、コロナによって極端にリモートが強いられる社会に一変したことで、今度はその是非が問われ始めているのでしょう。例えば、神田君がいる会社では、コロナが落ち着いてからも今後ずっとリモート形態を続けるのかな?
(神田):おそらく、自由(選択制)になると予想しています。出社した方が良い場面(=大事な会議がある日)には出社し、それ以外は在宅など、その時々に応じて選べる柔軟さは維持すると思います。
【企業の業績との関連性】
(神村):一方で、”組織の論理”と”個人の自由”が相対する場面も出てきています。一例ですが、企業の業績との因果関係も興味深いところです。さらに、リモートによって会社の業績・社員個人と組織の生産性がどれだけ影響するのかは、数値だけでは見えづらい部分があります。
(神田):コストの観点でいえば、リモートワークによってオフィス賃料や通勤費など固定費を削減できるメリットはあります。また、営業パーソンにとっても、対面だとかかっていた移動時間がリモートによって削減され、一日の商談数を増やせることで、売上増に寄与するかもしれません。
(神村):前述の学生と同様、リモートワークのメリットを享受できるのは事実です。ただ、それと同時にリモートによって失われる機会(例:隣にいる上司から仕事の仕方を教わる)もあることに、個々人あるいは組織が気づき始めていると思います。リモートワーク = 働きやすさの自由度と捉えられているので、今後は「リモート禁止」にすると、優秀な社員から「選ばれない」といった採用面でのデメリットも出てきます。
(神田):僕らの世代からすれば、「リモート禁止」と謳う企業には行きたくないと考える人が既に増えていると感じます。現状を踏まえると、時代の変化を捉えられずに淘汰される企業が出てきても何ら不思議ではありません。
(神村):今の現役学生たちも2~3年後には社会人になっています。彼らに、どうやって物事を教えるのか、どうやってマネジメントするのかが、これまで以上に問われます。極端に言えば、わざわざ出社するための理由を社員に説明しなければいけない時代が来るかもしれません。企業はどうあるべきか?を考える上で、とても難しい時代に突入したと感じています。当然、リモート形態に慣れていく人と慣れてない人で、個人の成長度合いにも差が広がっていくでしょう。
【後編へ続く】