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【権威】心理学の衝撃実験をテレビ番組の収録で実践。「自分は残虐ではない」と思う人ほど知るべき:『死のテレビ実験』

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全人類が読むべき、衝撃の実験。日本のテレビでは同じことは出来ないだろうなぁ……

本書は世界中すべての人が読むべきだ、と私は考えている。少なくとも、テレビやYouTube、新聞などなんらかの「メディア」に触れたことがある人は全員、本書に書かれている事実を知った方がいいと思う。

自分が期せずして思いがけない「残虐さ」を発揮してしまうかもしれない、と指摘する内容であり、特にネットの世界が力を持ちがちな現代においてはなおのこと必須と言える知見だと思う。

フランスのテレビ番組で行われた「ミルグラム実験」

2009年に、フランスのテレビ局がある衝撃的な実験を行った。まずはその実験内容をざっくりと紹介しよう。

架空のクイズ番組のパイロット版(本放送の前に行う試験的な収録。実際には放送されず賞金も出ない、と説明される)の収録に、様々な偏りを廃して慎重に選んだ一般参加者を「出題者」として集める。
「出題者」はスタジオで問題を読み、「解答者」は間違えると電気ショックを与えられるのだが、そのスイッチを「出題者」が押さなければならないというのがこの実験のポイントだ。電気ショックの電圧は1問間違えるごとにどんどん上がり、電圧が最大まで達すると「解答者」の命にも危険が及ぶのではないか、と示唆される状況にある。
実は「解答者」は実験協力者であり、実際には電気ショックは与えられていない。「解答者」は間違えるごとに電気ショックを受けている演技をし、電圧が上がるごとに「このままでは死んでしまうかもしれない」という雰囲気を醸し出す。もちろん、それが演技だと「出題者」は思いもしない。
さてこの状況下で、最大電圧まで電気ショックを与えた「出題者」は、全体の何%だっただろうか?

この実験内容を読んで、ピンときた方もいるだろう。そうこれは、「ミルグラム実験(アイヒマン実験)」として知られている非常に有名な心理学の実験を、「テレビ」という環境下に置き換えて行ったものである。

重要なポイントにだけ触れておこう。「ミルグラム実験」は、「ユダヤ人を強制収容所で大量に殺したナチスドイツのアイヒマンは残虐だと言えるか」という疑問に端を発するもので、

<権威>から良心に反する命令を受けた時、個人はどれくらいの割合でそれに服従するのか

を調べる目的で行われた。心理学の世界を超えて名前が知られているだろう実験だ。

フランスのテレビ番組による実験の場合は、「ミルグラム実験」と同じく「人は服従しやすいのか?」を調べる目的も有しつつ、一方で「テレビに権威はあるのか?」も確かめようとしたのである。

ミルグラムが「医師」という権威を用いて行った実験では、被験者の60%ほどが最大電圧の電気ショックを与えた。では、テレビ番組で行われた実験ではどうだっただろうか?

なんと、「出題者」の内81%もの人が、「解答者」に最大電圧の電気ショックを与えたのだ。

この数字はかなり衝撃的である。何故なら、「ほとんどの人が権威に服従してしまう」ことを示しているからだ。「自分だけは大丈夫」などとはとても言えないだろう。

もしもあなたが強制収容所の所長を任されていれば、アイヒマンと同じくユダヤ人を大量虐殺し続けたかもしれない。あなたは「そんなことありえない!」と感じるかもしれないが、心理学の実験はその可能性を明確に示しているのだ。

この実験の様子は、本書と同名の「死のテレビ実験」というタイトルで実際にフランスで放送された。日本でも、一般人を巻き込んだドッキリ番組などが行われているが、本書と同じような実験は日本のテレビ番組ではできないだろうと私は感じる。地上波で流すには勇気がいる企画だと思うからだ。フランスではどうだったか分からないが、日本では視聴者からクレームが多数寄せられそうだなと感じる。

私のなんとなくの印象だがフランスは個人主義が強い国であり、「権威に服従する」ことを嫌うイメージがある。そんな国でさえ81%もの人が最大の電気ショックを与えたのだ。日本で同じ実験を行えば、その割合はもっと上がる可能性もあるだろう。

そして本書はこの、フランスのテレビ局で行われた実験の詳細なレポートなのである。

本書の構成

本書の構成について先にざっくりと触れておこう。

本書は、この実験を構想し実現のために動いたテレビ局のプロデューサーと、その実験構築に協力したジャーナリスト(哲学者でもある)が共同で執筆している。計画段階から実験の様子、そして最終的な結果とその分析まで、様々な観点から「現代版ミルグラム実験」の詳細が語られるというわけだ。

本書は大きく3部に分かれている。

第1部は、実験の計画段階から実験までの話だ。そもそもプロデューサーがこの実験を思いついたのは、「テレビは過激になりすぎている」という危機感を抱いていたからだった。だからこそ、「テレビは人々にとってどれほど『権威ある存在』なのか」を確かめる必要があると考えたのだ。

そこで、有名な「ミルグラム実験」の現代版を行おうと考える。第1部では、どれほど綿密な準備を整えたのか、実験がどのように進行していったのかなどに触れられていく。

第2部では、実際の結果の詳細な分析が行われる。個別の被験者の言動や心の葛藤などを捉えながら、「人はいかにして権威に服従してしまうのか」という実際を理解していく。

そして第3部では、行われた実験に関する全体的な考察を行いつつ、「テレビが持つ『権力』」について総括する、という展開となる。

本書で描かれる「テレビの過激さ」は、現代の「YouTubeの過激さ」に通じる

本書では「テレビ」が「権威ある存在」として扱われている。しかし本書で重要なのは「テレビか否か」ではない。それがなんであれ、「権威ある存在に人は服従してしまい得るか」という点こそが大きな問題なのである。

つまり本書における「テレビ」は、現代の「YouTube」や「Instagram」と対比させられるだろうと思う。何故ならどれも、「面白ければ何をしてもいい」という価値基準で作られているからだ。

本書には、世界中の「イカれたテレビ番組」が様々に紹介されている。日本ではちょっと考えられないような、「それはアウトだろう」としか思えない番組が山ほど存在することに驚かされた。いくつか紹介しよう。

イギリスのテレビ番組であるマジシャンが、ホンモノの銃を使ったロシアンルーレットを5秒遅れの生放送で行った。1発だけ弾が入れられた銃のどこに装弾されているかを当ててみせるという企画で、実際にマジシャンは自分に銃口を向けて引き金を引く。

これ以降は、ブログ「ルシルナ」でご覧いただけます

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