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ブラックホールを分かりやすく知りたい。難しいことは抜きにふわっと理解するための1冊:『ブラックホールをのぞいてみたら』(大須賀健)

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ブラックホールの基礎的な知識を易しく得られる1冊

ブラックホールの存在はなかなか受け入れられなかった(アインシュタインも否定した)

この記事では、「ブラックホールはどのように研究されてきたのか」も含め、ブラックホールそのものについてまとめていこうと思う。

まずざっと、「ブラックホールなどという奇妙な天体が研究されるようになった流れ」について触れていこう。

ブラックホールは、アインシュタインが生み出した一般相対性理論の方程式から”発見”された。シュヴァルツシルトという科学者が、砲弾が降る戦場で必死に計算をし、「一般相対性理論の方程式をある特殊な条件の下で解くと、光をも吸い込む天体の存在が予測される」という結果を導き出したのだ(ちなみに、アインシュタインが存命中には「ブラックホール」という呼び名は存在しなかった)。

シュヴァルツシルトの計算は、アインシュタインが一般相対性理論を発表した直後に行われたものであり、アインシュタインは「自説に興味を持ってくれた者がいる」という点では喜んだ。しかしシュヴァルツシルトの計算については、「計算としては面白いが、現実には存在しないだろう」と考えていたそうである。

このような態度は何も、アインシュタインに限らない。

想像を絶するほど奇怪な天体の存在を、最初はほとんどすべての研究者が信じなかったのです

シュヴァルツシルトが勇敢にも踏み出した一歩に続く者はなかなかいなかった。シュヴァルツシルト自身も早くに亡くなってしまったため、ブラックホール研究の進展は、チャンドラセカールという天才の登場を待たなければならない。

さて、天文学の世界では、「星の最期はどうなるのか?」という問題が存在していた。既に知られていた「白色矮星」という天体こそが「星が死んだ後の最期の姿だ」と考えられていたのだが、その状況に待ったをかけた人物がいる。それがチャンドラセカールである。

チャンドラセカールは「チャンドラセカール限界」で有名だが、これは、「白色矮星の質量には限界がある」ことを示すものだ。確かに星は死んだら白色矮星になる。しかし、ある一定以上の質量を持つ天体は重すぎるために、白色矮星になることができないのだ。白色矮星になれるかどうかの限界質量をチャンドラセカールは示したというわけである。

ちなみに、このチャンドラセカールの研究は、当代随一の科学者として知られていたエディントンにボロクソに批判されてしまう。エディントンと言えば、アインシュタインの一般相対性理論の検証を行う観測隊を率いた人物だ。当時のほとんどの科学者は、チャンドラセカールの主張を素晴らしいものだと考えていたそうだが、高名なエディントンに反論する者はおらず、インド出身のチャンドラセカールは孤軍奮闘を強いられた。

そんな議論に嫌気が差し、チャンドラセカールは研究対象を変えるのだが、結果的にこれが彼には合っていたようだ。その後チャンドラセカールは、定期的に研究テーマを変えるようになったという。また彼は、若い頃に成したこの「チャンドラセカール限界」の仕事でノーベル賞を受賞するのだが、受賞時の年齢は70歳を超えていた。恐らく、研究から受賞までの最長期間だろうと言われている。

結果的には正しく評価されたが、苦労の多い研究者人生を歩んだ人物なのだ。

さて話を戻そう。「白色矮星になれる質量には限界がある」とチャンドラセカールが導き出した、という話だ。すると当然、こんな疑問が出てくる。「白色矮星になれないような大きな質量を持つ星の最期はどうなるのか?」

その後「中性子星」という天体が考え出された。文字通り、「中性子でできた星」である。そして白色矮星になれなかった星は中性子星になると考えられるようになっていく。このように新たな天体の存在が仮定されるのは、「星が死んだらブラックホールになる」という結論を回避したい、という気持ちが働くからでもある。やはり科学者の中には、ブラックホールなんていう訳の分からないものを認めたくないという人もいたのである。

しかし、後に原爆開発の責任者になるオッペンハイマーが、「中性子星の質量にも限界が存在する」ということを明らかにしてしまう。つまり、ある一定以上の質量の星は、白色矮星にも中性子星にもなれないということだ。

このような研究によって少しずつ、「巨大な質量を持つ天体は最終的にブラックホールになる」と認められるようになっていく。しかし頑強にブラックホールの存在を信じない者もいた。その一人が、様々な業績で知られるホイーラーである。彼は独自に星の最期に関する研究を行いある発見をするのだが、実に皮肉なことにその発見はなんと、「大質量の天体が潰れたらブラックホールになる」という証明にも使われている。

ちなみにこのホイーラーが、「ブラックホール」の名付け親だというのが定説だ。これもまた皮肉な話だろう。

このようにして、「最期にブラックホールになる天体も存在する」ということが受け入れられるようになっていった。

このような議論が行われていた時点では、観測による証拠はほぼ存在しなかったのだから、「ブラックホールなんて信じられない」という気持ちは理解できる。しかしその後、間接的な証拠が次々に見つかり、2019年にはついに直接観測が実現した、という流れになったというわけだ。

ブラックホールの「暗黒」と「輝き」の説明

本書は、EHTプロジェクトによるブラックホール観測が発表される以前の2017年の作品だ。しかしEHTプロジェクトについて補足するように、本書では「暗黒のブラックホールが撮影できる理由」について触れられている。

まずは、ブラックホールの「暗黒」の話からしよう。何故ブラックホールは「見えない」のだろうか。

これ以降は、ブログ「ルシルナ」でご覧いただけます

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