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【実話】英国王室衝撃!映画『ロスト・キング』が描く、一般人がリチャード3世の遺骨を発見した話(主演:サリー・ホーキンス)

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「好きが高じて500年前の王の遺骨を発見した会社員女性」の実話を基にした映画『ロスト・キング』は、驚きの事実満載の物語だ

本当に、ちょっと信じがたいぐらいとんでもない実話である。時折、「ホントにこれが実話なのか?」と感じてしまうような話を見聞きすることがあるが、本作『ロスト・キング』もまさにそのような内容の物語だった。

なにせ、「一介の会社員女性が、500年前に亡くなった王リチャード3世の遺骨を探し当てた」というのである。そのあまりのあり得なさに思わず笑ってしまいたくなったほどだ。そして、予告やHPなどでは「最強の推し活」という言葉が使われているのだが、まさにこの言葉がピッタリくる物語でもある。数多の専門家がチャレンジするも見つけられなかった遺骨を、「リチャード3世のことが好き!」というだけのフィリッパという女性が見つけてしまったのだから、「推し活」の成果としては凄まじいと言えるだろう。

こういうことが起こるから、世の中はまだまだ面白いなと思える。

さて、先に1つ書いておきたいことがある。本作については、予告やHP等で「主婦」という言葉が使われているのだが、私の感覚では本作にはちょっとそぐわないように思う。日本では「主婦」という言葉はまだ、「結婚している女性」というよりも、「専業で家事をしている女性」という意味の方が強いように感じられるからだ。なのでこの記事では基本的に、「主婦」という言葉は使わない。

最大の功労者であるフィリッパの功績は奪われてしまった

本作では冒頭で、「Based on a true story(実話に基づく物語)」という見慣れた文句の後に「Her Story(彼女の物語)」という言葉も表示される。私は鑑賞前の時点で「一般人が王の遺骨を見つけた」という概要は知っていたし、大体の観客はそれぐらいの知識は持った上で本作を観ると思うので、何故わざわざ「Her Story」なんていう但し書きが必要なのか、冒頭の時点ではよく分からなかった。

しかし最後まで観て、100%の確証こそ無いものの、「Her Story」と表記した理由がなんとなく理解できたように思う。

さて、今から書くことは大分後半で描かれる話であり、それについて触れることを「ネタバレ」だと感じる人もいると思うので、知りたくない方は読み飛ばしてほしい。物語の本筋と大きく関わるものではないと私は思うので、知った上で鑑賞しても大きな違いはないと考えてはいるのだが、念のため。

なんと、フィリッパこそ遺骨発見の最大の功労者であるはずなのに、その功績は当初、大学にすべて奪われてしまっていたのである。本作に描かれている通りに事態が進行したのであれば、「遺骨の発掘を計画した責任者」は間違いなくフィリッパなのだが、遺骨が発見されるや、「最初から大学主導で発掘を計画した」と事実が捻じ曲げられ、その功績がを横取りされたのだ。

なんとも醜悪な現実である。

映画の最後に「2015年にフィリッパがMBE勲章を授与された」と字幕表記されたし、何よりも、大女優であるサリー・ホーキンスを主演にした映画まで制作されているわけで、今では「フィリッパこそが最大の功労者である」と正しく認められているのだと思う。そして私は、「映画の制作陣は、『これはまさにフィリッパの物語なのだ』という点をより強調するために『Her Story』と表記したのではないか」と感じたのである。「『大学の物語』なんかじゃないぞ」という念押しというわけだ。

公式HPによれば、「『遺骨発掘後の出来事』については事実を改変せず、起こったことをそのまま描いている」という。恐らく、大学側とトラブルになることを避ける意味もあって、フィクションを交えずに事実だけを切り取ったのだと思う。アカデミックな世界に対してピュアなイメージを持っていたわけではないのだが、それにしてもあまりになりふり構わないやり方には驚かされてしまった。

では、フィリッパによる遺骨の発見がどれほど凄いことだったのかにも触れておこうと思う。

その大発見は、2012年9月5日の出来事だ。今から10年ちょっと前のことであり、つい最近と言っていいと思う。シェイクスピアが題材にするほど有名な「王」であり、そんな人物の遺骨なのだから当然、亡くなってからの500年間に、それは多くの研究者がその場所を探そうとしたはずだ。しかし、それでも見つからなかったのである。

映画に登場する専門家は、口々に「不可能」「無理に決まってる」「干し草から針を探すより難しい」と否定的な反応を示す。これはまあ、「専門家でも無理なのだから、あなたにはとても不可能ですよ」という嫌味なのだと思うが、いずれにしても、専門家でさえ「見つかるはずがない」と考えていたというわけだ。あるいは、もしかしたら専門家の中には、「500年もの間見つからなかった遺骨探しに手を出して、研究者人生を棒に振るわけにはいかない」みたいな感覚の人もいたかもしれない。

このように考えると本当に、フィリッパがその無謀な挑戦を始めなければ、リチャード3世の遺骨は永遠に見つからなかったかもしれないのである。そんな大発見を、ただの会社員女性が成し遂げてしまったという点に驚かされてしまうのだ。

王なのに、リチャード3世は何故きちんと埋葬されなかったのか?

しかし不思議ではないだろうか? リチャード3世は「王」だったのだから、普通に考えれば、死後に盛大な葬儀が執り行われ、きちんと埋葬されていて然るべきだろう。だからそもそも、「王の遺骨の在り処が分からない」という状況こそがおかしいように感じられる。

まずはこの点について、私が映画を観て理解した限りの情報に触れておこうと思う。さて、私は学生時代、日本史も世界史もまともに学ばなかったので以下の記述には何か誤りが含まれているかもしれない。しかしその場合でも、作品の落ち度ではなく私の知識不足によるものだと判断してほしい。

リチャード3世はヨーク朝の国王だった。しかし、1485年にボスワースでテューダー家のヘンリーと闘い戦死、そこからテューダー朝が始まる。歴史とは、常に勝者が塗り替えていくものだ。勝ったヘンリーは当然、リチャード3世を「悪い人物」に見せたかっただろう。その方が「打ち倒した理由」が分かりやすいし、その後の統治もやりやすくなるはずだからだ。恐らくそのせいできちんと埋葬されなかったのだと思う。

さて、歴史をちゃんと学んでこなかったこともあり、「リチャード3世」が学校の授業でどのような存在として教えられるのか私は知らない。何となくではあるが、日本ではあまり教わらない、さほど有名ではない人物な気がする。しかし、イギリスではとてもよく知られた存在だ。王なのだから当然かもしれないが、恐らくそれだけが理由ではない。先述した通り、シェイクスピアが戯曲の題材として彼を扱っているのだ。

そしてシェイクスピアもまた、リチャード3世を「悪い人物」として描いている。まあそれも当然だろう。というのも、リチャード3世の評価を悪くしたいヘンリーは恐らく、それまで残っていたリチャード3世に関する資料を処分し、新たに「テューダー朝に都合の良いリチャード3世像」を描いた資料を作成したはずだからだ。シェイクスピアが『リチャード三世』を書いたのは1593年。1485年に亡くなったリチャード3世を直接知る機会があったはずがない。このことからも、テューダー朝時代の「歪められた資料」を基にリチャード3世について記したと考えるのが妥当だろう。

シェイクスピアが描いたリチャード3世は、「王位継承権を有する2人の甥を殺害した、背中に醜いコブを持つ王位簒奪者」であり、これがイギリスにおける(あるいは、全世界的にもそうなのかもしれないが)リチャード3世の基本イメージであるようだ。そして「推し活」という表現からもイメージできるように、フィリッパはこのような「悪評」を信じていない。彼の実像はヘンリーによって歪められただけであり、本当はもっと良い人だったはずだと彼女は信じているのである。

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