【歴史随想】観音さまの智慧の力
九條です。
これは『妙法蓮華経』(略して『法華経』)の第25番目の章にあたる「観世音菩薩普門品第二十五」の一節です。私が好きな一節でもあります。
仏教のお経のタイトルに付いている「品」(ほん/ぼん/ぽん)という文字は「章」という意味です。そしてこの「観世音菩薩普門品第二十五」は、この章の単品だけで一般に『観音経』と呼ばれています。
さて、観音様は一般的には「慈悲の菩薩」として知られていますが、この一節を読むと観音様の慈悲の中には「智慧」が含まれているということが分かりますね。
つまり観音様の慈悲というのは「広大無辺なる知識と知恵を駆使してすべての人を救う智慧の力」であるということです。
このことが、一般に「知恵の菩薩」とされている文殊菩薩よりも、観世音菩薩(観音様)のほうが我が国では飛鳥時代の仏教伝来当初から人気があった理由のひとつだと思います。
『妙法蓮華経観世音菩薩普門品第二十五』(『観音経』)は、仏教伝来当初の飛鳥時代からよく読まれていて、厩戸皇子(聖徳太子)も読んでいました[3]。
この『観音経』は古代仏教(奈良仏教=南都六宗)でもたいへん重要視されているお経で、ウチの宗派である法相宗[4]でもこの『観音経』は『薬師経』[5]などとともに普段からお唱え致します。
とくに、我が家のお仏壇の御本尊は高さ約25cmの金銅製聖観世音菩薩立像(聖観音様)で、また大本山から下賜していただいた薬師如来さまの御札もお仏壇内の観音様の隣にお祀りしていますので、この『観音経』と『薬師経』は私も普段からよく読んでいて、とても馴染みがあるお経です。^_^
【註】
1)『眞訓兩讀 法華經 幷 開結』平樂寺書店 1990年
2)仏教用語での「知識(智識)」は、信者が寺院などに寄進・寄付などをすること。おもに古代に用いられた用語。
3)伝・厩戸皇子(聖徳太子)自筆『法華義疏』(御物。推古天皇二十三年/615年頃成立か?)
4)法相宗は南都六宗のひとつ。現存する日本最古の仏教宗派。大本山は奈良市の薬師寺と興福寺。
5)『薬師経』の正式名称は『薬師瑠璃光如来本願功徳経』。古代では『妙法蓮華経』とともに非常に重要視され、盛んに読まれた。
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