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【衝撃】映画『誰がハマーショルドを殺したか』は、予想外すぎる着地を見せる普通じゃないドキュメンタリー

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映画『誰がハマーショルドを殺したか』は、「ドキュメンタリー」と呼んでいいのか悩むぐらい”普通”を逸脱した展開を見せる衝撃作

普段から観る映画について何も調べない私は、そもそも「ハマーショルド」が誰なのかも知らないまま本作『誰がハマーショルドを殺したか』を観たのだが、そんな人間でもメチャクチャ面白いと感じられる作品だった。監督のマッツ・ブリュガーについては、本作を観た時点では何の知識も持っていなかったが、その後『THE MOLE』『ザ・レッド・チャペル』なども観て、「ヤバい映画監督だな」と認識するようになる。そんな狂気の監督が掘り返す、狂気の現実が映し出される作品だ。

ハマーショルドについては後で触れるが、今の時点では、「暗殺が疑われる状況だった」という点だけ理解しておけば十分だろう。

映画を観る歳の、そしてこの記事を読む際の注意点について

さて内容に触れる前にまず、注意点を2つ書いておこうと思う。

まずは、映画『誰がハマーショルドを殺したか』を観る際のもの。本作については、「『実際の出来事をカメラに収めている』という意味では確かに『ドキュメンタリー』なのだが、『事実を明らかにする』という意味では『ドキュメンタリー』とは言えない」という点に注意が必要だと私は思っている。『誰がハマーショルドを殺したか』というタイトルから明らかなように、本作でメインとなる話は「ハマーショルドの暗殺事件」だ。しかし本作では、この点についてはっきりとしたことが明らかになるわけではないのである。

この事実に触れることを「ネタバレ」だと感じる人も恐らくいるだろう。しかし私は、「本作を適切に鑑賞する上で、この事実は知っておいた方がいい」と判断したので、こうして先に書いておくことにした。

本作では、監督自身が取材者となって、ハマーショルドの死の謎を追いかける。しかし、作中で監督自身が語っている通り、その取材によって明らかになった結論は、あくまでも「フィクションの域を出ない」ものだ。「事実」を追う場合はやはり、明確な証拠によって確証の度合いを高めていく必要があると思うのだが、本作の場合、それがかなり薄い。様々な証言をする者は出てくるが、その証言を客観的に証明する証拠は存在しないというわけだ。

監督はもちろん、調べ上げ推測した「状況」が、実際に起こったことだという確証を抱いているからこそ、こうして映画として公開しているのだと思う。しかし、証拠などによってその確証度が高められているわけではないので、あくまでも「状況証拠からは、このような状況だと推察できる」と言っているに過ぎない。いずれ何らかの形で真相が明らかになる可能性ももちろんあるとは思うが、少なくとも本作単体でそれが実現されているわけではないというわけだ。

さてそうだとすると、「観る価値のある映画なのだろうか」と感じてしまう人もいるだろうとは思うが、その心配はない。とても面白い作品に仕上がっていると私は思う。ハマーショルドの事件は60年以上前の出来事であり、手がかりらしい手がかりなどほぼ存在しない。にも拘らず、6年以上を調査に費やした甲斐あって、思わぬ形ではあったものの「真相らしき状況」にたどり着き、さらに「それ以上の驚くべき事実」を掘り当ててもいるのだ。私はかなり衝撃を受けてしまった。

さて、触れておきたい2つ目の注意に、まさにその「それ以上の驚くべき事実」が関係している。「この記事ではその話にも触れるので、ネタバレを避けたい方は注意してほしい」というわけだ。

私は普段、本でも映画でも、何らかの作品について言及する際には、「自分なりの『ネタバレ基準』に従う」ことにしている。「何を『ネタバレ』と感じるか」は人それぞれだと思うし、私とは感覚が合わないかもしれない。私はとにかく、あくまでも自分なりの判断基準に従っているだけなので、公式HPでは触れられていることを伏せたり、「それはちょっと書きすぎかも」というレベルまで踏み込んだりするというわけだ。

さて本作の場合、その「それ以上の驚くべき事実」に触れることは、私の中では明確に「ネタバレ」であり、普段なら絶対に書かない。ただ本作は、決して広く観られているわけではない割に、「世界が広く知っておくべき事実」が扱われている作品だと感じたので、「本来的には伏せておくべきだろう要素」についても触れようと思う。

記事の中で、「ネタバレを避けたい方はこれ以上読まないで下さい」のような表記をするので、知りたくないという方は読まないように注意してほしい。

ハマーショルドは何者で、彼に一体何が起こったのか?

それではここから内容に触れていくが、まずはやはりハマーショルドの基本情報と、彼が命を落とすまでの経緯について触れておくべきだろう。

ハマーショルドは、当時の国連事務総長だった人物である。熱烈な理想主義者として知られており、当時彼は、「植民地支配から独立を成し遂げたアフリカ諸国を守ることが、国際社会の使命だ」と訴えていた。そんな彼の死は、世界中に衝撃を与えたそうだ。作中では、国連の場で「本当の意味で世に尽くした人」として追悼されている映像が挿入された。世界を変える力を持った人物だと評価されていたというわけだ。

さて、彼の主張から容易に想像できるだろうが、ハマーショルドはその素晴らしい人柄を称賛されると同時に、植民地支配を続けていた大国からは嫌われていた。大国は、自国の利益のために、アフリカからの搾取をまだまだ続けたいと考えていたからだ。そんな思惑を持つ大国からすれば、ハマーショルドはまさに「目の上のたんこぶ」と言ったところだろう。

そのような中、ハマーショルドが飛行機事故に遭うのである。

1961年9月17日、ハマーショルドはコンゴにいた。コンゴから独立し、コンゴとの紛争に突入していたカタンガの問題を解決するためだ。当時カタンガを掌握していたのはベルギーの鉱山会社で、彼らはモイーズ・チョンベという人物を担ぎ出し、カタンガのトップに据えていた。そしてハマーショルドは、このチョンべとの和平交渉を目論んでいたのである。

ハマーショルドは紛争の解決のため国連軍を投入したのだが、カタンガの傭兵軍が思いの外強く、国連軍と一般市民に多数の死者を出してしまっていた。アメリカやイギリスが早急な問題の解決をハマーショルドに迫っていたこともあり、彼はチョンべと直接交渉する決断を下したというわけだ。

翌9月18日深夜未明のこと。ハマーショルドを乗せたチャーター機は、コンゴの小さな炭鉱町ンドラに墜落した。そしてこの”事故”は、ハマーショルドを含む乗客全員が死亡するという痛ましい結果に終わる。

さて、この”事故”の調査は、何故か詳しく行われなかった。「爆弾などによる暗殺の可能性がある」という報告書が提出されもしたが、「憶測に過ぎない」と扱われ、現在に至るまで「原因不明」とされている。この事件を報じたワシントン・ポスト紙は、「冷戦期最大の謎の1つ」と評していた。

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