心のプロデューサーは本棚に

失恋を機に部屋の模様替えをした。


実に陳腐でありきたりな理由だが、模様替えをするには一番もってこいの理由である。


デスクの上を片付け、棚に本を並べ、必要な紙類はファイルへ。テーブルを移動させて掃除機をかけ、全体的に広くなるような配置にした。


休憩がてら本棚の本を眺めてみると、明治の文豪の作品やら芸能人のエッセイやら人気ドラマの原作まで、様々な種類の本が並んでいる。改めて見てみると、ほとんど読まない本も本棚に置いていることに気がついた。


いつだったかネットで「スマートな男の本棚はシンプルかつ本の量は少ない」という記事を見たことがあった。


なるほど。うちの棚を見てみると、シンプルな本棚は、合格。本の量…不合格。


早速本をセレクトし、イケてる本棚作りに取り掛かった。


審査基準はタイトル、帯のキレイさ、背表紙だけで魅力をアピールできるか、そして何よりこちら側に読んでもらいたいという気概が伝わってくるかである。


もちろん、本の高さが合っていることも重要なポイントである。高さがバラバラだと何となく納得がいかないし、揃ってたほうがスッキリする。


このプロジェクトは「イケてる本棚」を作り上げるためのもので、作者がどれだけ有名か、いつ書かれたものかなどははっきり言ってどうでもいい。

「イケてる!」「読みたい!」と思わせられればそれでいいのである。



審査は大変厳しいものであった。こちら側が選んでいるわけだけれど、某親譲りの無鉄砲少年が二階から飛び降りる話や、某「そうかそうか、つまり君は…」の作品が落選したときには正直心が痛かった。


それらを勝ち抜いてきたのが今のメンバーである。文庫本、ソフトカバー、新書の3つに分けたことでまとまりがあるなかなかいい棚になった。



合格が告げられたときには皆飛び跳ねて喜びを露わにし、中には仲間と抱き合ったり涙を流したりするやつもいた。


ひとしきり歓喜の様子を見てから、ある男が彼らの前に立ってこう言った。


「あなた方には、素晴らしい魅力がアリマス。それは才能デス。でも、才能が夢を叶えてくれるのではアリマセン。過程が結果を作って、態度が成果を生むからデス。」


「ここまでたくさんの本たちが脱落して行きマシタ。でも彼らは負けたわけじゃアリマセン。すごいものはすごい。面白いものは時を超えても面白い。そしてすごさ、面白さというのは人それぞれ違うものデス。」


「あなた方には、家に来てくれたお客さんに興味を持ってもらうという使命がアリマス。本と出会うことで、その人の知らなかった新たな世界へ導いてあげることが、あなた方の仕事なのデス。これから先、たくさんの人に愛されるような本になってクダサイ。」




部屋の模様替えは、時に自分を見つめ直すいい機会になる。


これからもちょくちょくあのプロデューサーに心のキューブをもらいに行こうと思う。



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