私の新しい初めての”今日”

秋の朝のそよ風がひんやりとほほをなでる。
行きかう車、ベルを鳴らしながら颯爽と過ぎ去る自転車、いつもの慌ただしいその光景が今日は新しく、とてもゆっくりと優雅なものに思えた。

「まもなくホームに電車が参ります」

いよいよだ。”今日”が来る。そして、”今日”が始まるのだ。
今までに味わったことがあっただろうか。この感覚。そっと、でも力強く、電車に乗り込む。

ああ、これが共に戦う朝の戦士たちか。率直にそう思った。ばかみたい。でも、本当にそう思った。




私が新居に越してきて、早２か月が経とうとしていた。
新居は広くて明るくて、風通しも良い。大きな窓からは広い田んぼが見えて、それを見ながら飲むマズイ白湯は最高。私はシンキョが大好きだ。
なのに、今や外は最悪。マスクに消毒、ソーシャルディスタンスが欠かせないこの日々が、気付ば半年以上も続いている。
私は ”すぐ” ではなくても ”いつか” は日常が帰ってくると、希望の光が差すと信じたくて、ずっと信じ続けた。けれど ”いつか” がそんな早く来るわけもなく、大人になって初めての無収入を連続６回も味わったところで目が覚めた。

「働かねば！」

もう遅かった。遅すぎた。
私にとって、お金の余裕は心の余裕。
びっくりするぐらいに心の余裕がなくなっていた。
無気力で全部が嫌になった。情けない奴だ。


.…とはいえ、いつまでもそうは言って居られず、まずはスーパーのアルバイトの面接を受けた。朝早くから働けば、夕方早く帰れるから。


「長靴履かなきゃいけないし店も寒いけど大丈夫？」

聞かれると不安になる。

「はい！どちらかと言うと暑がりなんで！」

本当は寒がりなのに。

「魚コーナーは少し時給が上がるんだけど、魚はどう？」

「はい！へっちゃらです！」

本当はそもそも魚なんて触れないし、スーパーの魚は目が合ってる気がして怖いのに。

それでも、お金には代えられない。
世は金なり。



結果不採用。なんでや。
もしかしたら、恐れが顔に滲み出ていた…いや、顔に嘘ですと書いていたのかもしれない。な。



次は町の工場でのライン作業のアルバイト。
クッキーの箱を組み立てたり、箱に可愛いリボンをつけたり、軽作業をひたすらこなすアルバイト。
朝早くから働いて夕方早く帰られる。それに、毎日帽子にマスクだからメイクも薄くていい！なんて楽チン！

落ちた。不採用。落とされた理由に心当たりはない。


高校生時代にした初めてのアルバイトも、そのあとの仕事も一発即日採用だったから、とても戸惑った。落ちる寂しさを知らず、こっそり、とても落ち込んだ。



ようやく私を拾ってくださったのが、三社目に受けた大企業だった。神だ。本当に神。朝早くから働いて帰りは少し遅いけど。神。

勤務先は、都会のオフィスビルの17階。
初めてのオフィスビル。しかも17階。どのくらい高いんだろう。
胸がドコドコ鳴った。こりゃ憧れのOLさん気分が味わえるかもしれないな。
めざせ！校閲ガールの石原さとみさん！ちゃんと観たことはないけど。



そして、あっという間に迎えた入社日。

ああ、白湯はやっぱりまずいなあ

朝の窓から見る田んぼの稲たちはいつの間にか穂が垂れていて、朝日を浴び綺麗で澄んだ黄金色に輝いていた。

お気に入りのアクセサリーを身に着け、履き慣れない買いたてのパンプスを履く。

いよいよ私の新しい 初めての ”今日” が 始まろうとしている。




「まもなくホームに電車が参ります」















写真　　幼き頃の私の二重アゴ

【あとがき】
こんにちは！こんばんは？おはようございます？
はじめまして！もへと申します。
この記事を最後まで読んでくださり、ほんっとうにありがとうございます。
こうしてnoteを通じて出会えたことにも感謝！！
本当にありがとうございます！！
さて、記事はいかかでしたか？
よくばりで恐縮ですが良ければご感想頂けますと嬉しいです。
流れ行く日々、皆様はいかがお過ごしでしょうか？
私のように、いやそれ以上に困窮し、生活が変化した方も少なくはないのではないでしょうか。
初回の更新から早４ケ月。
前回の更新の際は元気モリモリ無敵モード(スター状態)だった私も、持病が悪化するなど、だんだん自身をごまかせなくなり(ちびマリオ状態)、とうとう私も動き始めました(笑)
今の自分にできる最大限を持って、私の日常を守ってくださるどこかの誰かの為、自分の為にも前を向いてコツコツと進んで行きたいし、生きたいなと思います。
ツラく苦しい日々が続きますが、皆様、この記事を読んでくださった方々お一人お一人、またそのご家族の皆様にも無理無茶のない幸せな毎日を送って頂きたいものです。ともに楽しく幸せな新しくて初めてな”今日”を大切に生きましょうね！！

　　　　　　　　　　　　　　　もへ