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【短編小説】 さよと付き人


「さよ様、そのつもりはなくても一度会ってみるのは如何でしょうか」
幾度となく縁談を断ってきた私、さよは、今も付き人と共に縁側に座っている。
「うぅん、いや、いいかな。」
「そうは言ってもですよ、周りの人達は皆、既に伴侶を見つけてるではありませんか」
「そうねえ…」
「実はわたしも、催促してくる人達をかわすのに一苦労なのです。さよ様はどうしてそんなに乗り気じゃないのですか」
湯気のたつお茶を入れながら、付き人は沸き上がっていた愚痴を溢す。
「乗り気じゃないのはねぇ…」
どうしてだろうか、私は異性と共に道を歩むことに未だ抵抗感がある。だって、私には本当に知らないことだらけなのだ。今この縁側から見える景色、この青い空のことだって、緑の葉を持つ植物のことだって。
「だって、わたし、まだまだ知りたいことがたくさんあるの。ほら、あそこに餅のような色をした、でも感触はすぐ口に溶けてしまいそうな白いものがあるでしょう。あれも、今はあんな風にモクモクとした形だったのに、この前見た時は誰かが筆で書いたみたいだったの。それだけじゃなくて、時には兎のように見えたり、コロコロ変わるのね。私、それがどうして変わるかも分からないの。」
まつ毛が悲しそうに揺れていた。感情を一切隠すことのない表情に、子供のような純粋さがある。それにつられて付き人の眉毛も悲しそうに下がる。
「それについては私が御説明しますよ、いつものように」
「うん、そうしていつも教えてくれることは本当に嬉しいの。嬉しいんだけどね、私も、こうして教えてもらっているみたいに、子供に教えてあげたいと思うのよ。話が早いことは分かっているの。でもね、婚約したら、きっとこんなことを勉強する間もないから。今は婚約のことよりも、いつか横にいる子供のために勉強しておきたいの。」
力強くなった目は、その決意の強さを表していた。そして付き人は、さよの目がまるでビー玉ようだと思った。
「では、さよ様」
今日は晴天だ。照る太陽が、一点の曇りない瞳を一層輝かさせていた。
「…もしあの餅のような色をしたものをいくらでも食べれるとしたら、どうしたいですか」
「…そうねぇ、うぅん、先ずは皆と一緒にお茶会を開いて一緒に楽しみたい。私、たくさんの人と話してみたいの。でも今はほら、こうして簡単に外には出られない身でしょう。あれを食べれるって言っても、私たちだけでは絶対に食べきれない、そうなると皆にも分けることにもなる、それを口実にお茶会を開きたいの。そうね、ただのお茶会じゃつまらないもの。先日食べたプディングというお菓子、あのお菓子の上に、あの餅の色をしたものをのせたら、きっと驚くでしょうね。プディングだなんてきっと食べたことないはずよ、だから是非お裾分けしたい。…あぁ、こうして話していたら本当に実現したくなってきたわ」
まつ毛が楽しそうにパタパタ動く。
「そうです、さよ様。そんな素敵な想像力を持つ貴方なら、きっと、貴方の子供も毎日が楽しいと思いますよ。わたしは知識だけの堅物です。知識は確かに素晴らしいですが、知識よりも心躍るのは想像力だと、私は思います。私はいつも貴方といて、とうの昔に忘れてきた子供心が蘇ってくるのです。知識があるのは確かに素晴らしい、でも、それよりも貴方は想像力を絶えず持っていれば、必ず、毎日笑える日々になると思います」
「ふふ、…ほら、あまりにも嬉しいことを言うものだから、なんだか鼻がツーンとしてきたじゃないの。」

そうしておどけるさよの目には、まるで流星群が流れたように、きらりと光るものがあった。





終わりに

読んでくださりありがとうございました。本当に初めてです。こういう系統のものを書いたのは。笑
実は小説を書くことに苦手意識を持っていて、でもそれだけではなくてテーマを決めて書くスタイルにも苦手意識を持っていたので、今回書いてみてその殻が剥けたように思います。先日あるテーマを元に書いたnoteを読んで、そこで意外と書いてみたら面白そうかも…!というのが発端でした。
ちなみに、この時間軸など設定は全てガバガバです。プディングだなんてそう呼ばれてたのかもただの想像です。なので「こういう時代もあったんだなぁ…!」としみじみ読まないでくださいね。笑
こういう歴史ロマンについて想像を巡らすのは楽しいですね。また書きたいです。
読んでくださってありがとうございました!

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