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【歴史】NIKEのエアジョーダン誕生秘話!映画『AIR/エア』が描くソニー・ヴァッカロの凄さ

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ナイキがバッシュの後発だったなんて信じられるか?エアジョーダン誕生秘話を描く映画『AIR/エア』はメチャクチャ面白い!

もの凄く面白い作品だった。これが実話だっていうのがホントに凄まじい。なにせ、観れば観るほど信じがたい描写が次々と出てくるのだ。バスケットシューズのシェアで、あのナイキが3番手だったっていうんだから、その時点で驚きだろう。

 とても残念なのは、私たちはこの映画を「マイケル・ジョーダンがナイキと契約した」という事実を知った上で観るしかないということだ。結末は分かっている。もちろん、それでも十分過ぎるほど面白い。ただ、知らなければもっと面白かっただろう。そう考えると、当時この件に直接的に絡んでいた人たちは、毎日ヒリヒリするような状況にいたのだろうなとも思う。
 
いや、でもそれも違うのか。マイケル・ジョーダンがナイキと契約する前の時点で、エアジョーダンがこれほど凄まじい売れ方をするとは、誰も予想していなかったのだから。

1984年当時の、「ナイキ」「マイケル・ジョーダン」の扱われ方

私たちからすれば、「ナイキ」も「マイケル・ジョーダン」もあまりに偉大な存在であり、そしてだからこそ、昔からずっとそうだったのだろうと考えてしまいがちだ。しかし、この映画の舞台となる1984年時点では、現在とは評価がまったく異なっていたのである。

冒頭で、1984年時点における「バッシュ」のシェア割合が表示された。そもそも意外だったのが、バッシュのシェアトップがコンバースで、全体の半分以上である54%を占めていたということだ。コンバースに「バッシュ」のイメージなんかまったくないだろう。それに続いて、アディダスが29%、そしてナイキが17%だった。あのナイキが、40年前は3番手だったのである。

実は、当時のナイキは「ランニングシューズ」の会社だった。バッシュの世界ではまったくの劣勢だったのだ。映画の中で、

ランニングシューズはピカソで、バスケはマンガ。

みたいなセリフが出てくるのだが、これはポスターの話である。それぐらい、販売にかけられる予算がまったく違ったというわけだ。バスケ部門はそもそも、閉鎖さえ噂されるほどの状況にあった。

さてそんなバスケ部門では今まさに、選手の選定が行われている。これが、映画の最初の場面というわけだ。使える年間予算は25万ドル。あまりにも少ないこの予算を、有望な3選手に振り分けようと話し合いをしている。会議室のホワイトボードには、その年の有力選手の写真が貼られ、ドラフト順位順に並べられていた。もちろん、その中にマイケル・ジョーダンもいる。

しかしなんと彼は、ドラフト3位予想だったのだ。3位でも十分高いだろうが、その後の活躍を知っている私たちからすれば、NBAデビュー前の評価は「低い」と感じるのではないかと思う。

これが、「ナイキがマイケル・ジョーダンと契約を交わす以前」の両者の状況だった。劇中でもこの点はちゃんと描かれるが、『AIR/エア』を理解する上で非常に重要なポイントと言っていいだろう。

さて当然だが、ドラフト3位という高順位に位置していたマイケル・ジョーダンとの契約は、コンバースもアディダスも狙っていた。これだけでも、シェア3位のナイキにとっては不利な状況だ。しかし実は、そんな状況を遥かに凌ぐ圧倒的劣勢の立場にナイキはいた。

マイケル・ジョーダンはなんと、「ナイキとだけは契約したくない」と明言していたのだ。

作中である人物が、「ジョーダンから直接聞いたこと」として、こんなセリフを口にする場面がある。

25万ドルと赤いベンツをくれた会社とならどことでも契約する。ナイキ以外なら。

正直、映画『AIR/エア』を観ているだけでは、マイケル・ジョーダンが何故ナイキを嫌っていたのかはよく分からなかったのだが、とにかく、「ナイキは嫌だ」というスタンスは明確だった。ジョーダンの代理人も、本人と家族の意向を踏まえた上で「ナイキを交渉のテーブルにつかせるつもりはない」と宣告するし、当然、代理人を通さずにジョーダンと直接交渉する手段があるはずもない。

こんな風にナイキは、最初の時点で「勝負さえさせてもらえない」みたいな状況に置かれていたのである。とても勝ち目があるとは思えないだろう。

こんな状況から、最終的には契約にまでこぎつけてしまうのだから、その展開はやはり凄まじいと感じる。

最大の立役者ソニー・ヴァッカロは、いかにしてマイケル・ジョーダンを説き伏せたのか

さて、そんな無謀とも言える契約をまとめた功労者が、ナイキのバスケ部門に所属していたソニー・ヴァッカロである。アメリカではよく知られた人物なのか、映画の中では彼の経歴がちゃんと説明されるような場面はないが、劇中の様々なシーンで情報が小出しにされていく。ナイキのCEOは彼を「バスケの師(グル)」と呼んでおり、とにかく高校バスケに関する知識が深い。優れた選手を見抜く目に信頼が置かれているようだ。また、そのCEOとのやり取りから、創業当時からナイキに関わっていたという感じがする。細かなことはよく分からなかったが。また、顔が広い人物だろうから当然かもしれないが、マイケル・ジョーダンの代理人とも知った仲であるようだ。仲はとても悪そうだったが。

さてこのように説明されると、ソニーは優秀で才能ある人物みたいに感じられるだろうが、映画での描かれ方を見ていると、とにかく「組織に馴染まないタイプ」である。CEOと古い仲だからこその関係性なのだと思うが、ソニーはCEOの言うことさえまともに聞かない。また、冒頭で描かれる会議では、「25万ドルを3選手に振り分ける」という方針で話が進んでいたにも拘わらず、彼が「マイケル・ジョーダンに25万ドルをつぎ込む」という博打に打って出る決断をするのだ。状況的に、もしジョーダンと契約が出来なかったら、バスケ部門は解体である。そうなれば、彼だけではなく、バスケ部門の社員全員が失業することになるはずだ。そんな無謀な賭けに、独断で突き進んでいくのである。ホント、契約できたから良かったものの、そうじゃなかったらと思うと恐ろしい。とてもじゃないが、まともな組織では扱いきれない存在だろう。

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